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SFマガジン1980年1月号
SFマガジン1980年1月号


非O Null-O / フィリップKディック 訳:望月二郎のあらすじ
初出 If(1958.12) 原稿到着1953 短編 第48作

「もう限界だ!レミュエルを、『丘』に連れて行こう!」
「待って!ラルフ、私達の子供は、あの子しか、いないのよ!」

「でも、あの子は特別だ。いつも、非力な動物を切り刻み、殺す。学校の先生をナイフで滅多刺しした事もある!
   そして今日も...あいつは異常なんだ!」


ノース博士がゆっくりと、近づいて来たのが、レミュエルには判った。こう言う奴らには注意が必要だ。

「レミュエル君。少し教えてくれないかい?調査結果を読むと、大変、興味深いね。君があの年取った浮浪者達を、
   縛り上げ、解剖したのは、科学的な好奇心からと言う事だが、間違いないかね?」
「ええ」

「しかし、その説明を、誰も理解出来なかった。どうしてか、判るかね」
「ある程度はね」

「それに、隣のクラスと野球の試合になった時に、君は、相手の選手を、バットで、次々とぶん殴った。
   これは傑作だね。見たかったよ」
「....」

「いや、失礼。私は、その事で、君を捕まえて殴った奴らとは同じじゃない。もっと君の事を理解している」
「僕は、あいつらが、勝手に決めているルールが現実には無意味だと、見抜いたんだ。ボールを遠くに
   飛ばせば勝ちなんて...まるで、無意味だ。だから、もっと現時的な行動を取ったんだ。合理的な...
   でも、それは道徳とか倫理と言ったものとは...」

「なるほどね。君は全てを判っている...まあ、ともかく、これからテストをするからね。ロールハッシャ、
   ベンダー ゲシュタルト、ウィージャ盤...幾つかのテストさ」


「う〜ん。これは驚いたな。いや...間違いないだろう...レミュエル。君は、間脳視床に関する感情が完全に
   排除されている。言い換えれば、完全に合理的で、道徳や文化的偏見からは全く自由と言う事だ。別の見方をすれば、
   他者に感情移入する事ができない、完全な偏執狂だ。ま、これは、通常の人間からの見方だが...」
「その通りです」

「しかし、人間の価値体系からは完全に自由な超論理の持ち主とも言える...これまで、偏執狂は精神病として
   扱われてきた。しかし、それは間違いだ。偏執狂は、現実と直接的に向き合っているのだ。通常の人間よりも、
   遙かに合理的だ...」
「そうです」
「でも、私は、君の協力者になれそうだ...君を理解できない両親から離して、君の才能の手助けをする事もできる...」


「レミュエル。君の非O理論について、僕に説明できるかな。非物体定位の原理が、理解できていないんだ」
「僕らの周りの物体には全て名前が付いている。椅子とか、机とか。でも、そんな区別は人間の都合であり、
   言葉による区別なんて無意味だ。宇宙は一体なんだ」

「実例を見せて欲しいんだが...」

レミュエルは部屋の中の物を、集めると、バラバラに打ち砕いた。
「これで、物体の恣意的な区分は終わった。事物の根本的な実在は、不連続な粒子じゃなくて、同質の巨大なエネルギ−の
   渦なんだ。人為的な物質存在の下にある未分化の領域こそが、物体の真の実在さ」

「ふうむ。真の実在の復権と言う訳か。君に合わせたい男がいる。おそらく、君の仲間だ」


パロワルトを望む研究所に、その人物ウェラー博士はいた。
「非Oですか...私の仕事は水爆、つまり『H爆弾』のコバルト版『C爆弾』の開発だ。我々の仲間には、非Oはたくさんいる」

シミュエルは、驚いた。
「ロケット、原爆、H爆弾、C爆弾。これが我々の成果だ。もちろん、アインシュタインのような
   非Oの視床的偏見を持った科学者もいるが、我々は強大だ」

そこを歩く白衣の男女。レミュエルには、彼らの中の仲間達が、判った。非Oのミュータント達には、
互いの空気の振動が感じ取れるのだ。

「C爆弾は完成しているのですか?」
「ああ、我々の研究は、既に次の段階に進んでいる。E爆弾だ。Earthそのものが、原子炉となり臨界質量に達するのだ」

「素晴らしい!地球が等質な質量に還元されるなんて!」

「その段階で、我々は宇宙へ進出する。そして、計画は進められる。V爆弾は、Venus=金星を質量還元し、
   最後の段階のS爆弾はSolar=太陽系を均質化するのだ。巨大のゲシュタルトへと」

1969年6月25日。
非O人員は世界の主要国の実質的支配権を手中にし、非O計画は、もはや秘密裏の計画ではなくなった。
衛星上の軌道からH爆弾が投下され、北米と東欧が姿を消した。その他の国にも放射能雲が押し寄せた。

「完璧だ!」
一週間もしない内に、C爆弾が、その他の地域へと降り注いだ。

地球の人口は3000人になった。
1969年の8月5日の事である。

「さて、これでE爆弾の建設が始められる」


ペルーと反対側のジャワ島に、起爆装置が取り付けられた。
非O達は、熱心に働き続けた。

既に地上にあるのは、灰と金属炎ばかりで、全てが一つに溶け合おうとしていた。
その純粋な美しさ。等質化。純粋だ!

「確かに、地上は、等質化された。しかし、この地球を一皮めくれば、その中はOの塊だ。E爆弾で、これを非O化するのだ!」
「完全に論理的だ」

「そして、次はS爆弾。その次は、G爆弾、Galaxy。最終的にはU爆弾だ。非Oの究極の姿....」


「ウェラー博士!まずい事になりました」
「少なくとも1万人以上のOが生き延びている!我々非Oは千人なのに」

「どうして、奴らが生き延びることが出来たのだ?我々は、それを妨げる政策を行って来た!」
「奴らはOらしい狡猾な貪欲さで、戦争が始まった時に、地下へ逃げ出したんだ。そして、戦争後に奴隷として仕用する目的で、
   一万人以上のOを、地下へ隠した。それが、兵隊となり、今、我々に対し攻撃を始めた!」

その話も、終わらぬ内に、非Oの研究施設に、四方からトンネルが穿たれた。
非O達は、ありふれたO達、最低の人生を送って来た者達に襲撃された。
店員、バスの運転手、日雇い労働者、タイピスト、ビル管理者、仕立て屋....

そんな平凡なO達が、『偉大な事業』に反旗を翻した。超論理を打ち倒すために。


「逃げろ!奴らは動物だ。感情に支配され、論理的に物を考える事のできない、けだものだ!」

ウェラー博士達は、宇宙船で乗り込み、仲間たちと逃げ去った。


戦っていたレミュエルは、電気技師の振り回す熱線銃に足を打たれ、身動きができないままだった。

既に宇宙船は飛び立ってしまった。
レミュエルは宇宙船に、心を合わせた。
遠く離れる宇宙船から、言葉が聞こえた。

「...さようなら。君の事は忘れない...」
「頑張って下さい!事業を継続して下さい」

「...我々は、必ず成功する...」
レミュエルは満足の微笑を浮かべていた。そこに、O達が止めを刺しにやって来た。


..............

ディックの長編小説の中に、地球を破壊するマッドサイエンティストが出てきます。
米ソの冷戦の結果としての核戦争ではなく、人類を滅亡させる事自体を目的とした主人公の話の方です。例えば...
怒りの神(Deus Irae)、ブラッドマネー博士(Dr BloodMoney)、アルベマス(Radio Free Albemas)、あとは、アルベマスの改編版と言って良い、
Valis系の作品群...などです。

この非Oを読んで置くと、彼らの思想がコンパクトに表現されていて、他の長編が判り易くなると思いますが、いかがでしょう?

記:2011.12.28


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三分 小説 備忘録

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