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まだ人間じゃない (1992)早川文庫
まだ人間じゃない


運のないゲーム A Game of UnChance / フィリップKディック 訳:浅倉久志のあらすじ
初出 Amazing(1964.7) 原稿到着1963 短編 第89作

タークは農園に行く途中で、ビラを拾った。宇宙興行サーカスのものだった。

『流星エンターテインメントがお贈りする、魔術!フリークス!恐怖の離れ業!そして、美女!また美女!』

こりゃ!大変だ!とタークは思った。評議会に知らせなくては!
この前サーカスの船がこの地に訪れた時に、人々は、物々交換の名の下に、
貴重な品々と、がらくたを交換してしまったのだ。

まるで、『魔法』にかけられた様に...

彼らは娯楽に飢えていた。こんな辺境の星、田舎星。
やつらにとっちゃ、この上ないカモだ。

しかし、殖民星の暮らしは単調過ぎる。もっと、娯楽が、文化が必要なのだ!


「おーい!ヴィンス!また、サーカスがやって来たぞ!覚えてるかい?」

「ああ、覚えているとも、奴ら、俺のカボチャを根こそぎ取り上げやがった。もう見世物なんて、まっぴらだ!」

「しかし、あの計画を実行するチャンスだぞ」
「え?やるのか?」

「ああ、あの子の才能は本物だ。俺達はもう、何度も試した。今度は、サーカスに、仕掛けてやるんだ!」
「ああ、でも、あの子は本当に当てになるのか?裏切ったら、どうする、
   自分だけ良い目を見て、奴らと一緒に逃げ出したら...」
「俺は信じている!」


「しかし、ターク。奴らも警戒しているに違いない。超能力者を使って、奴らを出し抜こうとした
   開拓村だって、あったはずだ。サーカス団は、例の『反能力者』を持っているかも知れん。
   フレッドの念動力に対し、反念動力者を...」
「フレッドなら、やれるさ」


トニー コスナーは息子に聞いた。
「フレッド、できるのか?自信がなければ、そう言いなさい。無理にやる必要はない」

フレッドは、遠くを見ていた。
そして、岩を持ち上げると、高速で飛行させ、草の上に落下させた。

「大丈夫。あいつらには負けない。何度も練習したんだ」
「そうか...それなら、彼らの中にある宝物を見極めないといけない」

トニーとフレッドは組み立て中の、サーカス一座の見世物小屋を回った。

ビンゴ テーブル。ヌードショー。射的...そして、あの匂いを感じた。
(この辺りに、超能力者がいる!)

標的になったフリークを、的にするゲーム。そこには、超能力者がいる。奴らも、絶対に負けることは
できないゲームなのだ...しかし、フレッドは、驚いた。標的のフリークには、頭がなかったのだ。

目、耳、鼻、口。それらは、本来あるべき位置にはなかった。例えば、口は、お腹にあった。
しかし、彼は、人間としての尊厳を持っていた。
フレッドは、その姿に畏怖した。

こいつらは、何かを守っているんだ??それは、何だ...判った!
隣にある、何の変哲もない人形だ...これが...彼らが、守りたいものだ...


「フレッド!何か良い景品は、見つかったかい?」
開拓団のリーダー、レイだった。

「はい、この人形です。僕にやらせて下さい」
「よし、がんばれよ!」



レイは、苦労して、人形の背中をこじ開けた。
「す、すごい!」

中は微小の配線で一杯だった。ただの人形ではない。
極めて精巧な...もしかすると連邦政府のマイクロ ロボットかも知れない。スパイから外科手術まで、
何でもこなせる奴だ。しかし、どうやって起動する?国連に売り渡せるか...

こいつは、お宝だ!大成功だ!

あの時の、サーカス団の奴らの、慌て振りが目に浮かぶ!
当らないはずの射的に転げるフリークス。奴ら、いつも超能力で美味い汁を吸って来たんで、大慌てだった。

ざまあみろ!俺達は、出し抜いたんだ!


そして、こいつの起動スイッチを探した。
どこだろう!この、お宝を動かさないと...
「歩け!」

言葉で命令してもダメだ...どこかに、スイッチがあるはず...
お!あった、あった。ここだ。
こんな所に隠してあった...ふふふ、さて、止めるスイッチはどこだ?
これだな...よし、早速、始めてみよう...


レイは気がついた。ベッドの上だった。
そうだ!
起動した人形は、レイめがけて、光線を撃って来た。そこで意識は...

「に、人形だ!俺の部屋に人形はなかったか?おれが攻撃して来たんだ。すぐ探せ!」

「人形は全て無くなっていたよ」
「何だと?ちくしょう!俺達は2年連続して、騙されたんだ!今度は勝ったと思ったのに...」


トニーは農園を耕していた。
その時、何かが動くのを見つけた。きっと火星ネズミだろう。作物の根をかじる奴だ。
トニーはそれを叩き潰した。そして、気がついた。

(この首輪は何だ?それに、首輪から頭へつながっている電線。これは誰のいたずらだ??)


レイは、ネズミを解剖していた。
「超小型通信機だ!ネズミは誘導されていたんだ。恐ろしい首輪だ。おそらく快感と苦痛の
   感覚器とつながっているのだろう。ネズミはコントロールされているんだ」
「ともかく、俺達には扱い切れん。しかたない。国連憲兵隊を呼ぼう」


「レイ君。君達は、彼らから、とんでもない『お宝』を奪い取ったんだ。究極の絶滅兵器だ。
   その地の生物を兵器に変える、とんでもないロボットだ。残念ながら、この地は汚染された。
   アルシン ガスで殺菌する必要がある。住民を、全員避難させるんだ」
「家畜はどうするんですか。家畜を死なせる訳には行きません」

「家畜も非難させたらどうだ」
しかし、憲兵隊長の目は、やっかい事を巻き起こした、うすのろの田舎星の人間には冷淡だった。

首輪をつけた家畜が次々と見つかった。その家畜たちは射殺された。
通信機。今度の奴は遠距離用だった。奴らは、その電波を宇宙船の中で拾っているはずだ。


「...だから、トニーの所の息子のせいだと、俺は言ってるんだ!」
「フレッドは悪くない!やらせたのは私だ。責任はすべて、私にある」

「しかし、これで俺達の独立性は損なわれた、これからは、何をするにも、国連の了解が必要になる」
「ともかくアルシンド ガスがもうすぐ撒かれる、全員、退避させるんだ」


フレッドは当てもなく荒地を歩いていた。
(僕のせいだ!僕のせいだ!僕が間違えなければ!)

遠くからスピーカーの声が響く。
『30分以内に、この声が聞こえる地帯から撤退せよ!』


ガスが撒かれた後には、国連兵士がやってくる。そしてマイクロ ロボットを狩り出す。
でも...もう、元には戻らない。国連兵士が来る前に、ロボット達を捕まえられないか??

森の中で、フレッドは動くものを見つけた。それは光った!
ロボットだ!

フレッドは念動力で、それを押さえつけた。フレッドが駆けより、ロボットを掴むと、
「それを離してちょうだい」

声の方を見ると、女がいた。
あの見世物小屋にいた女だった。そして、その後ろには、宇宙船が見えた。


「あら?あの時、大勝ちした坊やね?サイモンを16回も水の中に落とした子。
   うちの超能力者が、あなたの力は強力だと言ってたわ。私達の仲間にならない?」

「ならないよ!それにロボットを回収しようとしに来たんだな。でも今更、
   隠しても無駄だよ。あんたらがやった事は、もう国連が知っている!」
「回収?せっかく貴方達が手に入れた物を取るなんて、それじゃ泥棒よ。
   私達は、貴方達にプレゼントをしに来たのよ。ほらね」

宇宙船の積荷は大量のマイクロ ロボットだった。それが、吐き出され、ロボット達は、八方に散った。


黒い軍服。国連秘密警察局。
「私はウルフ局長だ。これからは私が指揮を執る。君達は手の込んだサーカス団を出し抜こうとして
   騙され、とんだやっかい事を抱えて、我々に泣きついた。どうだね、どこかに間違いはあるかね?...
   そうか、判ってもらえたなら、話は速い。これからは、すべて私達の指導の下に、活動を進めて貰う」
「...我々は保護して貰えるのですか?」

「それは保障しよう。しかし、我々も忙しい。あのサーカス団の移動スピードは尋常ではない。
   わずか24時間の間に40箇所もの開拓団に、やっかい事を持ち込んだんだから」

「やつらの狙いは何でしょう?」
「考えるな!君達はそんな事を考えなくて良い。それを考えるのは私達だ。
   君達が考えても、欺かれるだけだ。まだわからんのか?」


トニーは運河を調べていた。夜明け、奴らは夜行動する。
ちょこまか走る小さい物!

トニーはレーザ銃を撃つ。
しかし、暗闇の中、土煙を上げただけだった。

また、何かの汚染物質を、ロボットが運河に投げ込んだに違いない!

近頃は、ロボットは開拓団の家の中にも、現われていた。
もう、おしまいだ。

トニーの頭の上を飛び立った星間連絡船が通過する。
今晩は、十組の家族が、荷物をまとめて地球に戻ると言っていた。

やがては、うちにも、その順番が回ってくる。
その前に、何とかしなくては...


その時、トニーの頭の上で轟音がした。宇宙船が降りて来る!。明るい光。
連絡船ではない。まるで、まるで、流星サーカスの船だ...

着陸した船の上には、こう書いてあった。
『六星系娯楽団!面白さ保障付き!』

別の巡業サーカス団だった...


「サーカスがやって来たぞ!別の奴だ!」
「もう、まっぴらだ。あんな奴らとは拘わりたくない!」

誰も、集まらなかった。

最初は。

やがて、ポツポツと客は集まりだした。


「僕も見に行きたいです」
フレッドはレイに頼んだ。
「良いだろう。しかし、もう奴らを出し抜けるとは思わん事だ」


フレッドは、サーカスに行って驚いた。この前の、頭のない奴より、もっと凄い奴がいた。

胴体がないのだ。頭だけの人間。それが、転がり、動く。投げられた食べ物を
咥えて、食べる...食べ物は、どこへ...行くのだ...

「さあ、騙されないうちに帰ろう」
レイはフレッドに言った。しかしフレッドは吸い寄せられる様に、輪投げの小屋へと入って行った。


中年女が、フレッドを見て笑った。
「輪投げだよ。あれに入れたら、商品が貰えるのさ」
ゲームは簡単そうに見えた。しかし、仕掛けがあるのだ。

そして、賞品は...
「何かの機械の様だが...」
「僕には、あれが何か判ります...」


「だんなさん、輪投げをやるかね。賞品は便利なものさ。自動罠だよ。仕掛けておけば、
   自動で動いて、いたずら者を、捕まえてくれるんだよ」

レイの目が光った。
「俺達には、あの罠は少なくとも200台は必要だ。それには、村の財産のかなりを賭けなくちゃ
   ならない。しかし、あれがあれば、村は全滅せずに済む...フレッド、どうだ?勝てそうか?」

「うん。勝てそうだよ」
フレッドは感じた。相手にも念動者がいる。でも、まだまだだ。準備が足りない。
先手を打てば勝てる。相手が万全の準備をする前に...今がチャンスだ!

こんな事を前にも経験した気がする。でも、今は絶好のチャンスなんだ!

..............


ええっと、すごい話ですねえ。まいりました。

まさに、『お話』のような...話...あれ?なんか変だな??

でも、これに、騙されない奴なんて、いるんでしょうか?
私も、騙されますね。確実に

フレッド!レイ!君達は、ひとりじゃないぞ!


記:2011.12.08


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三分 小説 備忘録

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