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ウォー ヴェテラン (1992)現代教養文庫
ウォー ヴェテラン


ウォー ヴェテラン War Veteran / フィリップKディック 訳:仁賀克雄のあらすじ
初出 If(1955.3) 原稿到着1954 短編 第80作 (別邦題:歴戦の勇士)

老人は公園のベンチに座っていた。
子供達が走り回り、カップルは芝生で寄り添っている。
そして、洗練された動きのロボット庭師が、草取り、枝刈りをしている。

老人はこの季節には相応しくないコートを着ていた。それもボロボロ。

すぐそばに若い兵士達が座った。ランチボックスを開き、談笑しながら食べ始める。
老人の喉が鳴った。

「...き、君達は...選抜チームか?」
「いや、ロケット乗組員だ」

「そうか。わしは爆破班だった。昔のBa3分隊だ」
「ふ〜ん」

兵士達は、別の話を始めた。その視線の先には、数人の娘達がいた。


老人は、ベンチを立って、兵士達に近づいた。
「これが俺の誇りだ。クリスタルディスク、87年度だ。君達の生まれる前だろう」

「え??最高勲章じゃないか!これを、あんたが?」
「ああ、俺はアンガー。ネイザン ウェスト将軍の旗下、『風の巨人』号の一員だったのだ。
   そして、あの通信網破壊工作に参加した...そして...」

「...悪いけど、生まれる前の事は良く知らないんだ...」
「そうだな。60年も前だ。ただBa3は数ヶ月持ちこたえた。その間に...」

「悪いけど、ごめんな、じいさん!」
兵士達は、娘達の下へ走っって行った。


老人は、元のベンチに戻り座った。
誰も覚えていない。俺の事、戦争の事。あの苦労、恐怖、勇気...それらは、誰も知らないのだ...


『強い地球!』『奴らとの交渉など無駄だ!』『妥協者は裏切り者だ!』『行動あるのみ!』
通りではデモ隊が気勢を上げていた。

車で通行中だった、医師のラマールは尋ねた。
「イヴリン?こんなにデモは多いのか?」
「そうね。学校をさぼった子供達。無職の若者。デモ要員は増えるばかりね」

そして、デモ隊の象徴の大きなプラカードに貼られた、ハンサムな男の写真を見た。
フランシス ガネット。

「ガネットとそのグループは、太陽系の貿易利権を占有している。火星人や金星人が、
   そこに割り込んで来たら、奴らには大きなダメージだ。それで、奴らは、デモを操作してるんだ」

「デモの一部は暴徒化しているわ。昨日も反戦表明をしている店舗が襲われた。でも警官は
   見ているだけ。そして先頭の奴らはガネットの会社のゴロつきども。休日出勤してる訳よ」

その時、ラマールは気づいた。デモの先の人だかり。その中央から逃げられないのは金星の娘だ。
「水かき女を捕まえろ!」「水かき達は、自分の星へ戻れ!」

ラマールは車で人混みを分ける。それから、車から出て、娘の体を抱えると、車に飛び込んだ。


「もう大丈夫だ。ほら彼も仲間だ!」
ラマールは同乗していたスティヴンス医師の水かきを指差した。
「この町は危険だ。君を私立病院に匿ってあげよう」


「彼女が襲われても、地球人は助けようとしなかった」
「みんな、トラブルを恐れているのよ。行動が出来ない」

「しかし、こんな事では地球を離れた方が良い」
「しかし、いつまでも、こんな事は続かないよ。いつか、ガネットののっぺり顔が泣く日が来るさ」

「スティーブン、『のっぺり顔』はやめろ。それは地球人に対する侮蔑の言葉だ。『水かき』と変わらん」
「結局のところ、金星人とは言っても、20世紀の末に金星に移住しただけで、元は地球人なのに」

「実は、奇妙なものを手に入れた。今日、病院に申請された退役軍人の診療許可だ」
地球人パターソンは、金星人のスティヴンスにメタルフォイルを見せた。

「退役軍人の何処が珍しいんだ?」
「始めはミスだと思った。しかし、調べると本物だった。とても変わっている。その身分証は、ボロボロの
   古いものだ。しかし、そこに記載されている番号は、まだ発行されていない。未来のものなんだ」


「水かきだ!カラスもいる!助けてくれえ!誰か!力を貸してくれ!」
歩いている金星人と火星人に、杖を振り上げて追い払う老人。アンガーだった。

トラブルを聞きつけ、警官がやって来た。
「お前ら、白昼堂々、水かきやカラスを、うろつかせるとは、どう言う事だ!
   まったく、お前ら、反差別主義者は腰抜けの売国奴だ!」


「アンガーさんどうぞ。私はパターソンです。あなたの申請書について、幾つか質問させて下さい」
「ようやく申請できたかと思ったら、ここは、随分とのんびりしとるんだな。前線とは大違いだ」

「では、まず質問させて下さい。何歳ですか?」
「89歳」

「何年生れでしょうか?」
「2154年だよ」
(15年前??)パターソンは、何食わぬ顔でメモを続けた。

「所属は?」
「Ba3だ」

「何年、軍に勤務しましたか?」
「定年までだ。66歳。それから、またお呼びがかかった。それで、ようやく先週お役ごめんになったんだ」

「奴らのCミサイルで、地球が廃墟になるまで、俺達は戦った。それから月に逃げた。5年間。
   奴らが着陸して来るとゲリラ戦で戦った。それから3−4−5−9だ。天王星の人工基地。5万人の地球人。
   そこが奴らの工作部隊に破壊された。その時も間一髪、逃げ出せた。
  
   だが、多くの住民は...
   しかし、ここのような素晴らしい人工基地があったとは、何も知らなかった。人口は多く、物資は豊か。
   これなら、もう一度巻き返せる。しかし、町の中の水かきと、カラス、ありゃ、一体何の真似だ。
   なぜ、堂々とスパイさせるのだ?」

「...わかりました。あなたの記録は全て照合されました。無料診療が出来ます。素晴らしい経験を
   お持ちですね。色々伺いたい事があります...では、戦争について、始めから、教えて頂けますか?」


「...つまり、彼は退役軍人だ。これから始まる戦争の。地球と二つの植民地、金星と火星との戦いだ。
   アンガーは、それに最初から最後まで参加している。戦争の結果、地球人は負け、一掃されるんだ」

パターソンは金星人スティヴンスにそう言うと、窓から外を見た。
1000万の大都市。その向こう30億の人々。野心的な移住者は、金星や火星に移っている。
植民地からの資源で地球は一層、豊かになっている。そして、外宇宙への進出...
未来は明るい...はずだった。

「やがて、ここの全ては破壊され、放射能に汚染され住めなくなる。そして、月へ逃れるが、
   そこも破壊され、幾つかの小さな人工基地が地球人の住まいとなるのだ...
   アンガーはここを天王星の人工基地だと思っている...
   なあ、スティヴンス、戦争を止めなくちゃいかん。多くの人が死んでしまう」

「いや...もう無理なんじゃないか。地球人達は戦争に向かっている。不可能だよ」

「...スティヴンス...金星人の君に話すべきではなかったな...」
「しかし...それが歴史だ。戦争は長くつらいものになるだろう。しかし、我々は勝つんだ」

「この事を知った君を、殺す事だって出来るんだぞ」
「ああ、でも未来は変わらない。さっきの君達のスローガンを覚えているかい
   『妥協者は裏切り者だ!』よ。君達は手遅れなんだ」

「君も手遅れかもしれんぞ。君をここから出す訳にはいかん」
「だめよ!」

金星娘ラフィアだった。冷凍銃の先をパターソンに押し付けた。
「いいぞラフィア。パターソン、君達は戦争に向かうんだ」

パターソンは跳んだ。ラフィアの銃はパターソンの顔をかすめた。

ラフィアが隠れたパターソンを撃とうとした時、その騒ぎに、警備兵士がやって来た。
兵士達は、ラフィアめがけ、冷凍銃をを撃った。

冷気がラフィアを包んだ。ラフィアは苦しさに、手を虚空に伸ばした形で、氷柱になった。
そして、爆発し、粉々になった。


貿易会社社長のガネット、ネイザン ウェスト中尉と共に、スクリーンを見ていた。

「...これじゃ、使いものにならん!」
映っているのは地球最大の巨大戦艦、嵐の巨人。しかし、今、原子炉の一つは破壊され、
砲塔は崩れ、船体には大きな亀裂が走っていた。

「2187年、この宇宙船が破壊される時の司令官は君だ。エネルギー旋風が巻き起こり、防衛網は麻痺する。
   そこを火星の宇宙船団が通り抜け、地球は無防備にあんる。Cミサイルは降注ぎ、地球軍は壊滅するんだ」

「これが、戦争の結果ですか?信じられん」
「得られたのは、断片的な画像だ。アンガーの強い印象に残った場面だけだ」

「ドクター ラマール。あの場面を...」
ラマールが操作すると、スクリーンは廃墟を映し出した。地球だった。
放射能の灰、弾孔だらけの大地。人々が住んでいた大地は、焼け焦げた燃えかすだった。

「他に、この事を知っている人間は?」
「スティ−ブン医師は精神病院に監禁されています。ラフィアも死にました」

「それから、アンガー...そうだ!アンガーは何処にいる?彼の知識を使えば、未来を変える事が
   できるかもしれない。彼が自分の人生を振り返る。そこには、戦争での失策が、何かあるはずだ」


アンガーが公園のベンチに座っていると、アイスクリームを持った兵士がやって来て、横に座った。
「いい天気だね」
「ああ...あんたロケット乗組み員かい?」

「いや、破壊工作員だ。Ba3分隊」
今日はウェスト中尉は、いつもの肩章を変えていた。

「そ、そうか?わしもBa3分隊だったんだ。あんたが生まれる前の事だが...
   なあ、これを見た事があるか?」

アンガーはクリスタル ディスクを出した。
「???...す、素晴らしいですね」
「俺の誇りだ」

「あなたが戦っていた頃は、地球は負けていたんですね」
「ああ、そうだ。地球が破壊され、我々は逃げるだけだった」

「その頃、どうやったら、勝てたと思いますか?例えば、司令官が別の人だったら...」
「ネイザン ウェストに勝る司令官はおらん。誰がやっても、上手くはいかん。
   敵の戦力は、我々の5倍だったのだ」

「しかし、勝つ方法が、必ずあったのでは?」
「いや、無理だ。両軍の配置図を書こう...これが、われわれの戦艦だ。
   そして、カラスはここ。水かきはここ...いや、こんな話は退屈ではないかね?」

「いえ、興味があります。続けて下さい」
ウェスト中尉は、超小型記録カメラの調整をしながら、そう言った。


「どうだった?」
「アンガーは戦争の詳細を記憶しています。戦争のきっかけが判りそうです。5隻の宇宙船団。
   カラス艦隊の燃料。護衛なしの船。そして我が方の斥侯のミス...これらの詳細が判れば、
   奴らの出鼻をくじく事ができます...奴らの船団のルートが判れば、逆に、地球が勝てるのです」


「ガネットは金星への旅行を計画しているわ。火星と金星の仲を裂くつもりなのよ」
「平和と妥協か」

「ところでアンガーは現れた?」
「まだだ。しかし、彼は今15歳。そろそろ、兵役登録に現れる頃だ」


スティヴンスは精神病室のベンチに座っていた。部屋の施錠を調べていた。
溶接のしてある電線をたどり、開閉器を探す。
役に立ったのは手術用の小型ロボットハンドだった。いつも右手から離さないものだ。

ロボットハンドの人差し指は錠孔の中を進む。そして、電極を探しあて、スパークさせる。
錠は開いた。


警備員はいない。スティヴンスは上階の眺望窓に行った。
途中で麻酔銃を入手すると、何食わぬ顔で元の病棟に戻った。


やがて、部屋の扉を開ける音がした。ロックを解除している気配がした。
(ロックは開いているのに...)

入って来たのはドクター ラマールだった。スティヴンスにブリーフケースを渡した。
「現金、身分証、パスポートだ。私と一緒にここを出よう」

「君は裏切り者になるぞ。いいのか?」
「君は金星に戻って、彼らに戦争の事を伝えろ。ただし状況が変わった。ガネットは、戦争の結果を
   変えるために、不意打ちによって、戦争を開始するつもりだ。それに対する備えをするんだ」

「君の言う事は判るが、未来を変えるつもりはない」
「どう言う意味だ?うっ...」

ラマールの体は崩れ落ちた。スティヴンスは麻酔銃で意識を失ったラマールの頭を調べた。
(大丈夫だ。頭痛がするくらいで、すぐに直る...)
スティヴンスは逃げた。


「アンガーさん。もう一度思い出して下さい」
「...今ので、全てだ。何しろ、何十年も前の事だ」

30分以内に、もっと重要な情報が欲しい。
船団はガニメデを飛び立った。しかし、コースを外れ消えた。消えた先は、エウロパか、カリストかも知れない。
しかし、アンガーが覚えているのは、事態が判明する前の、不明確な情報。はっきりした情報が必要なのだ。

「すまない。あんたの書く戦史の本に、私の名前は載るのかね?」
「勿論です。ぜひ正確で詳細なデータをお願いします」
「判った。時間をくれ。落ち着いて考えれば、全てを思い出せる。うっ、うっ、ゴホゴホ...」

アンガーは死にかけていた。それは誰の目にも明らかだった。
乾いた肉が、骨にへばりついている。それが今のアンガーだ。

「星図を見せたらどうだ?」
「もっと優秀な医者はいないのか?」
「ラマールもスティヴンスもいない」

「イヴリンはどうだ?」
「彼女も、この件には関わりたくないそうだ。それにアンガーのカルテには赤マークがあった...もう、長くない...」


「パターソン!あの番号が兵役登録が発行されたわ。まだアンガーはこの辺りにいるはずよ」
「よし、通路を閉鎖し、この番号の少年を連れて来るんだ!」
すぐに、ロボット警備員は一人の少年を連れてきた。

「僕に用事ですか?ドクター。僕を兵役から締め出すつもりですか?」
「(金髪?)君の名前は?」

「バート ロビンソンです」
「(アンガーじゃない!)いや、勘違いだったようだ。もう、帰って良いぞ」
「よかった!水かきをやっつけてきます!」


「もう一度、人口調査局で、アンガーについて調べろ!気になる。それからアンガーはどこだ?」
「今、ガネットが尋問中です」

パターソンは、ガネットの元へ急いだ。
ウェスト中尉とガネットが、疲れ果てた老人を左右から抱きかかえて、歩いて来るのが見えた。


近づくと、パターソンと彼らの間に、ゆっくりと歩いて来た者がいる。その腕には何かが握られていた。

パターソンは叫んだ。
「危ない!逃げろ!」
ウェスト中尉とガネットは、その声に気がついた。
パターソンはその男に飛び掛ろうとした。

しかし、男は、ガネット達に向かい、銃を放つと、そのまま逃げて行った。

アンガーの掴んでいたアルミ杖は、溶けて崩れた。アンガー自身も青い炎に包まれ、燃え出した。
そして、ガネット達の目の前で、黒焦げになって行った。


「スティヴンスだ!」
「ガネットが死んでしまった!我々は手がかりを失った...」

ガネットは、もう黒焦げの炭になっているアンガーの体を蹴飛ばした。
パターソンは、その死体の欠片をそっとポケットに入れた。


「...つまり、人口調査局には、デイビッドLアンガーなる人物は、この太陽系の住民の登録にはありません」
「彼は今、15歳のはずだが」
「しかし、ないのです。全ての資料を当りました」

「そうか、燃えた細胞組織の検査結果はどうなった?」
「はい、こちらです。良質なタンパク質ですが先天的な修復機能がありません。
   老いて行くだけです。これは人口生命体...傑作です」

「確かに傑作だ。我々は鮮やかに騙されていた。この件は内密にして欲しい。特にガネットには...」


パターソンの前にスティヴンスが現れた。堂々と、歩いていた。驚いた事に、肌が緑色ではない。

「君は?スティヴンスか?地球人だったのか?」
「いや、我々は、既に皮下注射によって、一時的に皮膚の色を変える事ができるのだ」

「アンガーを作ったのは君達か?ガネットがこれを知ったらどうする?」
「君達しだいだ。しかし、我々はやがていなくなる。別の星系へ移るのだ」

「では、このくだらん騒動も終わるのか?」
「ああ、我々は別の星系で、非人類と会う。
   彼らを見たら、地球人も、娘が緑肌の金星人と結婚する事を喜ぶかもしれない。
   非人類の中には、肌すらないものもいるだろうからね」


..............

私は、この話が、恐ろしいのです。どこが恐ろしいかと言うと、
(まだ、ここで紹介していませんが)ディックの有名の小説の一つ、IMPOSTER(邦題:にせもの)の中に出てくる主人公オーラムが、
この小説のアンガーだと考えると、このアンガーが灰になる瞬間の、描写の”軽さ”が悲しいのです。

私は、あそこを読むと、驚きよりも、『アンガーがあああ...アンガーがあああ...は、灰にいいいい...』
って、なってしまうのです。

...う〜ん、しかし、この文章、IMPOSTERを読んでない人には、全く判らんだろうな。(そっちが出来たら、こっちと一緒に、また読んでね!)

PS:なんかヴァンヴォウトっぽいです。後半の二転三転振りなんか、とくに。そもそもアンガーが非Aのゴッセンに似てる気がします。

記:2011.11.23

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