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ウォー ヴェテラン (1992)現代教養文庫
ウォー ヴェテラン


トニーとかぶと虫 Tony and Beetles / フィリップKディック 訳:仁賀克雄のあらすじ
初出 Orbit2(1953) 原稿到着1953 短編 第63作

トニーは朝、起きた。
プラスチック服を体に通す。

キッチンに行くと、緊急サイレンが鳴っていた。
まただ。今日のは、金星の前線からの、ものらしい。

父親は、ニュースに釘付けだった。トニーは独り言を言った。
「今日は、原住民地区に行きたいな。宇宙空港を作ってるんだ。原住民の友達と...」
「思った通りだ!だから、補給基地が必要だったんだ。それを作らずに置くから...」

「ねえ、ねえ。味方の艦隊は、ベラトリックスの支配権を持ったんじゃないの?」
「ああ、昔はね。今じゃ、オリオンWとXを放棄せざるを得ないそうだ。馬鹿にしとる!」


「戦争に負けるのかなあ?」
「地球人が、かぶと虫野郎なんかに負ける訳がない。しかしオリオンはしぶとい。かぶと虫の艦隊だらけだ。
   奴らの最後の拠点だからな。補給基地を作って、根こそぎ潰しとけば良かったんだ!」

「かぶと虫、って言うのは正しくないよ。彼らの本当の名前は、パス=ウデチだよ」
「なんだ?お前はあいつらの味方なのか?奴らの艦隊?笑わせるぜ。ただの改造貨物船だ。
   そこに、貧弱な武器。地球人が本気を出せば...」

「でもオリオンは元々、彼らの星系だし...」
「彼らの?お前、何時から宇宙法の権威になったんだ?奴らの主張など戯言だ....」


トニーはブーツを履いて、ロボットに言った。
「これから、カーネットに向かうぞ」
バスの方言混じりの言葉。このペテルギュースの土着言語。


この辺りまで来ると、周りはパス=ウデチばかりだった。
彼らは、オンボロのトラックに乗っている。今にも止まりそうなエンジン。


「坊主、どこまで行くんだ。乗せてやろうか?」
トラックの運転席からパス=ウデチが声をかけた。

「カーネットだよ」
「乗りな!」
トニーは助手席に乗り込んだ。トラックの荷台には、パス=ウデチが何人か乗っていた。


「ねえ、あんた達が戦争で勝ってるって、本当?」
この星は、100年前に平定された。ここにいるパス=ウデチは逃げ遅れた原住民達だ。

「ああ、そう言ってるな」
「パパは、供給基地の増強が必要だと言っていた。パパは元将校なんだ」
「.....まあ、君達は、随分と遠い故郷から来ているからな。でも俺達だって、物資は豊富な訳じゃない」

「あんた達の艦隊を見た事がある?」
「昔な。全滅しちまった。わずかな残りがオリオンに逃れて、オリオン艦隊と合流したそうだ」

「じゃあ、あんたは、100年前にも生きていたんだ!」
「俺達の文明は古い。地球より古い。しかし、地球の文明より遅れた段階で、進歩しなくなったのさ。
   エンジン、オーディオ機器、磁力線ネット、薬品製造...しかし、そこまでだ。文明は、それ以上を進歩しなかった」

「じゃあ、地球人が、戦争に勝つのかなあ?」
「坊主!ここまでだ。もう、降りろ。後は歩いて行け!」


トニーは、パス=ウデチだらけの街中で降ろされた。
雑踏、埃、オンボロ車の警笛。トニーは立ち尽くした。

「邪魔よ!退いて!」
女のパス=ウデチだ。女には、テレパシーとセックス アピールがある。地球人の男には魅力的だ。

「あんた、居留地から来たの?年は幾つ?どうして、こんな所にいるの?....ふ〜ん、なるほどね。
   あんたは、運転手に余計な事を聞きすぎたのよ。でも今日は悪い日だわ。危ないわよ。みんなが動揺してる。
   この星のパス=ウデチみんなが。おそらく地球人達も...」

「でも、僕は地球なんて知らないんだ。この星で産まれて、育った。ここが僕の故郷だ。友達だって
   パス=ウデチの方が多い。第一、パパとママの故郷、北アメリカはコバルト爆弾で破壊されて、
   もう住めないし...僕は、パス=ウデチの友達と、空港を作っているんだよ!」
「宇宙空港の模型の事ね。パス=ウデチと地球人との友好のシンボルよね...」

「そうだ。もうすぐ完成なんだ。それが...こんな事に...」
「うまく行くと良いわね。完成できるとね...」

トニーは路地を走った。ロボットも急いで付いて来た。


「え??トニー?今日は来ないかと、思ったよ」
「やあ!元気かい!」
トニーはパス=ウデチの子供達に声をかけた。

彼らは、地球人より小さく、殻はまだ柔らかい。大人の様に、動作が鈍くもない。
しかし、今日は別だ。みんな固まり、じっとしている。

「空港の模型を仕上げようよ」
「...うん...」

「どうしたの?みんな怒っているのかい?戦争なんて、僕達には関係ない!僕達の仲に
   何の関係があるんだ!戦争なんて、100年も前からあったじゃないか!」
「...でも、戦争だったんだ...」

「僕はここで産まれた。産まれてから、ずっと、戦争だった。今までと、どこが違うんだ?」
「だった、勝ったんだよ。初めて、100年間で、初めて。もう、変わったんだ...
   それに30分前の事を知っているかい?艦隊が地球軍を包囲したんだ」

「そうだ!でも、お前は、友達だから、逃がしてやる。早く行け!この『白い蛆虫』め!」

彼らは、逃げて行った。
トニーは一人取り残された。

『白い蛆虫』。一度、聞いた事がある。地球人に対する侮りの言葉。
堅い殻を持った彼らと、むき出しの白い皮膚をした地球人。

ロボットは辺りをスキャンし、トニーに危険の存在を告げた。
「判ったよ。もう帰る」
「トニー!」
開いた戸口から、走ってくるパス=ウデチの子供がいた。ププリスだ!

「トニー。今日は来ない方が良かった...」
「うん」

「長い付き合いだけれど、もう君はここに来れないと思う」
「誰のせいだ?」

「誰でもないよ。誰でも。でも、もう変わったんだ。うちの家族は思っている、
   もう君には来て欲しくないと。だから、家族が来る前に、先に伝えておくよ」
「わかったよ」

「全ては今日、起こったんだ。100年間で初めての事...
   だから、ここは僕達の星だ。君はもう帰れ!」


周りから、石が飛んできた。ロボットはトニーをかばいながら、逃げた。
パス=ウデチの群集が、トニーとロボットを追いかける。

トニーのヘルメットに石が当った。空気が漏れる。すぐに、保護シールドが復旧したが、
その僅かな時間に、トニーは外の空気を吸った。それはカブト虫の臭いがした。


トニーをかばうロボットに、大きな石が当り、打ち倒された。トニーは逃げる。
倒れたロボットは群集に踏み潰された。トニーとパス=ウデチの群集の距離は縮まる。

そして、その先頭の手がトニーの体に触れようとした時に、
トニーの頭上から、熱線が放射された。偵察ロケットだ!トニーを救いに来たのだ。


「悪かった。今日はお前を外出させるんじゃなかった」
救出され、家に戻ったトニーは無言だった。

昨日までの、パス=ウデチの友達達。破壊されたロボット。叫びを上げて迫ってくる群衆!

「昆虫どもめ!俺の息子を殺そうとしやがった。俺は許さん。奴らの最後の一匹まで、殺してやる!」

「そうよ。地球艦隊は逆襲しつつあるわ。このままでは終わらないわ」
「ああ、しかし、奴らも力を蓄えた。ゆっくりだ。ゆっくりと撤退して行くんだ。奴らの好きにはさせん」

「僕は、ここで生まれた。ここが僕の星だと思っていた。でも違ったんだ。僕達は、ここを彼らから奪ったんだ」

「トニー。これは戦争だ。負ければ、撤退する。しかし、そのままにはせん。今回は力を蓄えた、奴らの勝ちだ。
   しかし、ここと太陽系の間には、我々の住める星はたくさんある。力を蓄えて、いつか復帰するんだ。俺達は!」

..............

どうですか。黄色い蛆虫の皆さん。カブト虫退治の準備は、よろしいでしょうか?
デカイ奴( = BIG ONE : Randy Newman 唄うところの原子爆弾)を一発、お見舞いしに行きませんか?

しかし、どう聞いても、アメリカとヴェトナムの話にしか聞こえません。

まあ、善悪は別として、最後のトニーパパの発言は、蒙昧の様でもあり、含蓄のある言葉のようでもあり、複雑な感じです。

記:2011.10.11


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三分 小説 備忘録

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