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ゴールデン マン ディック傑作選3(1992)-早川文庫
ゴールデン マン


融通のきかない機械 The Unreconstructed M / フィリップ ディック 訳:友枝康子のあらすじ
初出 Original Science Fiction Stories(1957.1) 原稿到着1955 短編 第83作

その機械は大型のクラッカー箱くらいだった。それが壁を登っていた。
壁の途中で、エナメル板を押し付け、跡を作った。それから、細い繊維を出すとサッシの角に絡めた。

車が下を通る。その度に機械は動きを止め、車をやり過ごした。
目的の窓に着くと、偽足を出し、窓ガラスに穴を開けた。そして、中へと入り込んだ。

機械は、人間の毛髪を一本取り出すと、床に落とした。それには頭皮の小片も付けてあった。
タバコのカスを二片、こぼした。それから、内部の磁気テープが回り出した。
「うわあ!ちくしょう!」
機械は、しゃがれた男性の声を出すと、次の作業に取り掛かった。
クローゼットの中へ入ると、自動作動式の室内記録ビデオテープを破壊し、レンズ部に1滴の血を
吹きかけた。血は決定的な証拠だった。

入り口で音がした。機械は、次の準備にかかった。入ってきた中年の男、ハイミーは機械を発見した。
「何だ。こりゃ?」

機械は、弾丸を発射した。ハイミーは、脳髄を射抜かれて倒れた。
機械は、最大の遂行義務を終えた。後は逃げるだけだ。

しかし、入り口で音がした。
「ハイミーがやられたぞ!犯人は、まだ中にいるはずだ!」

ハイミーの頭の中には、生命反応装置が付いていたのだ。機械は逃げるチャンスを失った。
機械は棚の上に登ると、手足を引っ込め、テレビの姿に自分を変えた。


捜査官ルロイは、ハイミーの部屋を調べていた。
「おかしいな?あの短時間で逃げられる訳がない?窓の外にも隠れていないか?」
「ともかく、ここにはいないようだ。証拠の押収に入ろう」

ハイミーは奴隷商人のエージェント。世界を牛耳る闇商人の大物、チロルに雇われている。
奴隷輸送には、二大勢力がある。チロルの組織はその一つだ。


さらに捜査官が合流し、現場検証が始まった。
証拠は少しずつ見つかった。小さな血痕、髪の毛、窓枠の引っかかった服の繊維...

(これだけ証拠があれば、何とかなるだろう。しかし...何か...)
ルロイは思った。この科学的捜査に誤りはない。しかし、自分の "勘" が何かに引っかかる。

ルロイはおもむろにそこにあったテレビに手を伸ばした。そして、スイッチを入れて見る。
しかし、点かない。コードが差されていないのだ。

ルロイはこのテレビを証拠物件として、押収した。


警察官僚のアッカーズは、この事件を聞き、本庁へ急いだ。路上を歩いていると、いつもの変な奴がいた。

掲げたネオンサインには、『追放せよ』。
そして、時々叫ぶ、「全ての、悪人を追放せよ!宇宙の彼方へ!」

(まただ。最近、この手の奴が多い...)とアッカーズはうんざりした。
しかし、うんざりするほど、何故こんなにも、こいつを見るのか、については、気にしなかった。


「証拠固めは進んでいる。もうすぐ犯人も特定される」

第一の証拠で、対象犯人は、全人類の中の60億人に特定された。
ここに第二の証拠を加えると、対象犯人は、10億人に絞られた。
これを繰り返し、第十の証拠を加えると、犯人は7人になった。

それらを調べると、始めの人間は、現在プロクシマ在住、こいつは不可能だ...

結局、犯罪が可能だったのは、ランターノだった。
もう一つの奴隷輸送組織の大物...

犯罪者はガス室へ...今では、そんな野蛮な事はしない。犯罪者は、イオン化されて、遠方の星へ飛ばされる。
彼の行動は自由だ。その地で小作農になろうとも。ただし、元いた星まで帰って来ようと、思うと
その時は、生身の体で、帰らなくてはならない。残りの人生の大半を使う、必要があるのだ。


アッカーズは研究室の前で、組織の大物チロルと連れを、見かけた。
「チロルさん。今日はどうしました?」
「いや、落し物をしまして、探しているんです」
「それは、それは、見つかると良いですな」


「テレビの調査は進んだか?何が判った?」
「超硬ドリルも、レーザーもあいつの外装には効きません。地球外の超高圧下で精錬されたものです。
   今、対応研削具を頼んでますから、明日まで、待って下さい」

「お、おい!あれを見ろ!」
テレビを調査していた技師の後ろを、テレビが歩いていた。足を出して、そろそろと...
しかし、気がつかれたと判ると、高速で逃げ出した。


ルロイは思った。テレビ。あれがハイミーを殺したのだ。アッカーズの話だと、研究室の前に
チロルが待っていたそうだ。チロルはあれを回収したに違いない。奴はあの、装置に数々の
証拠を残させ、そして、最後に、あれを破壊する。

これは、チロルの仕業だ。ルロイには確信があった。しかし、全ての証拠は彼の商売敵、
ランターノを示している。捏造された証拠で...


アッカーズはランターノを逮捕した。

ルロイはバーに入った。そこにはガースがいた。あの「追放せよ!」と街で叫んでいる男だ。
ルロイはガースの近くに座った。ルロイの心にガースの声が広がった。

ガースはテレパスなのだ。人の考えを読み、また心に直接話しかける事ができる。
(金を貰っているから、あんたには全て話すよ。アッカーズはランターノを逮捕した。証拠は10点だ。
   有罪にするのに、充分な数だ)
(しかし、ランターノはハメられたんだ!)
{俺には関係ない}

「追放せよ!」
突然ガースが声を上げた。後ろを別の客が通ったのでカモフラージュしたのだ。
確かに、二人の男が、酒場でじっとうつむいているのは、不自然だ。
(本当の証拠はない。あるのはでっち上げの証拠だけだ)
(しかし、あの女は証人になる)
(女?いったい誰だ?)

(エレン アッカーズさ。アッカーズの奥さんだよ)

エレンはアッカーズと別れたがっていた。しかし、アッカーズは世間体から、それを認めなかった。
今ではエレンはチロルと親しくなっている。あの場にも同行していたのだ。


ルロイはチロルの家に行った。そこにはエレンがいた。エレンはルロイに銃を向けた。ルロイは、
その手の銃を叩き落とした。

家を調べると、バスルームに頭から血を流したチロルがいた。彼は気を失っていた。

エレンは、チロルと機械を押さえ、アッカーズに離婚を迫ろうとしていたのだ。
アッカーズは誤った者を逮捕したと言う証拠を持って。


機械はチロル事業の関連会社で作られたものだった。その地の地主のための防衛装置。
辺境の星の村。略奪者がやって来る。地主は自衛のために、奴らを殺す、時には正義でない
場合もある。その時機械は、動物の毛、骨、爪跡...そう言ったものを死体に残すのだ。

それを人間用に改造したのである。ハイミーだけを殺す用に改造したのだ。


エレンはルロイを錠前屋に連れて行った。フルトン錠前店。
その店の主。老齢の熟練工だ。

「彼に、ハイミーの家の鍵から、彼の神経パターンを取り出させたの。そして、機械に組み込んだ。
   そして、これを殺人機械にしたのよ。動物を撃つのと同じ様に。この機械は、普段は周りのものに
   溶け込むの。もしも、砂漠にあれば、これは岩かなんかに化けるのよ」

証拠品である神経パターン プレートを彼らは、錠前店から得た。

彼らの背後から、機械が近づいて来た。
機械は神経パターンに反応し、ハイミーがまだ生きていると、考えたのだ。

タバコのカスを二片、こぼした。それから、内部の磁気テープが回り出した。

「うわあ!ちくしょう!」
機械は、しゃがれた男性の声を出すと、次の作業に取り掛かった。
クローゼットを探し、1滴の血を吹きかけた。血は決定的な証拠だ。

そして、神経パターンに向けて、銃を発射した...


チロルは逮捕された。
彼は、どことも知れぬ。辺境の惑星へ飛ばされた。

気がついたのは、畑の中だった。
「あんたは、いったい誰だ?」
農夫がチロルに、声をかけた。

「...農産物検査官だ。この辺りを調査している...」
チロルは、ここはどこだ?と尋ねたかった。しかし、それでは、自分が流人である事が
ばれてしまう。その場合、最悪の場合は殺されてしまう。
チロルは、小さな宇宙港まで来た。
「どこか別の惑星系に行く便はないか?」
「ここにはないな。金星に行かなければ」

(き、金星?それじゃあここは、太陽系??)

いや、違うとチロルはすぐ気がついた。
辺境の惑星では、古代の太陽系のなごりがまだ残っているのだ。

第一惑星のの愛称は水星。第二惑星の愛称は金星...
簡単には、地球に帰れそうもなかった...


ランターノは部屋でくつろいでいた。
チロルも、もういない。これからは、奴隷輸送は、俺達のものだ。


そして、テーブルの上の桃に手を伸ばした。
地球産の桃。現代では、驚くほど高価な品である。

彼は、それを握る。それは蝋細工だった。彼ほどの金持ちでも、桃は高値の花なのだ。

しかし、いつかは本物をテーブルに並べる日がくるさ。


..............

この話は、たぶん長編を書くつもりでプロットを練ったのだと、思います。ですから、"追放せよ"の男とか、錠前屋とか、
良いキャラクター/アイデアが、ちょっと贅沢に使われています(錠前屋はまるで、ブレードランナーの眼球職人?)。

ブレードランナーと同じ年に公開された、「遊星からの物体X:The Thing」(ジョン カーペーター版)
の中に、首が歩くシーンがありますが、この話の途中のテレビが歩くシーンは、これを思い出させます。

P.S. しかし、金星のくだりは、しゃれていますね。こう言う所の作者の想像力は、素晴らしいです!

記:2011.10.14


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三分 小説 備忘録

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