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ゴールデン マン ディック傑作選3(1992)-早川文庫
ゴールデン マン


ふとした表紙に Not By its Cover (1968) / フィリップ ディック 訳:小川隆のあらすじ

オベリスク出版のマスターズ社長は、やっかいなトラブルを抱えていた。

「...ですからジョン ドライデン訳になる、ルクレーティウス著の『物の本質について』ですが、
   これには酷い誤訳があります。全体の主張とは、相反する文章に勝手に変えられているのです。これは
   すぐに訂正して貰わなくてはなりません!...」

この本は、装丁に高級ワブ皮を用いた、愛蔵書である。それを、刷り直すなど、大赤字だ!

『包括的歪曲偽造物品監視隊』と言う、地球政府のお偉方がは、マスターズ社長に、地球製の、
同じドライデン訳本を見せながら言った。

「いいですか、地球版はこうです。
   死。そこで、我々は痛みや苦痛から解放される。
   我々は存在しなくなる。大地が割れ、海が、いな鳴こうとも。
   我々に変わりは無い。

   そして、あなた方の『火星版』はこうです」

なんとか監視隊のおえら方は、嫌みったらしく『火星版』と強調した。

「死。そこで、我々は痛みや苦痛から解放される。
   世俗的な者には理解できないだろうが、死の先には広大な知の海がある
   現世の生活は、その後の永遠の生の先触れに過ぎない。

   これでは、著者の主張は、全く逆になってしまいます。至急、訂正を願います」


困ったマスターズ社長は、校正係に確認した。
「しかし、私が作ったゲラは、地球版と同じです。それにワブ皮ではない、初期の厚紙製本版も
   同じです。ワブ皮で製本されたものだけが、『変化』したとしか思えません」

ワブ皮??高級素材とは聞いているが、そりゃいったい、何なんだ?


皮革調達部の主任に聞いた。
「ワブとは火星の原生動物で、言うなれば死なない生物なのです。彼らが死ぬのは、まれです。
   それは、加工されても同じです。ワブ皮は、仮に傷ついても、自分で修復しますし、破れても
   勝手に直ります。この特質が、家具や本の装丁に相応しいのです」

「どうやって生きているんだ」
「空気中の微量な物質をキャッチして吸収するようです」

「よし、色々な本を、ワブ皮装丁して、並装丁品との差を調べるんだ!」


「実験の結果、色々と判りました。まず、トム ペインの『理性の時代』ですが、267ページ分が、
   白紙になりました。それらのページ、中央には、一言、『あっかんべー』と書かれています。

   そしてフロイトの『夢判断』には、序文が一行、
   『医者よ、まずお前が治る事が先だ』...」

「それに、こんな実験もしして見ました。『ワブは他のどんな生物とも異なり、不死である』
   そしたら奴らは、こんな風に変えました。『ワブは他のどんな生物と同じく、不死である』」


マスターズ社長は、部屋へ戻り、お気に入りの茶碗を、ワブ皮で包み、飛び乗った。
しかし! 茶碗には傷一つ付かない。ワブ皮の不死性のおかげだ。

彼は、弁護士を呼んで、遺言書を修正したい、申し出た。
「修正点はこうだ。私が死んだ後、棺の内装はワブ皮にする事。これは、遺産を受ける者の強制事項だ」

「はああ??そうすると何か良い事があるんですか?」
「来月出版される、『家庭の医学 ワブ皮装丁品』を見れば判るだろう」

そして、マスターズ社長は、棺の中の、自身の改訂版は、どんなものになるだろう
と考えるのだった。

..............

埋められちゃったら、どうするの??社長さん! そこんとこも、遺言書にはしっかり
書いといた方が、良いですぜ!不死なんだから!

記:2011.10.10


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三分 小説 備忘録

  [どんな落ちだっけ?]




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