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ゴールデン マン ディック傑作選3(1992)-早川文庫
ゴールデン マン


リターン マッチ Return Match / フィリップ ディック 訳:友枝康子のあらすじ
初出 Galaxy(1967.2) 原稿到着1965 短編 第105作

それは普通の賭博場ではなかった。大ロサンゼルス警察が、追い続けている宇宙人による、非合法な賭博だった。
奴らは巨大な宇宙船を着陸させ、その噴射口の真下に賭博台を置いていた。
もしも、警察の手入れが入ったら、奴らは、そのまま宇宙船で逃げ切るのだった。
噴射の際、賭博台はもちろん、証人となる客も、捜査官自身も、ジェットの一吹きで、
綺麗さっぱり、燃え尽きて、証拠を、何も残さないと言う、逃げ方だった。

ティンベイン捜査官は、奴らの賭博の証拠を得るため、3台のロボット捜査官を投入した。
3台あれば、1台くらい残りそうだ。


「我々は大ロサンゼルス警察だ。君達は...」
爆音と共に、宇宙船は去っていった。宇宙船の下にあった賭博場は、燃え尽きた。
しかし、2台のロボットが身を挺し、守ろうとした物があった。貴重な証拠品に違いない。

燃え尽きたロボットしかから出て来たものは...ピンボール台であった。 これに、どんな価値があるんだ??

警察研究所でティンベインはピンボールに興じていた。何時間も。もちろん、調査のためだ。
「ティンベイン!何かわかったか?」
「う〜ん。確かに、これは普通のピンボールではない」

「どこが違う?」
「まあ見てくれ。25セント銅貨を貸してくれ。後で返すから」

ティンベインが銅貨を入れると、ピンボール台は5つの玉をセットした。
「始めに注意しておくが、今の形状をよく見てくれ。このピンボール台は、実際の村を再現している。
   たぶん、奴らの故郷イオニアだろう。森、民家、公共施設、水路。そして道路...これらの形を覚えておくんだ」

「それが、何を意味する?」
「完全変位集合変数と言うのを知っているかい?まあ、無限の数の組み合わせだと思ってもらえば良い。
   村は、それに沿って変化するんだ」

ティンベインは一つ目のボールを弾いた。
「さあ、よく見ろ。始めの防御線はここだ。丘陵だ。ここを乗り越えなければ、玉は村を攻撃できない」
玉は丘陵を乗り越えず、脇に流れた。そこから、クッションに当り、方向を変え、
村落内へ進み、村落に脅威を与えた。ボールは回収口へ落ちた。

点が入った。
「プレイヤーが村落に脅威を与えると、点が入るんだ」

「もう一度、同じコースを狙う」
ティンベインは先ほどと同じ力、角度で玉を打った。

玉は、さきほどと、同じ軌跡を辿った。丘陵は乗り越えず、脇に回り、クッションに当たった。
しかし、今度は方向はあまり変わらず、玉はそのまま、回収口へ落ちた。

「失敗したな。しかし、惜しかった。完全に先ほどを再現したと思えたが..」

「再現したんだ。しかし、玉は別の方向へ流れた。これは、ピンボール台が変化したんだ。
   学習したと言っても良い。先ほどとは、クッションの向きが変わっている」

たしかに、クッションの方向は、先ほどとは変わり、当たっても村へ流れる向きではない。

「つまり、このピンボール台は、始めは勝てる。しかし、続けて行くと、台が、どんどん学習し、
プレイヤーの勝ちの割合はどんどん下がって行く。そんな、インチキ台と言う訳だ」

「なるほど。それで...?」
「それだけだよ。他には何もない」

「2台のロボットが身を挺して守ったんだ。それだけの訳はないだろう?」
「たしかに、もう一つ気になる事はある。報告書にも追記しておいたが、ここを見てくれ」

指し示す、村の中央には、カタパルトの様な箇所があった。
「ちょうど、玉の大きさの穴だ。いつか、こいつを使って、玉をプレイヤーに打ち返すんだ。
攻撃は最大の防御なり!って事かな」

「なるほど、始めは攻撃を受けているが、段々と、それを無効にし、やがては、
相手を攻撃する...カタパルトは何時ごろ完成しそうだい?」
「あと20ゲーム以内だな」
「よし!じゃあカタパルトが出来る前に、村を全滅させてやる!」
ティンベインはゲームを始めた。


10回目を過ぎると、ゲーム台は戦術を転換させた。これまではクッションはボールを外へ弾こうとしていた。
しかし、今度は逆に玉を中に入れようとしているのだ。おそらくはカタパルトへと。

「そろそろ危ないぞ。カタパルトは完成したんだ。それにこいつには頭長幅数(身長と頭の長さの比率)の
計測器がついている。脳波分析だったしかねない。つまり、台は人を特定できるんだ。こいつの攻撃の狙いは君だぞ!」

「わかった。しかし、一発目の攻撃まで、やらせてくれ。こいつのパターンは学習だ。一発目は当てずっぽうで来る。
そして、二発目で修正して、当てるんだから」

次の玉がは、タパルトの縁を通った。カタパルトから触手が出て、玉を捕まえようとしたが、ダメだった。
「こいつ、どうしても玉が欲しいらしい」

そして、最後の玉が、ぴったりカタパルトに進んだ。
「危ない!」
かわした、ティンベインをかすり、玉は奥の壁まで一直線に飛んだ。


「さあ、分解して調べるんだ。こいつが、何を学習したのか?」


ティンベインは思った。最後の玉の動きは、恐ろしく高速だった。当たれば間違いなく死んでしまう。
それに、一発目だと言うのに、完全にティンベインを捕らえていた。
彼が逃げる分の予測が、外れただけだ。しかし、次は修正して来る...

しかし、もう終わった事だ。電源は切った。もう、あいつはバラバラだ。
しかし、奴等は修正して来る??


ティンベインは家へと帰った。彼は研究室へ電話をかけた。
「どうだい?分解したら、何か判ったかい?」

「ああ、向脳性の探知機を持っていた。君の脳波もスキャンされていたはずだ。それに無線機まである。
何の用があるんだ。どこと通信していたんだ?まあ、こいつの中の君のデータは消しといたから、安心して良いよ」

「しかし、私はあの機械から少しでも離れたい。しばらくの間、旅行にでも行ってくるよ」
「了解したよ。ともかく、これから、宇宙人の賭博摘発する者は、
脳波保護帽を被った方が良いな。じゃあ旅行を楽しんでくれ」


電話を終えたティンベインは、ウィスキーを飲み始めた。
少し酔うと、窓にコツコツと何かが当たっているのに、気がついた。

そっと窓を開けてみる。
窓の外には、ちっぽけな虫がいた。ただし機械製だった。

ティンベインは、そいつを摘み上げた。
こいつは何をしていたのだ。宇宙人の奴らの物に違いない。

ティンベインは、それを分解し始めた。彼の様なエキスパートに取っては、
例え異星人の機械であれ、分解は簡単だった。

1時間後、彼は気が付く。徹底して、調べたにも拘わらず、これは、ただの
歩くおもちゃだ。カメラも無線も何もない。スパイする出来ない、ただのガラクタ!

こんな物が、何の役に立つ??

そして、気が付いた。
時間が経過している。俺は、1時間、これの分解にかかり切りだった。

これ目的が判った!!

これは、俺を1時間。夢中にさせるための、ものだ。
奴らはこの1時間で、何かを準備したのだ!


研究所に連絡した。
「至急、助けに来ててくれ。宇宙人の罠にかかったようだ。うかつに出る事もできない」
「正体不明のエアカーが、君の家付近で、レーダーが検出している。何かを置いて行ったようだ」」


その時、入り口から大きな音がした。ドアはきしみ、大きな力に吹き飛んだ。
鉄球だった。巨大な鉄球が、ティンベインの脇をすり抜けた。

一発目は外れた。しかし、奴らは修正して来る。そうだ!

「至急、造ってもらいたい物がある。カタパルトだ直径1mの鉄球用の」
「了解、すぐに部材を送る」

よし、玉は5球。二球目は?
二球目は、隣の部屋から、壁を破って、ティンベインを潰そうとした。


..............


完全変位集合変数...って乱数とどこが違うの??しかし、このはったり具合はまるで、ヴァン ヴォウトですね。

この話、基本的に、阿呆話なんですが、2つのガジェット(噴射口の下の賭博台、窓の外の昆虫)
が良い感じなので、最後まで、楽しめます。しかし、所詮は阿呆話なんですが...

記:2011.10.06


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三分 小説 備忘録

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