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ゴールデン マン ディック傑作選3(1992)-早川文庫
ゴールデン マン


ゴールデン マン The Golden Man / フィリップ ディック 訳:友枝康子のあらすじ
初出 If(1954.4) 原稿到着1953 短編 第37作

「この辺りは、いつもこんなに暑いのかい?」
汗を拭きながらセールスマンが、喫茶店のウェイトレスに声をかけた。
「夏だけですけど...」
「じゃあ、コーラをくれ。とびきり冷たい奴だ」

セールスマンは、隣の男に声をかけた。
「なあ、あんた、こんなの見た事あるか。俺は、ほうぼう行ってるから、
   色んなもんを見てるんだ。これなんか、最高だろ?」

取り出したのは、裸のブロンド娘の写真。こんな田舎とは言え、めずらしくもない。
写真の娘の乳房が、八つある事を除けば...

「ああ、見た事あるよ。昔はデンヴァーにもいたし...」
「そう、そのデンヴァーで撮ったんだ!」

「まだ生きているって言うのかい。まさか!!」
「いや、いや、もういないよ。いる訳がない...」


しかし、彼らの話に、耳をそばだてていた周りの客は、ざわざわし始めた。

(去年の話さ、デトロイトでコウモリの様な翼のある人間が...)
(..足には指がないの..目の玉は、驚くほど大きくて..産まれて、すぐに..)
(..しかし、最悪なのは、イギリスの炭鉱の奴等だ。40年間隠れて、
   100人以上いたんだ。そりゃ、すごい戦いだった..)
(..ニュージーランド変種よ!そう、人の頭をコントロールできる奴...)

セールスマンは言う。
「あああ、しかし、この辺りじゃ見つかっていないんだろ?」
「でも、見たと言う人もいる」
「勘違いさ。臆病な奴等が、幻を見るのさ」


セールスマンは車に乗った。
州外のナンバーを確認した巡査が、声をかけた。
「この田舎に何しに、来たんです?」
「ナット ジョンソン氏の牧場を探しているんだ。私は弁護士ペインズ。彼の依頼で来たんだ」


ナットは空を見上げた。農民の屈強な体は、焼けている。
子供達が遊んでいる。長女のジーンは16歳。長い黒髪。
次男のデイブは14歳。二人は、蹄鉄投げをしている。

杭は遠く離れ、簡単には入らない。何度もトライする姉弟。
そして、もう一人。長男のクリスだ。彼は黙ったまま、妹弟の遊びを見ていた。

「ねえ、クリス、あなたもやってみない?」
クリスは無言だ、蹄鉄を受け取りもしない。

「やりたくないの?」
そう、彼はやりたくないのだ。彼は子供の、いや、人の世界には入らない。
超然としているのだ。すべての先を、未来に、その目は向いているのだ。

しかし、今日は違った。ジーンから蹄鉄を受け取ると、遠くから、投げた。

蹄鉄は、空を飛び、杭に収まり、回転した。

「ずるいよ!いつだって、ミスをしないんだから!」
デイブが声を上げた。

しかしクリスは、その言葉を最後まで、聴いてはいなかった。
彼方を向くと、身を翻し、森へと走って行った。

ジーンとデイブは、それを見送った。
「ママに言ってくるわ。兄さんは、今日の夕飯は、要らなそうだって」


その時、家の前に車が止まった。
「いやあ、こんにちわ。私はパシフィカ開発の、社長ペインズです。この辺りに
   土地を購入したのですが、見つからなくて、困っているのです」

ナットは黙って、ペインスの持った地図を見た。
「この場所は、こことは無関係だ。50マイルも離れている。すぐに消えてくれ」
ナットは、光線銃をペインズに向けた。

「い、いやあ、あんた、怒りっぽいな。私は、この暑い中4時間も車を運転して、
   来たんです。水を一杯もらって、トイレを借りるくらい、良いでしょう?」
「デイブ、こいつを、トイレに連れてってやれ」

ジーンはナットの元に来た。
「大丈夫だよ。すぐに帰るさ」
「でも、13年間、誰かが来るたびに、こんなにドキドキする。いつまで、こんな...」


トイレから出たペインズは、デイブの目を盗み、部屋の奥へ入った。
そして、さがす、"奴"の痕跡を。

そして、確信する。奴がつい、さっきまで居たのは、間違いない!

そこにナットが、現れた。
「何をするつもりだったんだ? ペインズ! お前が悪いんだぞ!」
ナットは光線銃を撃ち、ペインズの体に当った。ペインズは崩れ落ちた。

しかし、ペインズの体は痙攣し、震えた。
「痙攣?何故、死なない?まさか?」

ペインズは起き上がった。衝撃吸収スーツを着ていたのだ。ペインズの手には、強力な光線銃があった。

「銃を置け!そして、家族を全員集めろ。聞きたい事がある。私はDCAだ」
エンジンの音が、空から聞こえて来た。

上空には、数十台の空中艇が浮いていた。そこから、夥しい数の降下部隊が、
地上のあちこちへ、散開している所だった。


「奴は、ここにはいない。直前に逃がしたんだろう。どうして、我々が来るのがわかったんだ?」
「知らん。勝手に出て行った」
「予知能力か、遠隔テレパスか。ともかく、逃げても無駄だ。ここら辺り一帯は、完全封鎖されている」

「兄さんを捕まえてどうするの?」
「調べるのさ」
「調べた後は?」
「.....それは、彼、次第だ。そして彼の能力による」

「君の発言が、兄さんの判断に有利な材料になる可能性がある。もっと、兄さんに
   ついて、教えてくれないか?」
「知らないわ?クリス兄さんは、人と話をしないのよ。行動も別。何日も居なくなる
   時もあるし、気が付くと、納屋で寝てる事もあるわ」

「そうか。それから、姿はどうなんだ?本当に金色をしているのか?」
「ええ、目も髪も爪も...信じれないくらいに美しい。地上に降りた神様のように...」

「それに、能力も凄いのよ。あなた達に捕まえられるとは思えない...」
その言葉を言い終える前に、ジーンは驚いた。

今、着地したヘリコプターから出て来たのは三人。二人の小柄な兵士に挟まれているのは
兄さんだったからだ。

「逮捕しました。いえ、自首して来たと言った方が適切です。我々が、捜査を開始しようと
   する前に、彼は現れたのです。森から、黄金の彫像が現れたかと思ったら、彼だったのです」
「自分から?予知能力があるのに...いや、予知能力があるが故の自首か...」


クリスは研究所に移送された。彼は防護室で完全監視下に置かれた。
「油断がならん。48時間経って何も判らない場合は、安楽死だ。自白剤は好きなだけ使え」
「随分、奴を恐れているな」

「ああ、テュニス型を思い出せ。北アメリカに生息していた10人。通称カメレオン。彼らの
   生存方法は、ほかの生命体を殺し、吸収して、そっくりになり、それに取って変わる事だった。
   最後の一人を殺すまでに、DCAの訓練を受けた者だけでも、60人が殺されている」

「家族は精神分析機にかけたか?」
ペインズ捜査官は、分析室のアニタに聞いた。

「ええ、彼の脳波も完全スキャンしたわ。彼の過去は、あらいざらい判った。しかし、
   何故か18年間、暮らしているけど、その間、家族と言葉を交わしていない。それに家族は、
   彼の能力が、何かも知らない。不思議な話ね。それに、それだけ家族と距離がありながら、
   長期間、かくまわれていた。これも極めて幸運よ!」

「13歳で既に成熟し、全身は黄金。まばゆいばかりだ。全ての能力は判らんが、
   察知力は凄いようなんだ。見せてやる」

ペインズは、隣の部屋のモニターをつけた。
「観察室、準備は良いか?よし、奴を撃て!」
「何を始めるの?まだ調査時間は40時間以上あるわ!やめて!」

クリスの背後から光線銃が撃たれた。しかし、その瞬間、クリスは部屋の隅に身をかわした。

「良かった!あぶない所だった。彼を殺してどうするの?」
「これで、5回目だよ。奴は完全に予測するんだ。二人で同時に撃っても同じだった。
   光線が届かない所へ移動するんだ」

「銃の光路や、撃つ人間の意思を変えているんじゃないの?」
「ちがう。機械的にランダムに撃っても同じだし、ただ逃げるだけだ」

「もしも、彼が逃げなかったら?」
「それは、どんな手段を取っても逃げられないと判った時さ。
   どこに逃げてもダメなら、始めから逃げないんだ。今回みたいに」

「逃げるだけ...それは危険な存在なのかしら?超能力者があると言っても、危険なものと、そうでないものが...」
「今はまだ、危険なものは見つかっていないだけさ」
「でも、彼は...不思議だわ」
アニタは、クリスの黄金の輝きを見つめていた。

その後も、クリスに対する調査は続けられた。判った事は、彼の完全な予測能力。
ただし、人間との関わり合いは、一切受け付けない。

そして、能力はそれだけだ。他には何も、見つかっていなかった。

48時間後。
「奴を殺せ」
ペインズは命令した。

一同は驚愕した。結局、48時間でわかった事は、彼の能力は素晴らしく、
脅威は、充分に抑止できる、と言う事だったのだから。

「やめて。まだ継続調査の必要があるわ。彼を殺してはいけない」
「奴の能力は未知数だ。未知数である以上、社会に対する脅威は
   取り除かなくてはならない。あのテュニス型を思い出せ!」

警備兵が、クリスの部屋に集まった。ペインズやアニタも、彼の最後を見に行った。

警備兵に左右を捕まれ、クリス=黄金の彫像は、部屋から連れ出された。
ガス室へと連れて行かれるのだ。

連行の途中で、クリスは警備兵を振りほどいた!
虚をつかれた警備兵は、彼を取り逃がした。

最短距離を通り、クリスは、鉄壁と思われる研究室の
セキュリティ システムの隙を瞬時について、部屋を抜け出し消えた。

「くそっ!ただ走って逃げるだけの奴がどうして、つかまらないんだ。
   あんな奴が来るべき未来の人種なのか?」

「まあいい。所詮、この研究所の敷地内から出る事はできない。奴がどんなに予知ができても、不可能を
   可能にする能力はないんだ。探索班を組織し、端から順番に追い詰めて行け。捕まるのは時間の問題だ」

クリスの探査が始まった。


「彼の脳分析結果が出たわ。彼には前頭葉がない!つまり考える事ができないのよ。知性がない。
   私たちが恐れている、優れた能力を持つ人種、彼はそれではないの!ただの反射行動の生物よ」

「道具も使えないのか。ただ、そのチャンスを待ち。猛然と走るだけだ。しかし、そこに失敗はない。
   .??そうか..奴が、俺達に捕まったのも....」
「一度、捕まることが...唯一の、脱出方法...だったと言うの?」

「そうだ。奴にはそこまで見えていたはずだ。知性は犬並み。黄金の獣だ。
   しかし、予知以外に能力はないのか??」
「それは、まだわからない」

「ともかく、奴は、この敷地を出る事は出来ないんだ。不可能を可能にする力はないのだから...」


アニタ自身の研究室へと戻った。電気を点けると、そこには、黄金に輝くクリスがいた!
知性のない獣、しかし、そうは見えない、まるで神のよに気高い!

「出て行きなさい!すぐに人を呼ぶわ!」
クリスは黙っている。

「私に...何をしろ、と言うの?」 アニタはクリスに銃を向けた。しかしクリスはアニタにゆっくりと近づいた。
そして、彼女の体を抱きかかえると、彼女を抱きしめ、キスをした。

アニタは気を失った。闇が二人を包んだ。

アニタは髪を整えていた。
「ここからは逃げられないわよ?無理に突破したら、死ぬかもしれない...
   でも、貴方に、『かもしれない』はないのね」


クリスが見つかった。アニタを抱え、人質に出口へと向かっていた。

「や、やめて!撃たないで!彼は銃の光路が予測できるのよ!」
光路が予測できる男に取っては、アニタの体は完全な防護壁であった。

「くそっ!」
ペインズには手が出なかった。

クリスは逃げ去った。後にはアニタが残された。

「わざと奴を逃がしたな?どうして、そんな真似をしたんだ!」
「わからないわ。ただ...」
アニタの目から涙が落ちた。クリスは彼女を利用し、逃げ去ったのだ。


「奴がこの先も逃げ切れるとは思えない。我々の捜索の目を逃れられる訳がない」
「いや、彼の姿かたちには意味があったんだ。それが、もう一つの奴の能力だ。黄金の気高い姿。
   人類の女を虜にするのに適した形。奴が行く先、行く先、奴を匿おうとする女が現れる。俺達は、
   その中から、奴を捕まえなくてはならない...アニタ、君に不妊処置をする事はできる。しかし、
   これから奴が出会う女、全てに不妊処置をする事はできない。奴の勝ちさ」

「でも、彼の遺伝子は劣性かもしれないわ」
「奴に、『かもしれない』はないのさ」


..............


すいません。落ちの言葉はちょっと、違うのですが、思いついたので、変えてみました。
意味は変わっていませんので...

ランダムに発射される部屋の描写ですが、これがヴァン ヴォウトなら、

「凄い!奴は、完全に予想できる。無敵だ!」
「いや、奴は予想して逃げた。それは、彼の体が銃弾に対して弱いと言う事を示している。
   本当に無敵なら、逃げる必要すらないさ」

なんて、痺れるセリフを吐く科学者が出て来そうなんですが...

ま、それは、それとして、この原作を元に映画「ネクスト」が出来ました。公開当時は、映画と原作では、
主人公が未来を予知できると言う所以外、類似性はない、などと言われていましたが、この未来を予測出来ているのか、
出来ていないのか?と言う所が、この話の肝であり、その意味で、映画は、この話の核心を付いていたと思います。

本当に原作を何度も読んだの?と思われる「ブレードランナー」よりも、原作の精神を引き継いでいると、思います。
あっちは、原作短編にあった、話しの核心である「共感ボックス」をまるまるカットしてましたから。
(ただし、だからと言って、面白いと言う訳でもありません。面白さは当然、ブレードランナーの方が、数段上です)
*カットされた話は、この短編集内の「小さな黒い箱」と言う話です


記:2011.10.04


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三分 小説 備忘録

  [どんな落ちだっけ?]




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