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地図にない町 ディック幻想短編集(1976)-早川文庫
地図にない町


あてのない船 The Builder (1953) / フィリップKディック 訳:仁賀克雄のあらすじ
初出 The Builder Amazing 1953.12-1954.1 原稿到着1952 短編 第4作

「あなた?私の話を聞いていた?」
「あああ、ごめん、何だっけ?」
「もう良いから、はやくご飯を食べ終わって!」

アーネストはあわてて、食事を口にかけ込んだ。
子供達が、学校での事を話していた。

「今日、原爆が落ちた時のための避難訓練があったんだ。みんなで机の下に潜ったよ」
「でも、理科の先生が言うには、この町が爆撃の標的になったら、そんな訓練は無駄
   だそうだよ。木一本すら残んないんだってさ」

「飲み水を毒に変える物質が、発明されたって言うのも聞いたし」
「ねえ、パパが兵隊に行ってた頃は、戦争はどんな感じだったの?」

「あ?あああ...」
「あなた、どうしたの?昔の戦争恐怖症が起きたの?」
「いや、そんな事はないさ...」

アーネストは食事を終えると、庭の倉庫に入った。

倉庫の中は落ち着く。これを見ると、心が落ち着く。誇りが胸に満ちる。
自分の船だ!船腹に手を当てる。長い時間がかかった。しかし、もうすぐ完成だ!

彼はハンマーを持ち、最後の仕上げに取り掛かった。
ここまで、良くやったものだ。
ただ、ひとりでは出来なかった。次男のトデイが助けてくれたから、出来たんだ。
線を描いてくれたのも、トデイだ...


隣のジョーがやって来た。
「...こんばんわ!おお、気づいたか。何度も声をかけたんだが...」
「そうか、悪かったな」

「しかし、ドえらいものを作ったな。こんな大きな船で、どこに繰り出すんだい?」
「いや、どこ...って訳じゃないんだ。ただ作ってるだけさ」
「そうか...まあ、とにかく立派な船だよ」

ジョーは帰って行った。そして思った。
(アーネストはおかしな奴だ。ますます変になっている。違う世界に住んでるみたいだ)


昼休み、アーネストは食事をしていた。周りのおしゃべりが騒がしい。
「世の中はもうおしまいだ!」
「どうしたい?」
「俺の隣に黒人が越してきた!へんなしゃべり方しやがって」
   昼のレストランで男達が話をしている。

「俺は市役所勤めだが、黒人や中国人だらけだよ」
「採用係がアカなんだ。誰でも雇う。世界平和記念日の時なんぞ、あの
   ホプキンズまで雇っちまったんだから」

「なあ、アーネスト。どう思う?...お前、気分でも悪いのか?」
「いや、大丈夫だ」

「なら、今度、賭けパーティがあるんだ。参加しないか。綺麗なお娘ちゃんも
   呼んでるんだぜ。女房なんてクソくらえだあ」
「ああ、考えとくよ」
アーネストは会社へと帰った。

「なんだ。あいつ、最近変だぞ?」
「船だよ、船。あのせいだ」

アーネストは思った。俺は病院へ行くべきなのだろうか?
会社の前で、電気店のショウ ウィンドウを覗いた。

中では、アクロバットのダンスをしていた。お次はピエロ、
次は犬の逆立ち歩き。

ふと、気が付くと、昼休みが終わる時間だ。
彼は、急いだ。しかし、今日に限って通りは人通りが多い。

人をかき分け、かき分け、アーネストは進む。しかし、人、また人。
回りを見れば、店と広告だらけ。言いようの無い不安が、胸を突き上げる。

彼はふと足を止めると、バスに乗った。家の方向へ向かうバスだった。


家に着いた。妻は驚いた。
「どうして、帰って来たの?」
「急に帰りたくなったのさ」

「今年で何回目だと思っているの?あと休みは何日残っているの?」
「知らん」

「一体、何を隠しているの?」
「隠し事なんて、何もないさ」

アーネストは、裏へ行った。船を作り出した。
(急がにゃならん。急がにゃならん...)

「....ねえ!何度、声をかけたら、わかるの?」
気が付くと後ろに妻がいた。

「どうした?」
「聞きたいのはこっちよ。早く帰って来たと思ったら、やっぱりこれね。
   あなた、近所で笑い者になってるわよ」
「そうか、そりゃ、困ったな」

「だから、何のために作っているかだけでも、教えてよ」
「わからない。本当にわからないんだ。とにかく、作りたいんだ。日曜大工は昔から得意だから」

「会社を早退してまで、作るのはどうして?」
「不安になるんだ、回りを見ていると」

「病院で見てもらいましょう」
「いや、そういう病気じゃない....じゃあ、悪いが、続けたいんだ...」

妻は呆れて、家に入ってしまった。
代わりに、次男のトデイが、小学校から帰って来た。
「パパ、手伝う事はない?」
「ありがとう、緑のペンキを持って来てくれ。仕上げに塗るんだ」

長男のボブも帰って来た。友達と一緒だった。
「何だ、あれ?」
友人は、巨大な船に驚いていた。ボブは答えた。
「原子力潜水艦さ。あれで、モスクワを全滅させるのさ」
笑いながら、ボブ達は家に入って行った。

アーネストは思った。原子力?そうか、動力は何も考えていなかった!
帆もないし、エンジンもない...気が付かなかった!

この船は、何の役に立つのだろう?
巨大な船。ただ浮かぶだけのデクの棒。

トデイはせっせと、ペンキを塗っていた。彼には、この、おもちゃの
重要性がわかっている様だった。

しかし、塗り終わったら、トデイは聞くだろう。

「パパ、この船は何のために作ったの?」
何と答えよう?何と言おう?

考える彼の、頬に雨粒が当たった。
その雨は、瞬く間に、地面に飛沫を上げ、彼はようやく、この船の意味を知るのだった。


..............

コンパクトで、また落ちが充分に予想できながら、家族と近所とのの関係を丁寧に描く事で、話が深くなっています。
ま、しかし、現実では、翌日は、さわやかな秋晴れでした...なんて事に、なってしまうんでしょうが...


記:2011.09.29


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三分 小説 備忘録

  [どんな落ちだっけ?]




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