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地図にない町 ディック幻想短編集(1976)-早川文庫
地図にない町


クッキーばあさん The Cookie Lady (1953) / フィリップKディック 訳:仁賀克雄のあらすじ
初出 Fantasy Fiction(1953.6) 原稿到着1952 短編 第7作

「おい、ビュバー何処に行くんだ?」
「そこらへんさ」
「また、あの、ばあさんの所だな」

ビュバーは足早に通り過ぎた。そして、一軒家の前に来た。
クッキーの匂い。つばが湧いて出た。

「よく、来たねえ。今、焼けた所さ、お前は運が良いよ」
ドルー夫人は、かなり前から独身で、年老いている。干からびた枯草の様だ。

「ねえ、また、学校の話をしておくれ。教科書で習った所を読んでおくれ」
ビュバーは焼き立てのクッキーに、手を伸ばした。
おいしい、おいしい、このクッキーは本当においしい。

そして、カバンを開けた。
「どれが良いの?」
「地理にしておくれ」

「ペルー。北はエクアドル、コロンビア、南はチリに、東はブラジルとボリビアに
   接している。その地域は三つの地方に別れ...」

テーブルを挟んで、ドルー夫人は、ビュバーの声に集中した。そして、彼の話し声を
吸収した。この子の話を聞くのは、この上ない喜びであった。

考えて見れば、これまでは、めったに人に会わなかった。会うのは、商店のレジ係と
年金の小切手配達人、あとはゴミ収集人くらいだった。

それが、ある日、家の前を通るビュバー少年を見て、クッキーを食べないかと誘ったのだ。

少年の声を聴いているだけで、心が若返った。いや、体も若返る様だった。
しわが薄くなり、髪のつやが戻った。肌のしみが消え、肉に張りが戻るのだ。

ドルー夫人は恍惚とした表情を浮かべた。
突然、ビュバーの声が止まった。
「ぼく、もう、帰んなきゃ!」
「また来ておくれよ」 「わかった!」

ビュバーはポケットにクッキーを詰めて、部屋を飛び出した。
ビュバーが去ると、ドルー夫人の蘇った若さも消えて行くのだった。


「ビュバー!今まで何処に行っていたの?」
母は遅く帰って来たビュバーに怒った。

「あああ、僕、なんだか疲れちゃった」
「また、あのおばあさんの所に行ってたのね。もう行くのは止めなさい」

「でも、約束したんだ。また行くって」
「じゃあ、今度は、もう来れないって言いなさい」


「よく来たね。うれしいよ。さあ、今日は何の本を読んでもらおうかね。
   クッキーも焼けてるよ」
「あのね。今日は本は持って来てないよ。ママが、ここに来るのは最後に
   しなさい、って言うんだ。だから、もう来ないんだ」

「そうかい、じゃ、じゃあ、これを読んでおくれ」
ドル−夫人は、傍らにあったアンソニイ トロロップの小説を、ビュバーに
渡した。ビュバーは、それを読み出した。

これが最後。この子は戻って来ない。もう機会はないのだ...
ドルー夫人は、ビュバーの声に集中した。その声を吸収した。
体内に若さがみなぎる。生命感が行き渡り、唇は赤く、肌は艶が出て、
髪は黒く豊かになり...

「クッキーはまだかな」
ドルー夫人はキッチンへ急いだ。不思議な事にビュバーから離れても、
若さが弱まる事はなかった。

ビュバーはクッキーを頬張った。その顔は疲れ果て、生気がなかった。

「もう帰る」
「ありがとう、またいつか会おうね」

少年を見送り、ドルー夫人は自分の頬に手を当てた。若さが蘇っている
消えていない。今度は成功だ!

ビュバーは立ち止まった。足が重い。疲れた。家はもうすぐ...でも
疲れた。すぐそこなのに。


「ビュバーはどうしたのかしら。こんなに遅くなったのに」
風が強くなって来た。玄関にはゴミや新聞紙が吹き付けていた。

「あ!今、ドアを叩く音がしたわ」
母親がドアを開けると..そこには誰もいなかった。ただ灰色のカサカサした
ものがあるだけだった。
「ただの風さ」


..............

タイトルは、よく読むと、「クッキーおばさん」、ではなく「クッキーばあさん」何ですね
ちなみに、アンソニー トロロップさんは、「 迷った時は、 勇気がいるほうを選べ」などの人生訓で有名な人だそうです。

しかし、この話に『嫌悪感』ではなく、メルヘンを感じてしまう様になるとは...
人間、年は取りたくないもんです。

しかし、この後、ドルー夫人は、どうなっちゃうんでしょうか?
1.もう、いなかった
2.捕まって、首まで埋められて石を投げられる
3.私は老婆の娘だと言ってごまかして、逃げ切る
4.ついでに超能力も得て、町を焼き払う

 、個人的には4で行ってもらいたいもんです。メルヘンだなあ

記:2011.09.28


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三分 小説 備忘録

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