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地図にない町 ディック幻想短編集(1976)-早川文庫
地図にない町


森の中の笛吹き Piper in the Wood / フィリップKディック 訳:仁賀克雄のあらすじ
初出 Imagination(1953.2) 原稿到着1953 短編 第50作

ドクター ハリスは穏やかに問いかけた。
「ウェスターバーグ伍長、君は、『自分が植物になった』と思うのだね」

ウェスターバーグ伍長は、26歳のハンサムで長身の若者だ。趣味はテニス。
ジェット エンジンのエキスパート。軍歴は2年。
このアステロイドY3惑星、前哨地に勤務している。

「サー!私は現在、植物であります。数日前からこうなりました」
「数日より、もっと前は何だったのかな?」

「あなたと、同じものです」
「人間だった、と言うことだね。しかし、こう短期間に人間から植物に
   変わるとは、随分珍しい事だね」

「サー!私もそう思います」
「では、どうやって植物になったのか、その方法を教えてくれ」
「.....できません。約束をしたのです」
「誰と?」
「その答えも、秘密を守る約束の一部です」


ドクター ハリスはコックス司令官に連絡した。
「すいません。手がかりはありませんでした」

「彼はぶらぶら外出しては、一日中、日を浴びて座っている。彼が言うには、パトロールなど
   無駄な事。本当に大事なのは、太陽を浴びる事だそうだ。ともかく、調査を続けてくれ」

夕食後、ドクター ハリスはウェスターバーグ伍長に会いに行った。
「ここが、伍長の部屋かね」

「はい、しかし、お話はできないと思います。伍長は日が暮れると眠ってしまいます。
   そして、日が昇るまでは、絶対に起きません。そして、起きると、一日中、太陽を
   浴びているのです」
「起きない?筋肉の硬直症かな?突発性の...ともかく症状は深刻な様だ」


翌日、ドクター ハリスは、ウェスターバーグ伍長を探した。簡単に見つかった。
川辺で座っていたのだ。

「どうして、ここにいるのだね」
「太陽を浴びているのです」
「どうして、太陽を浴びたいのかね」
「それは、あなた方に、どうして、呼吸をするのか?と聞くのと同じ質問です」

「しかし、このままでは、君は人生を棒に振るぞ」
「わかって、おります」
「それでは、君は、これまでの優秀なキャリアを、全て捨てる訳だ」
「サー!その通りであります!」

「し、しかしだな。これは君だけの問題ではない。君がサボったパトロールは別の
   者の負担になる。君は回りに迷惑をかけているんだ」
「はい、その通りであります」

「あああ、今、地球は異星人に狙われている。そのために地球を守らにゃいかん。
   ここ、アステロイドY3もその一つだ。君の行為は、人類全体にも影響がある訳だ」

「皆が植物になれば、良いのです。植物になれて幸せです。自分は、なぜ今まで植物では
   なかったのか、不思議なくらいです」


ドクター ハリスは病院へ戻りながら考えた。

伍長は、これまでずっと苦労して来た。貧乏への不安。理想化された目標と現実。
そして疲れ果て、頂点に達した。アステロイドY3の植物の中に、永続性と不動性の
中に解決策を見出したのだ...我ながら、良い分析結果だ。

そこに、緊急連絡が来た。
「至急、病院へ戻れ。患者が増えた。5人だ」


終末には患者は20人に増えた。基地機能は麻痺し出した。
20名は、点々と日当たりの良い土手に、腰を下ろしている。

「あの赤毛の男は誰だね?」
「副指令官であります。昨日まで、エリートコースにいた彼です」

「その隣は、まさか」
「はい、内勤主任で、新卒の秘書ですよ。美人で有名な」


植物の一人、生物学者のブラッドショウと、話が出来た。
「あなたは生物学の専門だ。学術的な意味で、あなたが植物である事を説明して頂きたい」

「私は哺乳類の形をしていますが、植物です。これは世界観の違いから、区別されます。
   温血動物の霊長類は、植物の生理を取り入れる事が出来るのです」

「どうして、そうなったのですか?」
「パイパーから薦められました」

「パイパーとは?」
「森の中に棲むものです...」

アステロイドY3の森には、パイパーなる、人の心を操るものが、いるらしい。
ドクター ハリスは、森へと調査に出かけた。

岩場を過ぎ、河を渡り、沼地に着いた。
何故か、ここは自分の場所だ、と思った。

その時である。現地人の少女を見かけたのは。
水浴びをしていた様である。髪は濡れ、水面を眺めていた。

「私は駐屯地から来た者です」
彼女はうなづいた。英語を理解するようだ。

「教えて頂きたい事があるのですが、パイパーをご存知ですか?」
彼女はうなづいた。

「やはり、パイパーはこの森に実在するのか。私をそこに連れて行ってくれないか」
彼女は、歩き出した。ドクター ハリスは後を追った。
少女の動きはしなやかで、早かった。ハリスは一生懸命、彼女を追った。


ドクター ハリスは、基地へと戻ってきた。大きなスーツケースを抱えていた。
司令官が出迎えた。

「パイパーの事がわかりました。パイパーは実在しています。ただし、駐屯地の人間の心の中に。
   複雑な現代社会の競争で勝ち残って来た隊員達が、のんびりした、この星の原住民と出会って、彼らを
   うらやましく思う。しかし、そんな事は口には出せない。そこで、心の中に病気を作ったのです。
   その病気にかかれば、のんびりできる。そこでパイパーと言うものに、責任を被せたんでしょう」
「そうか、では有効な治療方法を研究してくれ」

ハリスには、やるべき事がたくさんあった。さあ、忙しくなるぞ!
しかし、その前に...

ハリスはスーツ ケースを開けた。中には森の土が入っていた。
彼はその上に腰掛けた。

土は良い。暖かいし、落ち着く。

すべき仕事はたくさんある。しかし、今は寝よう...すべては明日に...
彼はすぐに、安らかな眠りに着いた。


..............


すいません、場所の設定が変わっています。
AEヴァン ヴォウトじゃありませんが、無駄に、場所の転換が多いので...
かなり、まとめました(実は、宇宙へ行ったり来たりするのだ)。

で、落ちは、いちおう、ミイラ取り落ち、と言う事で、お願いします。

記:2011.09.23


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三分 小説 備忘録

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