3 Minutes World 3Minute World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World

地図にない町 ディック幻想短編集(1976)-早川文庫
地図にない町


レダと白鳥 Out in the Garden (1953) / フィリップKディック 訳:仁賀克雄のあらすじ
初出 Fantasy Fiction(1953.8) 原稿到着1952 短編 第17作

ロバートは友人を家に呼んでいた。
「奥さんはどうしたんだい」
「庭にいるさ。いつもサーと一緒だ」

彼の妻ペギーはサー フランシスと一緒に庭にいた。
サー フランシスは彼女のお気に入りのペット、アヒルだ。

いつでも、何処でも二人は一緒だった。
まるで、恋人同士のよう、ぺギーの横顔に風がかかり、髪が揺れる。
彼女は微笑む。アヒルは、せっせと、ペギーの横で、餌をついばむ。クモや昆虫。

友人は言った。
君の素晴らしい庭、そこに若く美人の奥さんと、お気に入りのアヒル。
絵の様じゃないか。まるで『レダと白鳥』だ。

「レダと白鳥?」
「ギリシャ神話さ。レダは絶世の美女。白鳥は実はゼウスの化身。ゼウスは白鳥の姿を
   してレダに近づき、愛を交わした。そして生まれたのが、あの美女、トロイのヘレン」

それを聞いたペギーは怒り出した。
「この人は、私の事を知ってて、嫌味を言ってるのね!帰って下さい!」
「どうしたんだい?」
「ロバート、実は私、妊娠してるの」

「えええ?もう出来ないものかと、諦めていたよ。じゃあ大事にしないと」
ロバートはペギーの肩を優しく抱き、部屋へと入れる。

突然、ペギーを奪われたサー フランシスは驚いて、ロバートの足を突こうとしたが、
ロバートは、そのまま無視をした。


やがて、男の子が産まれた。
しかし、この一件依頼、ロバートの、サー フランシスに対する見かたが変わった。
三年前、ペギーが農園を散歩している時に見つけたのが、このサー フランシスである。

それ以来、彼女は、ずっとサーと一緒。元々、ペギーは外出はせず、家にいるタイプ
だったから、家事か読書、常にサーと一緒だったのだ。

ロバートは、まさかとは思いながら、レダと白鳥の話を、何度も思い出した。
そんな、馬鹿な事があるはずがない。

しかし、ある日、彼は考えを決めた。
サー フランシスは庭で餌を漁っていた。ペギーは、まだ入院している。

「おいで、いい子だ。この家での最後の食事は済んだか?」
ロバートはサー フランシスをスーツ ケースに入れて、車を出した。

「さあ、どうする?」
始めは、スーツケースは、がたがたと震えていたが、ハイウェイに乗る頃には
静かになっていた。


ペギーは退院すると、サー フランシスがいない事に、くよくよしていた。
しかし、何処かに行ってしまった、ロバートがと言うのを素直に信じた様だった。

やがて、赤ん坊の世話も忙しく、彼女は陽気さを取り戻して行った。


幼いスティーブンを膝に乗せ、柔らかい髪を撫でながら、ペギーは言った。

「まるで、鳥の羽毛のようね」
(いや、トウモロコシの綿毛さ!)
とロバートは思ったが、口には出さなかった。

スティーブンは大きな黒い目をした、愛らしい少年に育った。
彼も、性格はロバートよりペギーに似ていた。
絵本を見て、物思いにふけり、外を眺めるのが好きだった。

ロバートは、一人置いてきぼりに、された様だった。
どうすれば、スティーブンと心が通い合うのだろう。


ある日、スティーブンがクレヨンで絵を描いていた。絵は俺も得意だ。
これは、俺からの遺伝に違いない。

「ねえ、パパも一緒に描いていいかな?」
「ダメ!」
「...」


絵を描きながら、スティーブンが言った。
「ねえ、パパ、サー フランシスってだあれ?」

ロバートは驚いた!
「誰から聞いた?ママからか?」
「ママじゃないと思うな。パパでも、ないのか?それなら、夢に出てきたんだ」

「どんな、形をしていたか覚えているか?」
「大きかったよ、太陽みたいに。そして空を飛んでいた」

ロバートは、サー フランシスが羽をはばたかせ、空から舞い降りてくる姿を想像した。
(ペギーが、理想化した姿を語ったに違いない。あのアヒルめ!)

「パパ、どうしたの?ねえパパこれから秘密のパーティがあるんだけど、パパも来る?」
「もちろんさ!」
(やっぱりスティーブンは俺の子供だ!)

スティーブンは、庭に出て行った。ロバートは、手を洗いに行った。
そして、考えた。パーティでは、何を話そう?軍隊の話なんかが良いかな?
そうだ、それならきっと喜ぶぞ!

庭に出てみると、既にテーブルにお皿が並べられていた。
「パパ、僕もう、食べ始めちゃったよ」
スティーブンは、にこにこしている。口いっぱいに食べ物を頬張り...

ロバートはやり切れなさで、胸が一杯だった。
そして、スティーブンに言った。

「パパはパーティに出るのは止めるよ。パパは虫やクモを食べた事なんて、ないんだ」


..............


幾つかある、『妻の不倫』ものの一つですが、ディックの場合、不倫の相手は、
この話のアヒル、あと、鳩時計(なんで?)、しまいにゃリンゴですから。

妄想嫉妬も、たいがいにせえ!

記:2011.09.21


  3 Minutes World 3Minute World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World

三分 小説 備忘録

  [どんな落ちだっけ?]




・ホーム
・ディック1トップ
・インフォメーション
・掲示板
・お問い合わせ