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時間飛行士へのささやかな贈物(ディック傑作集2)-早川文庫
時間飛行士へのささやかな贈物


ベニー・セモリがいなかったら If There were No Benny Cemoli / フィリップKディック 訳:大瀧啓裕 のあらすじ
初出 Galaxy(1963.12) 原稿到着1958 短編 第90作


ちょっと複雑なので、登場人物と背景紹介
この世界には"地球人=地球で産まれた人間"はいない、地球は滅亡している。
しかし、地球以外の太陽系惑星に、地球人起源の人類はいる。ケンタウリ人は、
太陽系と国交を持っており、地球の復興を計画している。

火星人の地球行政官 ジョン ルコント(火星より赴任した人類)
ケントウルス復興局 ピーター フード(人類、ケントウルスによる地球復興計画に参加)
ケンタウルス警察警部 オットー デートリッヒ(彼は人類だが、ケンタウルスにとっての秩序を重視している)
ベニー セモリ 文中参照


行政官ジョンはプロクシマ・ケンタウリからのロケットの来訪に気づいた。
ケンタウルス復興局は、「ありがたい」事に、地球の都市復興をするために、遠くからやってくる。
既にこの破壊された地球には、本来の生命体など殆どいないにも、係わらず。
ジョン自身でさえも、火星からやってきたのだ。


ケンタウルス復興局のピーターにジョン行政官は会った。
実際、復興は進んでいる、彼らの手で。しかし、彼らが全て善意のものと言う訳ではない。
混乱に乗じて不正な利益をあげているものも多いのだ。


「我々が働ける場所を提供して欲しい」
「はい、自立機能をもった元新聞社のビルがあります。地下にあり、無傷である事がわかりました。
   現在、大気は放射線の影響で、放送には向きません。しかし新聞なら発行できる。
   文化の統一は復興に必要です。新聞社を再開したいのです」


あの<不幸>の日以来、休刊していたニューヨーク タイムスが復興した。一面の見出しはこうだった。
『ケンタウルス復興局、地球到着
責任者の興局ピーター フードは語った。「我々は戦争犯罪を糾弾していのではありません」...』

ジョン行政官は、薄気味悪く思った。この自立的な新聞は、どこをニュース ソースにしているのだろ?
何故なら、「我々は戦争犯罪を糾弾していのではありません」と言う興局ピーターの言葉は、公式な発言ではない。
昨日の仲間との立ち話での会話だったからだ。奴らは、この社会の隅々まで、網を貼りめぐらせている。
自立する新聞。いったい、何を目的にしているのだろう?

また、別の記事にはこうあった。
『ケンタウルス復興局、と共に来訪したオットー警部はこう言った「罪を償うのは当然の事である」...』
二つの記事は正反対である。矛盾する主張の混在。そして、こんな記事もあった。
「北部ではベニー セモリの支持者が、地元住民と衝突した。ベニー セモリは『真の平和と平等』を掲げており...」
(誰だっけ?ベニー セモリ?まるで有名人の様に扱われている)


『ベニー セモリの支持者ニューヨークへ向かって行進中。支持者は拡大中』
復興局ピーターは翌日の新聞の記事に驚いた。ベニー セモリ?この当たり前の様に書かれている人物。これは何者だ?
彼は調べさせた。
しかし、ベニー セモリの支持者による行進など、事実はなかった。
世界中にこのニュースは配信されている。新聞社の中にだけある幻の真実。

復興局ピーターは行政官ジョンに尋ねた。
「思い出しました。戦前の活動家です。上院に立候補し落選した。ただそれだけの男です。
   調べると、15年前に病気で死んでいました」
復興局ピーターはヘリに乗り、自分の目で行進を確かめた。しかし新聞の伝える場所にその形跡はなかった。
新聞が伝える、国を揺るがす、大規模な、実際には存在しない示威行動。

オットー警部は、この活動の調査のために、新聞社へ投稿した。
『私はベニー セモリの活動に共感した。彼らの仲間に入るには何処に連絡すれば良いのか?』
地下にある巨大コンピュータは自ら作った幻影に、どう反応するのだろう?


現実の地球は、徹底的に破壊され、ケンタウルス復興局の手が無ければ荒廃するのみだ。
しかし、自立した新聞社は、幻想を持ち続けている。そして、ありもしない事実を。


そして、オットー警部の投稿は採用され、その回答も掲載された。そこには、こうあった。
『彼らはニューヨーク32、BRストリート460番地で、新たな賛同者を受け付けています』


彼らが、行くと、そこはギリシア人の店主がいる小さな食料品店だった。
「ここに、政治活動家?そんな人いませんよ!」
オットー警部達は、家探しを始める。「やめて、下さい!何もありません!」

そして、地下壁にペンキの後をみつける。新しい!
オットー警部は、その壁をぶち破る。中には小部屋があった。

「訴えますよ!そこは、もう長い間、使っていません」
「警部!中は空ですが、蠅が活きていました。数日前までは使われていたはずです」

「わ、わかりました。お話します。実は密造酒を隠していました」
「立派な理由だな。じゃあ、この写真を見てもらおう。この男を知っているな!」

店主の顔色が変わった。
「お前の顔色が証拠だ。さあ、連れて行くぞ!」


復興局ピーターは思った。これは、新聞社による、ただの幻想ではない。
しかし、彼の仕事には有利だ。これでオットー警部達はベニー セモリを追う。
これで彼の監視は弱くなり、ケンタウルスからの干渉も弱まる。

そこで、彼は思う。なるほど、ベニー セモリの様な人物は、実は有用だ。危険ではあるが、"役に立つ"のだ。


「ピーター!自白剤をだいぶ使ったが、奴はイイ事を話してくれたぜ」
オットー警部がやって来た。
「奴は17年も前から、ベニー セモリの支持者だ。以前は週に二回、あそこで集会が開かれていた。
   もっと今じゃ、あいつもペーパー会員だが」
「ベニー セモリとは?」
「戦争前に、セモリは権力を握り、積極的な外交政策で、経済問題を解決させようとしたらしい。
   南米への侵攻だ。しかし、奴の記憶も曖昧で...」
「70歳を超える老人に、一体、何が出来るって言うんだ?」


ルコントは、古いボロボロの教科書を取り出した。これは偽の証拠だ。そこに、こう、落書きを書き込む。

「セモリをやっつけろ」
よし、これで良い。うまく出来た。そして付け足した。

「オレンジはどこにある?」
オレンジはセモリが約束する経済復興の象徴だ。
うん、我ながら良い出来だ!これらを、ケンタウリ人達に見せれば良い。俺達は安泰だ。

そして、もう一つの証拠を取り出した。セモリの演説テープだ。
これは、二流芸人に台本を読ませて作った。これも良い出来だ。


新聞は、新しい記事を載せた。
「セモリと合衆国政府が提携、停戦なる」

セモリがいる内は、我々、かつて、地球を指導していた者達は安全だ。
新聞社の頭脳へ繋がるトンネルが発見されない限りは。

彼は偽の証拠を作り続ける。そして、今日も、また復興局の建物へと急いだ。


..............


後期の作品であるので、ここに出てくる『自立する新聞社』というのは、欺瞞性の強いものになっています。
ただ、その欺瞞性が、不思議な着地の仕方をしています。「輪廻の車」Turning Wheelに近いですが、
もう少し落とし噺の起承転結から、離れて、独立した物語の部分になっている感じです。長編を狙ったのでしょうか?
さらに、ベニー セモリと言う、存在そのものが、捏造された手掛かり、ですので、後期の特徴満載です。

記:2012.08.25


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三分 小説 備忘録

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