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時間飛行士へのささやかな贈物(ディック傑作集2)-早川文庫
時間飛行士へのささやかな贈物


自動工場 AutoFac / フィリップKディック 訳:大瀧啓裕 のあらすじ
初出 Galaxy(1955.11) 原稿到着1954 短編 第68作

オニール達は支給トラックを待っていた。定刻にトラックはここを通る。
「やっても無駄だ。あいつらとコンタクトは取れないんだ」
「やって、みなけりゃ判らんさ」

そこにトラックが到着し、救援物資を落とした。
たくさんの食料、医薬品、ラジオ..どれも戦災下には必要なものばかり。

オニール達は、それらの品を踏み潰し、粉々の残骸にした。トラックの監視カメラは
その様子を見ていた。そして送信アンテナが回った。工場に連絡しているようだ。

そして、また、先ほどと全く同じ品物の山を落とした。同じ量を。
「やっぱり、無駄だ。あいつらは、どこまでも粘り強いんだ」
「いや、まだやるぞ」

オニールはミルクとカップを探すと、それを飲み、苦しんで吐き出す真似を
した。トラックのカメラは、じっとそれを見ていた。

トラックはシートを吐き出した。そこにはこう書かれていた。
「どのような欠陥があるのか、チェックして下さい」

チェックシートには 

□異物混入、□細菌混入、□すっぱい、□ラベル間違い、□ケース不良..

たくさんの項目と、チェック用の穴を開ける□が書いてあった。

オニールは、

□その他

に穴を開けると、記入欄に、このミルクは「ベトチンだ」と書いて、トラックに戻した。

トラックはそのまま、走り去った。一枚の紙を残して。
紙には、こうあった。

「工場から調査に来ます。製品不具合の完全データの提供準備を願います」

「やった。工場と連絡が取れる!」
「しかし、どう対応する?それに"ベトチン"?そりゃ何の事だ?どう説明する?」
「まあ、これからが本番だ」

実用人工知能研究は世界中に拡がっていた。それは戦争下では絶大な効力を発揮した。
混乱した人間に代わり、完全なる生産を成し遂げた人工知能達は、人間達が戦争に明け暮れて
いる間、食料・水・エネルギー。社会の生命線を守っていた。

しかし、戦争が終わると、事態は悪化した。戦時下の特別操業体制が解除されず
ネットワ−クは、緊急物を大量に生産した。物が供給過剰であるとの、
情報回路は破壊されたままで、工場は製品を最優先で作り出していた。

その結果、すべての天然資源は緊急物資をつくるために消費された。
すべてのエネルギーはその生産工場に独占された。そして、それを
国民の生命線を破壊する者は、敵の破壊工作として徹底的に排除された。

自動工場は国民のために物を作り続ける。独占し、資源を管理する。
緊急物資以外の物は作られず、戦争後も国民の自力復興はならなかった。

調査員がやって来た。それは人間のような形をしていた。人間が話しやすいようにと
作られた人間の形をしたロボットは、こう言った。

「これは口頭で意見交換のできるデータ収集機です。みなさんの貴重なご意見を
   頂くためにやってまいりました」

(この、明るい微笑みは、皮膚下のワイヤーが動かし、快活な声は磁気テープから発されているんだ)
とオニールは思った。

「それから、ご注意があります。この受容器はただのデータ収集機です。
   簡単な会話はできますが、議論や概念思考はできません」

その時突然、全く別の声を調査員は発した。
冷たい機械本来の声。

「検討の結果、指摘製品は、国家基準におけるあらゆるテスト基準に合格しています。G45区における
   23日午後15分の指摘は、基準外テストの適用によるものです。適応したテスト基準の詳細を述べて下さい」

また声が快活なものに変わった。
「その他蘭に記入された、"ベトチン"はネットワークの言語辞書には該当がありませんでした。
   誠にお手数ですが、誤記の修正または、他の登録語への変換をお願い致します」
「"ベトチン"とは、こう言うことだ。必要もないのに、商品が作り出され、その結果、
   我々が本来作らなければならない製品の生産が阻害されるのを防ぐために、
   その商品の受け取りを拒否する事、これが"ベトチン"の意味だ」

調査員は困惑したようだったが、こう切り替えした。
「"ベトチン"の状態を防ぐために、ミルクの殺菌温度を2度上昇させるのでは、かがでしょうか?」
「ダメだ。お前らが"ベトチン"でないミルクを作る能力がないなら、我々がミルクを作る。
   さあ、ミルクの供給源を占有するには止めろ!」

「現在の貴方方は、疲弊しています。貴方にミルクを安定供給する事はでみません。
   我々の安定供給が、国民全体の命を守るのです」
「うるさい、我々は自分でできるんだ。チャンスをくれ!」

調査員達は引き上げようとしていた。
オニールの仲間が怒って、調査員のロボットを引き釣り倒した。そして、踏みつけ壊した。

「やめろ!」
オニールは叫んだ。

調査員は無抵抗だった。やがて調査員は、興奮した皆に完全に破壊された。
「馬鹿な事はするな。これで奴らは自衛する。接触しづらくなった」

やがて。別のロボット達が現れ、ボロボロになった調査員の残骸を、
そっとトラックに乗せ逃げ去った。

そして、第二の調査員が現れた。先程のものと、そっくり。
あの二番目の声(猫なで声)もそっくりだった。

「冷静にして下さい。事態は更に悪化しています。一部の資源は極めて
   不足しています。皆様のご協力をぜひともお願いしたいのです」
オニールの目が光った。
「その、極めて不足している資源っていうのは、一体何なんだ?」

工場の欲しがっているものを、オニール達は調べ始めた。

戦争の最大の跡地。瓦礫と砂埃。巨大のネズミと突然変異した怪しげな植物の
水爆の爆心地へ。こんな所には、彼のような"普通の"人間は近寄らない。
居るのは、"ふるさと"だと言って、ここから去らない、一部の人間だけだ。

そして瓦礫からタングステンを集めている収集車を見つけた。収集車には2種類あった。
両者は互いに相手を無視し、仲間同士だけで連携していた。

「ここは隣接する二つの自動工場、ピッツバーグとデトロイトの中央点だ。
   両者から、収集車が集まっている」

オニール達は工作した。収集車にワイヤーをかけ、引き倒す。
石を投げて、アンテナをダメにする。泥水の池に落とす。

両者から応援部隊が来た。

「あの応援の収集者荷台が空じゃありません。武器を積んでいます」

そして、案内者がやってくると、チラシを巻き散らして帰っていった。
そこには、こうあった。

「緊急事態です。救援物資の供給はしばらく中止致します」


一年後。最近では、見下ろす都市部の空爆の音もめったに聞こえなくなっていた。
もう、"タカ"の姿も見えなくなった。彼らも飛ぶエネルギーを無くしたのだろう。

"タカ"は物資の収集車を狙う、対地戦闘機だ。地面を走る収集型のロボットを見つけると
急降下して攻撃する。逃げ惑う収集車に襲い掛かり、息の根を止めるのだ。

両工場は互いに消耗しあい、活動を止めたのだ。

「よし、工場に潜入するぞ。我々の手で、本当に人間のための工場を再建するのだ」

オニール達は水爆にも耐えられる、地下工場へ入っていった。

工場は最後の力を振り絞って、何かを作っていた。
「奴らは何を作っているんだ。物資も電気も殆どないのに」

小さなカプセル。オニールが顕微鏡で覗くと、小さな歯車とアーム。電池。

それは、自動工場のミニチュアだった。
完成すると、ミニチュアは、砲台で遠くに飛ばされた。

「これは奴らの卵だ。あいつらは、こんなものを作っていたんだ」

次に出来た"工場の卵"は、まっすぐ上に飛ばされた。

飛ばされた"卵"は、宇宙へと消えて行った。


..............


とつぜん、ひる(シェクリーの短編:バルンガの元ネタ)みたいになりますが、なかなか良い出来です。

善意のために活動した結果が、庇護された者達に、徹底的な悪となる。
ただの悪意とは、異なるシステムとしての誤り、意外にこう言うものは多そうです。

記:2011.06.25


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三分 小説 備忘録

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