3 Minutes World 3Minute World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World

顔のない博物館-北宋社
顔のない博物館


小人の王 The King of elves / フィリップKディック 訳:仁賀克雄のあらすじ
初出 Beyond Fantasy Fiction(1953.9) 原稿到着1952 短編 第12作

雨が振り出し、唯でさえ少ない客足が途絶えた。シャドラック老人は
ガソリンスタンドのレジを締めて、戸締りを始めた。
収入は少ないが、老人の食事と煙草に薪木を、買うくらいは儲かった。

ここは、忘れられたハイウェイ沿い。名所もない。一人ぼっちには、とっくに慣れていた。

侵入防止用のチェーンが、カラカラと鳴った。
外を見ると、森の方から、二つの影がやって来るのが見えた。

びしょぬれで、神輿のようなものを担いでいた。小さな隊列だった。
小さいのは、担いでいる者達の事でもあった。

小人だったのだ。

ヘルメットをかぶって、外に出たシャドラックに、神輿の上の小人が言った。

「わしは、小人の王じゃ。この雨で難渋しておる」
「...こいつは...驚いた...本物だ...」

「雨宿りをさせてくれぬか」
「..あ..ああ、いいよ...火を焚いてやろう」

小人の王は、疲れて枕に寄りかかって寝た。
熱いココアを出すと、飲み干した。

「王様、ともかくお休み下さい」

王の配下のおそらくは位の高い小人が、シャドラックに声をかけた。
「今晩は泊めて下さり、ありがとう、ございます。普段は、このような事はないのですが。
   "そびえ立つ山"から"城"へ向かう途中、トロールの大群に襲われまして、
   仕方なく、この"果てしない道"を渡ったのです」

「"果てしない道"とは、このハイウェイ20号線の事か」
「迷惑はかけません。時期に旅立ちます」

トロールに小人。まさか、本物にお目にかかれるとは、思っても見なかった。

その時、一人の小人がやってきて、位の高い小人に何か耳打ちした。

聞き終えると、その小人は、シャドラックに言った。
「お伝えする事があります。王は高齢でした。そこに、この事態が重なり、今、亡くなられました」
いつの間にか、小人の兵士が、シャドラックの回りに座りだした。

「我々は、王なしには存続できません。まして、今は繁殖力の旺盛なトロールに、
   我々に領土は侵されております。王は絶対に必要です」
「お前が、王の次のリーダーなら、お前が王になるべきだ。お前なら、その資格はありそうだ」

「いえ、王は王によって指名されねば、ならぬのです。我らが王を決める事はできないのです」
「王は、次の王を決めずに亡くなったと言う訳か。そりゃ困った」

「ちがいます。王は、次の王を指名しました。それは、貴方です。お願いです。我らの王に成って下さい!」

シャドラックは驚いた!
「俺が、王様?小人の王様だと!」

「待て、ちょっと待ってくれ。ちょっと混乱してるんだ。ちょっと待っててくれ」

シャドラックは、翌朝、友人のフィニアスの所に行った。

「ええ?何だい?シャドラック。よく聞こえなかった。もう一度言ってくれ」

「だから、小人の王様だよ。俺は小人の王様になろうか、迷ってるんだ」
「ふ〜ん。じゃあ、また後でな」
フィニアスのトラックは、出て行った。

シャドラックが、ガソリンスタンドで店番をしていると、ダンの車がやって来た。
「おい、シャドラック。本当かよ。小人の王になったって言うのは?」
「ああ、本当だ」

「本当かい。わはは、こりゃ、今年最高の話だ!いや、悪い。笑っちまって。めでたい話なのに」
それから、入れ替わりに、車がやって来て、「小人の王」の話をして、ニコニコして帰って行った。


夜になり、シャドラックが、ガソリンスタンドを締めていると、小人がやって来た。

「トロールの活動が活発になりました。至急、防衛計画を立て直す必要があります。もしかすると、
   王が亡くなられた事が相手に知れたのかもしれません。計画を練って頂きたいのです」

「わ、わしは、戦争とか計画とかには無縁な人間だ。王には相応しくなさそうだ。誰か別の者を探してくれ」

「王はあなたを指名しました。あなたは、我々に雨宿りと言う厚意を与えながら、見返りを要求
   しませんでした。そのような潔白な心が、王に相応しいと判断されたのです。丘の上で会議を行います。
   ぜひ、ご出席下さい!私は一足先に行きます」


「おい、シャドラック!こんな夜に、どこに行く」
フィニアスは、夜、丘へ歩いて行くシャドラックを見つけた。

「小人達との会議を行うんだ。防衛計画を練るんだ」
「防衛計画?馬鹿らしい。そんなのやめちまえ。ともかく、俺の家へ入れ。
   コーヒーを飲むくらいの時間はあるだろう」

コーヒーを飲み、世間話をした。お互い年で、独り者。身寄りもいない同士。同じ境遇だ。

「なあ、シャドラック。悪いことは言わない。小人の戦争なんかに首を突っ込むのは
   止めた方がいい。このまま帰って寝ろ。それが一番だ」

「わかった。そうするよ」
そして、シャドラックは、フィニアスの家を出た。
ふと、フィニアスの手を見た。ゴツゴツとした、人間とは思えぬ手。

(フィニアスの手って、こんなにゴツゴツしてたっけ?)

よく観察すると、フィニアスはずんぐりとして、ガニ股だった。皮膚はザラザラと土の色。
目は、生気がなく、暗い穴のようだった。

「お、お前は誰だ!わしは小人の王、シャドラック!」

突然、フィニアスは、いや、トロールは
シャベルを振り回し、シャドラックに襲いかかって来た。

「助けてくれえ!」
フィニアスはトロールを蹴ったが、トロール達は、後から後から湧き出て、シャドラックに
次々と襲いかかって来た。

シャドラックは、樽を振り回し、トロールを撥ね飛ばした。次々と迫るトロールを、順に蹴り上げた。

背中に腹にトロールがしがみつく。それを、ちぎっては投げた。

しかし、大群に襲われたので、息が切れる。老人にはしんどい、戦いだった。


その時、丘のほうから、ときの声が聞こえた。

トロール達が、騒ぎ出した。
『小人だ』『小人が、くるぞ』『逃げろ!』

数は少ないが、小人の兵士は、勇敢に戦った。
勢いを得たシャドラックは、元気が回復し、トロールを次々と、投げ飛ばした。


気がつくと、トロールは全て、逃げ去った後だった。

「ありがとう、お前達がこなければ、俺はもうダメだった」
「いえ、王は殆ど、ご自分で全トロールを相手にされたのです。素晴らしい戦いでした。
   特に素晴らしかったのは、トロールの王との一騎打ちです」

(トロールの王?)
小人が示したものは、フィニアスの、死体だった。

「フィニアス?彼はトロールではない、友人だ!」
「いえ、これを、ご覧下さい」

小人がフィニアスのヴェストを開けると、その下には、トロールの鎧。鎖帷子が。そして、そこには
幾つかのバッジが、そこに刻まれているのは、トロールの紋章。

「我らが、トロールの軍に勝利したのは初めてです。やはり前王の判断は正しかった」
「そうか、わしのようなものでも役に立てると言うなら、王になろうか」

小人達は、歓喜の雄たけびを上げた。

そして、シャドラックは、前王の乗っていた、神輿に乗って、森の中へ進んだ。
彼らの王国へと。

神輿は狭く、乗り心地は最低だった。しかし、シャドラックは降りなかった。
小人達が、この方法で彼を歓迎している事が、充分感じられたから。


..............


「追憶売ります」(トータルリコールの原作)と同じく、変なヒーローものです。
このジャンルはディック以外にはあまり見ないし、「すっとこ、どっこい」な感じですが、

おとぼけ、哀愁、の中に、話の"冴え"があって、大好きです。

記:2011.07.11

  3 Minutes World 3Minute World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World

三分 小説 備忘録

  [どんな落ちだっけ?]




・ホーム
・ディック1トップ
・インフォメーション
・掲示板
・お問い合わせ