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顔のない博物館-北宋社
顔のない博物館


萎びたリンゴ OfWithered Apples (1954) / フィリップKディック 訳:仁賀克雄のあらすじ
初出 Cosmos(1954.7) 原稿到着1953 短編 第49作

窓を風が叩く。何かが当たる。

若妻のロリは、そわそわし出した
窓を開けると、何度もカサカサと音を立てていた枯葉が、部屋に入り込んだ。

ロリは、夫のスティーブに尋ねた。
「私、外に出たいんだけど?」
「どこに行くんだ?」

「丘の上の農園」
「死んだレクリー爺さんの農園か?荒れ果てた?何で、あそこに何度も行きたがるんだ?何がある」

「今日で最後にするわ。いいでしょ?」
「あああ、夕食前に帰って来いよ」

ロリは枯葉を握り締めて、思った。
(いまから、そこに行くわ)


丘を登り、岩の点在する高原に出る。
雑草と枯草。井戸は枯れ、隅にはゴミ。タイヤと木材。

農園の縁には老樹。枝は折れ、地面に突き刺さり、根は露出している。

ロリは、それらを抜けていく。そして。

「やっと来たわ」
萎れた一本のリンゴの樹。

この老木を見ていると、ロリは不思議な気持ちになる。
魅力と嫌悪。
この水の枯れた古農園で、生きているのは、この木だけだ。

「私、来たのよ。何度も、何度も窓を叩いたわね」
萎びたリンゴが幾つか、なってはいるが、すでに枯れつつある。

風が吹き、リンゴの樹は枝と枝を擦り合わせ、きしむ音を出した。
「やめて!」

夕暮れが迫っていた。辺りは急速に暗くなって行った。
「だめよ!私は一緒に行かないの。ごめんなさい。それに、ここにも、もう来ないわ」

雨が降り始めた。
「本当は帰りたくないの。帰ったら、もうあなたに会えなくなるんですから」

風で枝がしなったのか。ロリの肩を、枝が触れた。
「だめ!触らないで!私を捕まえる事はできないわ」

気温は、どんどん下がって行った。
「さよなら」

ロリは丘を下って行った。

その時、後ろから何かが落ちてきた。斜面を、転がりながら。

ロリが手を伸ばすと、それはリンゴの実だった。その萎びたリンゴを掴むと、
ロリは、かじった。そして家へと帰って行った。


夜中、ロリは目が覚めた。
体に痛みが!
体をよじり、隣のスティーヴを呼んだ。

スティ−ヴは、起きて、「どうした?」と尋ねた。

苦しむロリは、ベッドから、転げ落ちた。
「いったい、どうしたんだ!」


その日は暗く、雪が降っていた。
ブレイア医師は、スティーヴを、なぐさめていた。
「避けがたい事だった。私が着いた時には、腸が破裂していた」

「あなたを呼ぶのが遅すぎたのでしょうか?」
「そんな事はない、この田舎では、君は充分、良くやったよ」

「それから、こんな事を聞いて申し訳ないが、検視医として、聞いておかなくちゃならない事がある。
ロリは、何かを飲み込んだのか?ピンやコイン、それとも種?」
「わからない、心当たりはないが」
「わかった、気を落とすな」

しばらくして。
スティーヴは、父と墓参りに来ていた。

「ロリは都会育ちだったから、ここで暮らすのは、合わなかったのかも知れないな」
小さな野原。花を抱えて、二人は歩く。

野原の中に、小さなリンゴの木が生えている。
そこには、小さいが赤い実が。

「この時期に、リンゴの実はなるのかな?」
「さあ、リンゴの事はよくわからん」

「随分、赤いな、ロリの頬もこんなに赤かった。彼女が走ると、頬は真っ赤になっていた」
「ああ、覚えているよ」

「スティーヴ、ここを出よう。何でも良い、早く出たいんだ」


..............


すいません、最後のお墓とリンゴの木の位置関係が判りませんでしたので、中途半端になってしまいました。
この辺は、原著を引かないと、ダメでしょうか?

で、この手の話だと、作者の目線が、どの主人公と同じか?と言う事があります。

普通の作家ですと、実利的な人=悪、夢見がちな人=善、とするのが一般的ですが、
ディックの場合、そうでもない場合があります。

キーになるのは、最後の一行だと思うのですが、この作品では、
意外にも、最後の文章が、舅の言葉で、それも、否定的ではない感じで終わります。

ディックは神秘主義者的だと判断をされる方も多いですが、ピューリタニズムの考えが強い事もわかります。

記:2011.07.10

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三分 小説 備忘録

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