3 Minutes World 3Minute World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World

顔のない博物館-北宋社
顔のない博物館


廃品博物館 Exhibit piece (1954) / フィリップKディック 訳:仁賀克雄のあらすじ
初出 If(1954.8) 原稿到着1953 短編 第30作

「ずいぶんと、変わった服をお召しですね?その丸いものは、いったい?」
ロボット運転手が、ジョージに声をかけた。

「ボタンと言うんだ。20世紀に流行ったのさ、実用性と、装飾性がある」
ジョージは空中タクシーを降りると、歴史局の20世紀フロアに急いだ。

フレミング監督官は、ジョージの格好を見てあきれた。
「変な格好は止めたらどうさ。あと、腕に抱えているには、潰れたジュラ紀のトカゲかい?」
「これは、ワニ皮のブリーフケースさ。20世紀に流行ったんだ。
   こうやって外見も彼らに成りきる事により...」

「ジョージ!研究熱心なのも良いが、自由過ぎるぞ。もっと社会の構成分子としての自覚を持て!」
「僕が持っているのは、自分の研究業績に関する誇りさ。
   今の人類は、かつての人間の黄金時代から、学び取る事が沢山ある」

「黙れ!過去を美化するなジョージ!模造品に囲まれていても、お前が生きているのは、この時代だ」

ジョージは思った。現在の厳しい階級制。固定化した組織、窮屈な生活。
それに比べ、20世紀。自由と活力と個性の時代。あれこそが、人間の住むべき所!


彼の研究成果は、このフロアの展示品となっている。
砂利敷きの小道の脇にはバラとパンジー。緑の芝生。ガレージには54年式ビュイック。

ここはカリフォルニアのバンガロー風住宅。

その時、彼は、家の中に物音を聞く。
(歴史局の調査員達は、帰っていなかったのか?奴ら、何か探しているのか?)

部外者立ち入り禁止の安全バーの中へ入る。

扉を開け、居間に入る。テーブル、ソファ、安楽椅子。貴重な灰皿がテーブルの上に。
地下室への階段を一瞥し、二階の子供部屋へ、そして寝室。1階へ戻り、風呂場を確認すると、

笑い声だ! 台所からだ。

台所に急ぐと、ホットケーキの香りが、一度食べた事がある、美味なる食べ物。

ドアを開けると、子供が彼にぶつかって来た。
「ああ、びっくりした!」
「あぶないわよ、ドン!あなたも、早く食べて!コーヒーも」

ジョージは、テーブルに腰をかけ、20世紀の飲み物、コーヒーを飲んで考えた。

(あの子はドン。それに弟がいるはずだ、そう名前はテッド。そして、この女性は俺の妻。
   名前は...マージョリーに決まってる。俺は、いったい、どうしたんだ?家族の名前を忘れそうに
   なるなんて...いや、家族?家族って何だっけ?歴史局のフロアに家族がいるって??...)

「あなた、ボケっとしてると、会社に遅れるわよ。デビッドソンさんが怒るって言ってたじゃないの!」

(そう、デビッドソンは社長。あの白髪頭。俺は、ユナイテッド エレクトリック サプライ社の社員。
   12階建てのビル。ロビーの新聞売り、エレベータに乗って、オフィスへ...)

「ねえパパ!キャンプに行っても良いよねえ?」
「あああ」

「まあ、あなた、あんなに反対してたのに!ドン、いったいどんな手を使って、OKを貰ったの?」
「わ〜い!キャンプに行けるぞお!」

「ところで、あなた、新聞はあったの?」
「ああ、(そうだ、新聞を取りに出たんだ)いや、配達がポーチじゃなくて、
   花壇に投げ込んで行ったんだ(俺はいったい、どうしたんだ?)」

「なあ、マージョリー。今日は、ちょっと病院に行こうと思う。
   このPTAで推薦されていた精神科医は、誰だっけ?」
「グランバーグ医師?」

「そう、それだ!じゃあ、行ってくる」
(あれカバンがない。そうか、向こうに置いて来たんだ)


「つまり、こう言う事ですね。あなたが、新聞を取りに外へ出て行ったら、
   あなたは、別の次元のあなたと入れ替わった、と」
「もしくは、この世界そのものが、私の想像の産物である。本当は存在しない」
「ほう、私もあなたの想像の産物ですか。これはあなたに感謝しなくちゃいけませんな」

「しかし、この世界がそんな影のようなもんとは思えない。これは明らかに実在です」
「なるほど、では私の話を心を開いて聞いて、質問に答えて下さい。あなたの目の前に子供がいます。
   その子は、手にロケットを持って遊んでいます。さあ、他に何がありますか?」

「ああ、実際にそんな光景を見た事もありますよ。ラ ガーディア空港でね。地球行きのフロリダ便を待っている
   カプの中で、手にはアルドラの箱を一杯抱えて、火星じゃアルドラは、ただみたいなもんで、つい買いすぎて...」

「はああ、あなたの妄想は、とても複雑だ。では、こうしましょう、話を元に戻すのです。あなたは、
   新聞を取りに、外に出て、この世界に来られた訳ですね。では、もう一度、新聞を取りに行って下さい」

家に戻り、庭に出た。
さて、ポーチには、新聞はなく、私は花壇の中に、新聞を見つける、そうあの辺り...

花壇まで行くと、向こうに、安全バーが見えた。

「おい、ジョージ出て来い!いつまで、おもちゃの中で遊んでるんだ!」
フレミング監督官は言った。

「何だ、その口に咥えているものは?」
「煙草さ、こっちでは流行っているんだ」
ジョージは煙を吐いた。

「フレミング。そこにあるカバンを取ってくれ。忘れたんだ。で、僕はもうここから戻らない。
   この世界、20世紀は素晴らしい所だ。自由と活力、可愛い妻と子供。全てが最高だ!」
「現実逃避も、いい加減にしろ!この模造品のガラクタは、撤去してやる」

「無駄ですよ。こっちの世界は現実なんだから。じゃあ、さようなら」
ジョージは家に戻り、くつろいだ。
お気に入りのカバンも、戻った。

さあ、この世界で、自由を楽しもう!
ジョージは、朝の新聞に目を通した。自由と活力!ようやく読めるぞ!

そこには、大きな文字で、こうあった。

「ソ連、新型コバルト弾を公表! 世界の破滅、近づく!」


..............


すいません! 『カプ』とか、『アルドラ』うんぬん、は勝手に足しました。
でも、まあ、こう言う事だと思うので、少し判り易くなりませんか?



記:2011.07.09

  3 Minutes World 3Minute World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World 3Minutes World

三分 小説 備忘録

  [どんな落ちだっけ?]




・ホーム
・ディック1トップ
・インフォメーション
・掲示板
・お問い合わせ