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顔のない博物館-北宋社
顔のない博物館


ハンギング ストレンヂャー Hanging Stranger / フィリップKディック 訳:仁賀克雄 のあらすじ
初出 Science Fiction Adventure(1953.12) 原稿到着1953 短編 第38作

エドは仕事場のテレビ販売店へ車を急がせていた。 最近、売り上げが伸びない。
店に着き、駐車場に車を止めた。隣の公園の木に、何かが釣り下がっているのに気が付いた。

ありゃ、一体、何だ。
よくみると、"見知らぬ首吊り死体"だった。

「た、大変だ!」

エドは店の同僚の所に行った。
「おい!公園に死体があるぞ!首吊りだ」
「ああ、知っているよ。しかし、エド、ここんとこ売り上げがさっぱりだ。今日は張り切って行こう!」

「いや、死体が...」
「おお。だから、それが、どうした?」

エドは、自分の見間違いかと思って、公園に戻った。もしや、いたずら人形なのでは?

しかし、死体は本物だった。皮膚はえぐられ、おびただしい内出血の跡。目は飛び出て...。
エドは吐き気がして来た。道に吐いていると、見知らぬ人がやって来て、

「大丈夫ですか。お医者さんを呼びましょうか?」
「いや、医者より、警察を呼んでくれ!死体が、首吊り死体が...」

そこに警官風の二人がやって来た。
「どうしました?」
「良い所に来た。死体だ!ほら、あそこ、首吊り死体がある!」

「ではパトカーへどうぞ。ところで、貴方は昨晩、どこにいらっしゃいましたか?」
エドの乗ったパトカーは車の間を滑りぬける。

「夕べは、地下室の修理を一晩中していました」
「なるほど、それで、ですか。あの死体について、ご存知ない?あれは、見せしめです」

エドは思った。こいつは警官ではない。俺もこの町に長い。ここら辺の警官は、
みんな顔見知りだ。しかし、この二人は全く知らん。こいつらは警官ではない!

「お巡りさん。もう、落ち着きました。私はちょっと興奮していただけです。もう帰ります」
「いや、簡単な取調べを受けて貰う。いや、すぐに済みますよ」

エドは、パトカーのドアを開け、道路に転がり出た。

エドは町を歩く。そして、何かを感じる。
耳をそばだてる。

ブーンと言う音が、聞こえてくる。大きい!
まるで、巨大なミツバチの大群。

見上げる市庁舎の真上。黒い雲がある。雲は大きくなって行く。
その一つ一つが、暗黒の裂け目から湧き出てくる。

彼は、その形を見た!そして、逃げ出した。

塀の影に隠れていると、それは舞い降りて来た。
翅を持った巨大な"昆虫"。怖くて、エドは目をつぶった。

目を開けると、そこに居るのは男達。そいつらは、あちこちに散って行った。

人間もどきだ!エドはガクガクと震えた。

地球の昆虫に似た侵略者。人間への擬態。模造人間。
こいつらは、いつから、また、どのくらいいるのか?

エドはバスに乗り、家へと帰る。
バスの中で、乗客を観察する。
この人達は、大丈夫そうだ。

(よかった。まだ、奴らの勢力が強い訳じゃない)

しかし、ふと、気が付く。自分を後ろから、見ている奴がいた事を。

その人間もどきは、エドを見ていた。まるで昆虫の目で!

エドは反射的に、入り口の非常用コックを開けた!

「おい!危ないぞ!」
運転手の警告にも拘わらず、エドは道に飛び出した。

ゴトゴトと、二転して止まる。体中が痛い。しかし、捕まるよりは!

「エド!いったいどうしたの?」

エドは、妻ジャネットを観察する。(よし大丈夫だ。奴ら、まだここまでは...)

「窓を閉めろ!逃げるぞ。この町から」
「何があったの?」

「この町は、宇宙から来た翅を持った奴らに侵略された。奴らは人間そっくりに化ける。
   俺も捕まりそうになった。実際に捕まった奴も観た。枝に吊るされていた」
「エド、落ち着いて。そんな話、全く伝わっていないわ」

「そうだ。市庁舎は、完全に奴らの巣だ。上の黒雲を見ろ!情報はコントロールされている」
「それで、どうするつもりなの?」

「車で逃げる。急げ、金だけ持っていけ。子供達を呼べ!」
エドは手近な武器を集めた。フォーク、ナイフ、包丁。

「パパ、どうしたの?」
長男のトミーが降りて来た。
「僕、分数の宿題をしてるんだ。ちょっと待って」

「分数は、今はいらない。ジムはどこだ?」

「ぼく、ここだよパパ」
振りかえると、そこには次男のジム...いやジムのようなものがいた。

エドは、音を聞いた。
ブーン。

エドは、テーブルの上の、包丁を握り締めた。

(こ、こいつは)

小さい人間に擬態した昆虫?クリクリした目は、まるで昆虫。
キラキラ光る冷たい複眼。人間性がその中にない。

じっと見ていると、奇妙な格好をした。
そして、エドに飛び掛ってきた!

針だ! 針! これがこいつらの武器!
エドの心の中に、何かが侵入して来る。

ぶんぶん、と言う翅の音。

エドは包丁を振り回した。

トミーとジャネットは、呆然としていた。

跡には、肉の塊が、あった。

「早く、来い!」
エドは、ジャネットとトミーを呼んだ。
しかし、どちらも、近寄っては来ない。

エドは逃げた。妻子がいないのであれば、車より徒歩の方が、奴らに見つかりづらい。


朝早く、森の中から背広姿の男が、ぜいぜい言いながら走って来るのを、
ガソリンスタンドの店員は、気が付いた。
「どうしました?」

「ああ、やっとパイクヴィルを出られた。あの街は、奴らに占拠された
   でも、明け方、奴らは飛んで行ったんだ。俺にはわかった。あの翅音!」

「落ち着いて下さい」
「と、ともかく警察に案内してくれ」

「..と言う訳です。パイクヴィルの警察には連絡しないで下さい。あそこは、侵略者の拠点です」
「お話はわかりましたが、あちらの警察には連絡しません。しかし、貴方のお話は、
   簡単には信じられない内容です。何か具体的な証拠は、ありませんか」

「証拠?証拠は、どこにでもあります。奴らとの戦いは、もう何千年も続いているのです」
「ほう、また、随分と長い戦いですな」

「宗教画に書かれている悪魔。翅を持った、まるで蠅のような悪魔。あれです。
   あれが、今、攻めて来たのです。宗教画は警告だったのです」

「人に乗り移るのですか。しかし、彼らは貴方を見逃した」
「そうです。かつての戦いでも、ヘブライ人は、彼らの魔手を逃れ、
   その危険性を書いた文書を世界に示した。私が、云わばヘブライ人なのです」

「はああ、なるほど、あああ、よくわかりました。貴方には全てがおわかりのようですね。
   素晴らしい!あなたは頭の良い方です。ところで、首吊りの謎は解けましたか?
   何故、彼らが、わざわざ死体を、目立つところに置いたのか?」

「いえ、その理由はまだ。何故でしょう?」

「それは、貴方のような、まだ、侵略されていない人間をあぶり出すためですよ。罠ですな」
「なるほど、確かに、私は罠にかかった」

「そうです。では、こちらへどうぞ。今後のご相談をしましょう」


翌朝。
銀行の頭取クレランスは、家に帰る所だった。
昨晩は、貸金庫の拡張のために、徹夜で、金庫内で、計画を練っていたのだ。

守衛は、いつものように陽気だった。
「じゃあ」
クレランスが手を上げると、守衛もにっこりと白い歯を見せた。

しかし、その守衛所の向こう、公園の入り口にへんなものがぶら下っているのに、気づいた。

(何だ、ありゃ、随分と大きいな。犬や猫じゃない。まるで...)

クレランスは公園に近寄った。
公園の周りにはたくさんの人がいた。

しかし、その釣り下がったものに、気づいているのは、彼だけだった。


..............



トワイライト ゾーンっぽい落ちですが、救いのなさがちょっと違う。
いってる感じです。妄想の塊のような...

しかし、次男の件は、どう考えても...納得が...

記:2011.07.02

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三分 小説 備忘録

  [どんな落ちだっけ?]




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