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模造記憶-新潮文庫
模造記憶


ぶざまなオルフェウス Orpheus with Clay Feet / フィリップKディック 訳:浅倉久志 のあらすじ
初出 Escape(1964) 原稿到着1963 短編 第94作 ... 作者Jack Dowlandで発表

スレード氏は、コンコード兵役相談所の相談員。
彼の役目は、兵役逃れの相談者に、その方法を教える事。

地球と異星人との戦いは、苛烈さを増し、危険な状況である。
兵役逃れの相談者は、増えるばかり

今日の相談者には、部屋に入ってくる時、少し右に傾きながら、椅子に座った。

(よし、例の手だ)
「グロスバインさん、貴方は、少し体を斜めにする癖がありますね。それは、貴方には
   平衡感覚に異常がある、と言う証拠ではないですか?それは戦争において、大変大きな障害になります。
   まして、真っ暗な夜となると、貴方はどうなりますか?」

「えーっと。真っ暗な夜では、どちらが上か判らず、歩くことは出来なくなります」
「はい、それでOKです。兵役検査の時は、そう答えて下さい」

「はあ...」
しかし、スレード氏は、この商売にうんざりしていた。
仮病でずるをする怠け者達の、お先棒かつぎ。俺は一体、何なのだ。

そして、スレード氏自身も、この世界から、ちょっと逃げ出したくなった。
そこで、彼は、あこがれの「ミューズ エンタープライズ」に行った。

ミューズ エンタープライズは、新しいタイム トラベル旅行社である。そこでは、旅行者を、
特定の過去に送ってくれる。そこで、旅行者は、過去の偉人達に、霊感をさずける事ができる。
ミューズだ。天才たちの偉大な作品に関われるのだ。

スレード氏はベートーベンに、第九交響曲のインスピレーションを与えるつもりだったが、
それは、もう別の旅行者によって、為された後だった。

そこで、彼が思いついたのは、あるSF作家に霊感を与えること。
その作家ジャック ダウランドは、ハインライン、アジモフと並ぶ、偉大なる有名作家である。

彼の作った、名作"塀の上の父親"の素晴らしさ!
彼がまだSFを書く前に行き、SFの素晴らしさを伝え、SF作家となる霊感を与えるのだ!

そして、彼は、1950年代の風俗をマスターし、時間旅行に出た。

「ジャック ダウランドさん。私は貴方のファンです」
「あら、ジャック。貴方のファンだって言う人が来たわよ」

「え?ファン?またもの好きが来たもんだ。なんだお前のネクタイは?」
「何か、おかしいですか」

「いや、ネクタイって言うのは、喉仏の所で結び目を作るもんだが、あんたのは、
   鳩尾の辺りで結び目を作っている、そりゃ、何のまじないだ?」
ジャックは不機嫌だった。

スレードは、ジャックにSFの素晴らしさを伝えるが、
彼は、あんなガキ向けの馬鹿話は書くつもりは無い!と取り付くしまもない。

そこでスレードは、ミューズが決して言ってはいけない事を口にしてしまう。
自分は未来からやって来た、貴方はSF作家として大成する人だと!

スレードが戻ると、ミューズ エンタープライズの担当者は、カンカンだった。
スレードが旅立ってからすぐ、SF作家ジャック ダウランドは、歴史から消えてしまった。

彼はSF作品を、殆ど書かなかったのだ。

スレードと出合った事が、彼にSF嫌いを植え付けてしまったのだ。

「なんて事をしてくれたんだ。貴方みたいな人は見たことがない!」
「すいません。もう一度やらせて下さい。今度こそ」

「いや、貴方は"逆ミューズ"とも言える才能をお持ちだ。貴方の囁きを聞いたものは、
   やる気を失うのだ。だから貴方には、ヒットラーのところに行って、"我が闘争"の著述へのミューズを
   与えてくれないか。ヒットラーは、きっと第三帝国を樹立できなくなる!
   カールマルクスに、資本論のミューズを与えるのは、どうだろう。共産国ができなくなるかも知れない」

「そんな馬鹿な事はできません」
「いや、君は結局、承諾するのさ。だって、この本に書いてある」
「何ですか、それは?」

「"ぶざまなオルフェウス"という本さ。著者はPKディック。ジャック ダウランドが
   たった一冊だけ書いたSFの本さ。そこには、今回のこの顛末が、この本に全部書いてある」

「その本は、最後にどうなるのですか」

「本の最後は、こうさ。私が貴方に請求書を渡す。
   帰って来れなかった時のために、前払いで。それで君は、払うのさ」

「わかりました」
スレードはあきらめて、ポケットから財布を捜すのだった。


..............


楽屋落ちですけど、それだけで終わっていない、面白さがある作品です。

記:2011.04.13


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三分 小説 備忘録

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