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悪夢機械-新潮文庫
悪夢機械


凍った旅 Frozen Journy(I Hope I Shall Arrive Soon) / フィリップKディック 訳:浅倉久志 のあらすじ
初出 Playboy(1980.12) 原稿到着1980 短編 第119作

遠方の移民星への、冷凍睡眠旅行をする宇宙船。

しかし、この宇宙船を制御しているAIが異変を感じます。ある男の睡眠装置に異常が発生したのです。
この男の生命を守るために、この男を、半覚醒状態にしないと行けません。

まだ、目的地に到着するまでに、10年もかかります。
しかし、船は自分自身で、内部設備を修理する事はできないので、
その間、この男を、ずっと起こしておかなければならないのです。

AIは男を起こします。そして、現在の事態を告げます。
男は、それなら、10年間、宇宙船内部で暮らすから、完全に起こしてくれと頼みます。

しかし、宇宙船は、そのような想定で作られていませんので、中に空気も食料もありません。
「起きた状態」と言っても、他の乗組員のように、夢もみない完全な休眠ではなく、
夢を見続ける、半分意識のある状態でいるしかないのです。

そこでAIは次のような提案をします。

貴方の脳を調べて、楽しそうな部分を刺激するので、そこでの"夢の"生活を楽しんで下さい。

男も納得します。
そして、AIは彼が新婚生活をしていた記憶を見つけ、そこを刺激します。

男は、昔、暮らしていた懐かしい家にいました。そばには新婚の愛らしい妻がいます。

生活は幸せです。居間には、彼らにはちょっと贅沢な、お気に入りの絵画が飾ってあります。
この絵画はちょっとした値打ち物です。いざとなったら良い値段が付くはずです。

彼は、妻とビンテージのワインを飲もうと思い、地下室に降ります。
どれにしようかな?とワインを探していると、その地下室の壁に不自然な箇所を見つけます。

これはどうした事だ?直さないと!大事な家が壊れてしまう。
彼はコテをあてがいます。
(ん?このコテは何だ?さっきまで、こんなコテは持っていなかったが?)

そして、壁を直そうとコテをあてがいますが、壁はボロボロと崩れるばかり!

ああ、大事な家が!壊れてしまう。壁はどんどん崩れ落ちる!!
これでは家が!ワインが!絵画が!壊れてしまう!妻は?妻は??


AIは彼の脳を刺激するのを止めました。

どこが間違っていたのだろう?ふつうこれで、うまく行くはずなのだが?
どうして、生活の中に、幸せを感じられないのだろう?

そして、
この女性とは結局、この後、別れている。だから、まずかったのだろう、と結論づけた。

しかしそれにしても、あの壁の片隅の不自然さを気に留めるとは、なんて神経質な人なんだ。

これは、もっと子供の頃の記憶にしないと...
AIは別の記憶を刺激します。


彼はまだ5歳。庭でクモの巣にかかった、ミツバチを見ています。

これでは、ミツバチは殺されてしまう!と彼は、
クモの巣からミツバチを、逃がそうと指を出します。
しかし、ミツバチは、助けてくれるはずの彼の指を刺して、死んでしまいます。

痛い!痛い!
(どうして、僕を刺すんだ、馬鹿なミツバチめ!もう絶対助けてやらないぞ!)

彼は家の裏に行きます。
そこで、彼はクモの巣にかかってもがいている小鳥と、その小鳥を捕まえようと
必死にジャンプをしている家猫を見ます。

その猫をだっこすると、猫はジャンプして小鳥をくわえて行ってしまいます。

「猫が小鳥を取ったよ」と母に伝えると、母は、
「ひどい猫!あんな猫は捨ててしまう!」と怒ります。

彼は砂場で、小鳥の事を思って涙を流します。
(ごめんなさい...)
彼は、しくしくと、泣きます。


AIは困りました。
この人物は、酷く神経質で、心の中に様々な罪悪感を抱え、気晴らしなどと言うものとは
無縁の人間だ。どう扱ったら良いのだろう?

これでは、子供の頃より、あの新婚生活の方がましだ。やはり、あちらの夢を。


妻が言います。「この絵は贋物じゃないの?」
「いや、だって証明書があるじゃないか、この道の権威のレイが書いた!」

「でも、その証明書が本物だって言う、もうひとつの証明書も、いるわよね?」
「でもレイは死んでしまったんだ。火星で」

「本当なの?」
「ああ、僕が猫を抱えたら、猫の奴、ぴょんと飛び上がって、レイを捕まえて、
   むしゃむしゃ食っちまったんだ。あれは僕のせいだ」

「ねえ落ち着いて、何か話が変よ?」
「ああ、変なのは僕だ。でも神様は全部お見通しなんだ。この家はやがて、崩れてしまう!
   もうおしまいなんだ!!」


これではダメだ。AIは夢を変え、今度は、彼に目的地に到着した夢を見せます。

しかし、彼は、その夢の中の小さな矛盾を見つけて、それが、夢であると言い張ります。

「どうせ、すべて造り物なんだ、ネジ回しを持ってこい、そのテレビを開けてみれば、
   どうせ、中身は空っぽの造り物だ!」

彼が、ネジ回しでテレビの裏ふたをあけると、はたして、中身は空っぽでした。
このテレビは、まやかしの一部です。


まいったな。

AIは困りました。

この神経質な偏執狂には、打つ手がない。
どんな楽しい夢を見せても、「こんな幸せはありえない!」とばかりに、ぶち壊してしまう。


AIは彼の夢を止めました。そして、もう少し現実的な手段を考えました。
彼の結婚相手の女性を、探して見ました。

幸運な事に、その女性は、この近くの星に移住していたのです。
AIは女性を呼び、彼に会ってもらえないか?と頼みます。女性も、彼に会うことを望んでいました。

男が起きます。
目的地に着きました。そこで、彼は、かつての妻に会います。夢の中とは違って、妻は年を
とっていました。

そして、彼は、かつての妻に、もう一度やり直そうと頼むのです。

僕は知っている、君が幻だと言う事を。
「ほら、僕の手は、君の体をすり抜ける」

彼女には、彼の手の力は伝わってきました。
しかし、彼には、彼女の体の存在は感じ取れませんでした。

でも、僕はもう一度やり直したいんだ。
そして、彼女も承諾しました。



..............


こいつの異常な夢!
他人事とは思えません!!
でも最後に、「夢と思っても、すがらざるをえない」彼の"成長"が好きです。

記:2011.04.02



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三分 小説 備忘録

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