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悪夢機械-新潮文庫
悪夢機械


輪廻の車 The Turning Wheel / フィリップKディック 訳:浅倉久志 のあらすじ
初出 Science Fiction Stories 2(1954) 原稿到着1953 短編 第65作


チャイ導師は、スン ウー導師を呼んだ。
「君には、デトロイト地区に行ってもらう。かの地の、下層民達の道徳荒廃は甚だしい。
   彼らの状況を報告し、もしテクノ集団が危険なまでに拡大していたら、処理を考える」

スン ウーは身震いした。
敗戦国の民、白人達の秘密結社が暗躍した、無法の町デトロイト!あんな所に!

「私はデトロイト一帯には、全くの不案内です。他に適任者はいないのでしょうか」
「君も、改宗支持者なのかね?これは"徳"を大いに積む行為だと思えるが」

白人とは、ネアンデルタール人の直径の子孫。あの暴力性、体毛、巨躯。まるで動物である。
人間としての、知性など全く期待できない、人間の宗教など教えるだけが無駄なのだ。
そう、教えられていた。

「いえ、もちろん改宗支持者ではありません。わかりました。私はデトロイトに参ります」
スン ウーは、震えながら、胸の数珠を握り締めた。

スン ウーは、困った。
断食をし、鞭打ち修行をした。

欲を無くすために、大事な家宝の花瓶を割った。
町の広場で、汚物と泥にまみれる儀式も行った。

ここまでの、"徳"を積みながら、まだ足りないのか。

なぜ、あの恐るべき凶悪な白人達の所に、最下層の者の所に、出向かなくてはならないのか!
どれだけ、徳を積めば良いのだ?

自分の顔を、鏡に写して見る。

宇宙は平等。全ては因果応報、真の公正が保たれている。

"徳"を積んだ者だけが、再び人間に生まれ変われる。
今まで、積んだ"徳"で、自分は何に生まれ変わるのか?
リスか、蛇か、それとも、蠅か!

糞の回りに群がる、あの蠅になってしまうのか!

時間がない!時間がないのだ。私の転生は、もう迫っているのに...
彼は腕をめくる。赤い斑点が大きくなっている。

これは、"死の病"だ。世界中に拡がる、不治の疫病の一つ。

この病で死ぬ者をみた事がある。うなされ、下痢を繰り返し、腹に激痛が襲う。
やがて、体力を消耗し、激痛に、身じろぎもできなくなった時に...

死ぬのだ。

この病気で死んだ者の体は、ロボット処理人の手で焼却される。
僧侶に弔ってもらう事はない。危険な病気なのだ。

僧侶が関わらない死とは!
考えただけでも、おぞましい。

下降だ!
生命の連続体の階層を落ちる。最上位の人間から、ガラガラと落ちて行く。


実は、スン ウーは、若い頃あやまちを犯した事があった。友人の妻への恋。

当時は若かった。
まだ自分には贖罪の期間は、充分にあると思っていた。

この恋の後には、それを償う贖罪の時間は、充分にあると。
しかし、時はあっと言う間に過ぎ去り、そしてこの病。もう転生はすぐ!

このままでは、自分は落ちていく! 生命の階段を落ち、リス、蛇、蠅、その下へ...


スン ウーは、デトロイトに出向いた。ここには、秘密結社ティンカー教徒達がいる。
彼らは、300人ほどの集団で、最下層である"テクノ階級"の集団だ。

階層は、導師−詩人−画家−音楽家−ロボット教育者−商人−戦士−農民−テクノ。

移動船は、デトロイト地区に急降下し、不時着した。故障したらしい。
スン ウーが外に出ると、子供がいた。最下層民だろう。

船を出ると子供がいた。
「おじさん、どうしたの」
「船が故障したのだ」

「僕、修理できる人を知っているよ」
(修理、とは!ふん!怪しげな邪教の民の、しそうな事だ)

神の教えを信じず、邪教にふける者どもは、来世で虫に、転生するのだ!

スン ウーは、この地区の状態を調べた。

ここの者達は貧しい。それは神から与えられた試練である。
この試練をくぐった者は、浄化され上の段階に転生できるのだ。

スン ウーが子供達を相手に、神の教えを伝えていると、やって来た。テクノ達が。

大柄で、毛むくじゃら。色は白く、神は金髪。
これこそ、古代のネアンデルタール人のなれの果て。にせの人間だ。

「私は、この地区の調査に来た。この地の監督官はどこにいる」
「ついて来な」

その監督官は、インディアンだった。スン ウー少しほっとした。
「私は、出生率と死亡率の調査にやって来た。
   姦淫にふけっていそうな、この地では、さぞかし出生率も高いのだろうな」

そしてスン ウーは、狂信的な踊りの儀式を見る。
人々が陶酔し、踊りあけ、行進する。
多くの住民が参加するその儀式は、ティンカー教のものだった。

ティンカー教は、この地全体に蔓延していたのだ。

ひどい!悪魔的な教義は、この地を汚染しているのだ。


船に逃げ帰ろうとしたスン ウーは、とんでもない光景に出くわす。

まだ、若いインディアンの少女が、自分の同胞を打ち殺そうとしているのだ。

罪!なんたる、罪深き行い!

「女!教祖エルロンの名に於いて、殺生はやめよ!」

スン ウーは少女の手を掴んで、ねじ上げた。
「これは、お前の同胞! 最近みまかったばかりの、親族かもしれんのだ!」

畑の作物にたかっていた、害虫を捕まえていた少女は、突然、取り押さえられて、驚いた。

「何するのよ!作物をかじる虫を、取っているのよ!」
「そ、それは、かつて人間だったのだ。お前には、それが判らんのか!」

(ここは、邪教の町だ!おぞましい!)

「わかったわ。わかった。虫を殺すのは止めるわよ」
「娘よ、私は導師だ。お前を正しき道へと、導いてくれよう」

スン ウーは、娘に教義を教えるために、娘の家へと連れて行って貰った。
彼女の両親に会うと、白人だった。
少女は濃く日焼けしていたので、スン ウーは勘違いをしていたのだ。

少女は言った。
「これが、私の両親。そして、おじいさんよ。名前は、ベンジャミン ティンカー」
(なんとティンカーとは!こ、これが!邪教の教祖であろう!)

スン ウーは、このティンカー教の教祖と、話しをした。

ベンジャミンは、自分達の計画を話した。
川を作って水を引き、薬をまいて害虫を殺す。さらに機械を作って畑を耕し、耕地面積を増やす。

すべてが、神の計画に対する危険な"干渉"だった。

「お前達が、やろうとしているのは、全てを計画された、万能の神に対する、無謀な"干渉"だ」
「全てを、神が計画されたのなら、私たちの計画も、神の意図の一部とは思わんのかね」

「うるさい。お前らの計画は実行させん。お、お前ら、私を殺す気だな。
   私は、今、今、殺されたら蠅になってしまう」
「殺すつもりなどないよ。安心しなさい」

「いや、お前らに殺す気がなくとも、私は病に犯されている。死はすぐ、そばまで来ている」
「その病気とは、どんな症状だい?教えてくれ。わずかだか、良い薬もあるんだが...」


チャイ導師は、スン ウーの調査報告を聞いていた。
「ティンカー教は、デトロイトでは全く力はありません。殆どのものは
   我が宗教に帰依しております。噂に惑わされず、放って置けば良いのです」
発表後、スン ウーは長期休暇の願い出た。

彼は心の安静を取り戻していた。これからは、疫病地への視察も、また自分自身の死も向き合うことができる。
充分な贖罪の期間も、得る事ができた。彼の心は、安寧に満ちていた。

彼は、首の新しい数珠を掴み、幸せを感じた。
やがて、彼は、このペニシリン カプセル普及させるのだった。

..............


しかし、導師−詩人−画家−...−テクノ、だって、
もう、我々は、この宗教世界にいるのかも知れません。あ、詩人と画家の間に、アスリートって奴を入れてね。

TV宗教、マスコミ教、エンターテイメント教...

教=狂=凶...

で、私ですが、テクノですので、当然、来世は虫です!

記:2011.03.29


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三分 小説 備忘録

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