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悪夢機械-新潮文庫
悪夢機械


訪問者 Planet for Transients / フィリップKディック 訳:浅倉久志 のあらすじ
初出 Fantastic Universe(1953.10-11) 原稿到着1953 短編 第51作

トレントは、鉛で裏打ちされた重たい防護服で、地上捜索を続けていた。

新たな酸素ボンベを開けて、呼吸する。ベレット食も、まだ残っている。あと数時間は持つ。

「こちらはトレント。あと数時間、捜索して戻ります」
「危険な事はするなよ」

その背後から、
「こんちわ」

二人の若者がトレントに声をかけた。

斧を持った男達。

身長は2メートルをはるかに超え、皮膚は青色で、ぶ厚い。骨と肉ばかりのガリガリの体。
しかし、その外見以上に、彼らが人間と異なるのは、代謝能力だ。
放射性塩類を、摂取できるのだ。進化した消化器系。

「よろしく。あんた人間だ。おれはジャクソン。これはアール」

ジャクソンは、手を差し伸べた。
トレントは、その手に、そっと握手した。

「よろしく、俺はトレント。君達はこの辺りに俺以外の人間は住んでいるか、知ってるかい?」
「知らない。いないよ。俺が初めて話した人間は、あんた」
(やはり、そうか)

「あんた、地下で暮らしてるんか?もう戦争、終わって、300年、経つのに!」
「そうさ、俺達は、地下で発電機を回して暮らしているんだ。文明生活だ」

「すげえなあ。なあ、俺達の村、来ないか?歓迎するよ。放射能の少ない食料もある」

こいつらは、全世界に放射能を蔓延させた戦争の後に、進化、いや環境に適合した、亜種の人間だ。

こいつらの部族は、"トカゲ"。
そのすばしっこさから、そう呼ばれる。

それ以外にも"コロガシ"や"イダテン"。様々な亜種人間。

最近、勢力を拡大しているのが"アリンコ"。
北には"ミミズ"もいる。こいつらは、完全な地下生活者で、目も退化している。

戦争後、地球は生命に溢れている。植物、動物、すべての生物が放射線を浴び、多くが滅んだが、
また多くの種が、同時に突然変異=淘汰を、繰り返していた。

亜種人間は、人間に興味があるらしい。失われた文化の象徴であり、知恵の象徴。預言者でもある。

トレントはジャクソン達と別れ、捜索を続けた。同じ人間を見つけ、協力し合わなければ、自滅は必至だ。
トレントたちは、定期的に、他の人間グループを見つけるために探索しているが、まだ見つかってはいない。

放射能レベルを計るために、地面から土を採取しようと、かがんでいると、
突然、頭に衝撃を受け、トレントは気を失った。


気がつくと、彼はアリンコに囲まれていた。縛られ、腰のブラスター銃も奪われていた。

アリンコ。
小型の亜種人間。昆虫のような外皮。社会性と慎重な探査力。それにトレントは捕まった。
確かにこの辺りでは人間は珍しいらしいが、捕獲するほど貴重だと言うのでは、
この地に、もう人間はいないとの証なのか。

アリンコは、トレントを連れて行軍する。
その途中、飛び道具を持った、小型の生物に襲われた。

イダテンだ。
カンガルーのように跳ね、素早く攻撃する。

アリンコは散り散りに逃げ、トレントは救われた。
トレントはイダテン達に、他に人間がいないか尋ねた。

「大きな居留地、あった。でも、今、もういない」
「彼らは巨大な設備を持っていたはずだ」
「ああ、持ってた。だが、彼らが、どこに行ったのかは、知らない。消えた」

トレントは、イダテンの言う、大規模な居留地に、辿りついた。もう酸素ボンベもない。引き返す事は不可能だ。

ここは、かつて防護壁に守られ、ろ過された安心な空気と水で生活していた都市だった。
しかし今やそれらの機能は、全て停止している。

(しかし、最近までいたはずだ。まだ設備が新しい)

トレントは通信機のスイッチを入れる。そして基地からの僅かな応答を得る。
幸い、連絡は付き、通信員のダグラスが、トラックで回収に来てくれる事になった。

その時、外から大きな音がする。
ダグラスのお迎えの到着か?
しかし、こんなに早い訳はない。

それはロケットだった。細長い金属形。人類の英知の象徴。


ロケットから出てきた男は、ノリスと言う、かつてこの地に住んでいた人間だった。

彼は、トレントに尋ねた。
「君達が住んでいると言う、鉱山に残っている人間は、何名だ」
「約30人」
「では我々と行こう。火星へ」
「火星?」
「ああ、でもそれは一時的だ。恒久的には、ガニメデが候補だ」

「そんなに遠くに!それだけの科学力があったら、この地球の汚染を消せないのか?」
「いや、もう遅い。たとえ可能でも、今、汚染を除去することは、新たな大虐殺を産む」

「?」
「彼らだよ。トカゲ、アリンコ、イダテン、ミミズ...彼らは、この放射能の溢れた世界に適応している。
   放射能が除去されれば、彼らは死に絶える」

「しかし、ここは我々の故郷だ...」

「よく見てみろよ。自分の姿を、でかいヘルメットに、ぶ厚い鉛の防護服で、ヨチヨチと歩く。
   どう見ても、よその星の生物が、ちょっと立ち寄っただけさ。それに比べて奴らを見ろ。
   裸で、走り回り、植物を育て、狩をする。ここは奴らの星だ」

「わかった。でも、いつかは、戻って来たいな。この故郷に」
「ああ、でもその時に、彼らは言うかも知れない。よそ者はお断りだと」



..............


色々な生き物が出てくるくだりは、
「地球の長い午後」のようでわくわくします。

自然と言うか、社会を、静的なものと捕らえるか、動的なものと捕らえるかで、印象は大きく、変わります。

同じカタストロフィは、前者では、死の世界となり、後者では、新旧の交代となる。
そこでは、被害者すらが、当事者の思い込みでしかなくなる。

大きなフードコートが新設された土地で以前から営業している小中華料理店。
善悪とは、その時点の多数者の損得には矛盾しない様に決められるようです。
少なくともマスメディアにおいては

ストーリー自体は、「300年でそんなに変わるの?」とか、「出た!ガニメデ、パラダイス!」
などの感想はありますけど、

1953年としてはなかなかに含蓄のあるストーリに行きついたものだと思います

記:2011.03.18


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三分 小説 備忘録

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