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ベータ2のバラッド   - 国書刊行会(2006)
ベータ2のバラッド

プリティ マギー マネーアイズ Pretty Maggie Moneyeyes /ハーラン エリソンHarlan Ellison 訳:伊藤典夫 のあらすじ

6枚の5ドル チップがディラーのチップ入れに入った。
これで、このラス ヴェガス=西欧社会の遊園地で、俺は無一文になった。

ブラック ジャックは、もう終りだ。歩いて出口に向かうと、スロットマシンの
群れの中だった。ダイムの回収機だ。人は狂った様に、ダイムを放り込む。
おかげで、どの機械も呼んでいる。「勝ち越し」「勝ち越し」「さあ、今がチャンス!」

俺は、ポケットに手をいれる。中には1ドル銀貨があった。ラッキーだ!
しかし、こいつはダイム機には入らない。すると、その隣にあった。1ドル マシン。愛称チーフ。

ジャックポットは2000ドル。こいつは良い!俺はついている!

俺は、銀貨をスロットに放り込む。
レバーを引く前に、祈りの言葉を考えたが、思いつかなかった。


***
母はチェロキー インディアン。トラック相手の食堂で働いていた。父は通りすがりの運転手。
9ヶ月に生まれたのが、マーガレット ジェシー。つまりマギーだ。
脚は長く、胸はない。パットもごめんだ。そう言うのが好きな野郎は、あっちに行きな。
顎を突き出し、小さな口には蜂蜜がいっぱい。わし鼻はチェロキーの証拠。髪はブロンド。
瞳はブルー。彼女の中には、フランスとポーランドとアイルランドとチェロキーが同居している。
23歳。いつも金を無心に来る母親も先週、火事で死んだ。ママ良かったね。
台所で死んだ女は、みんな天国に行けるのよ。

マギー、マギー。今の彼氏はシチリア人。金には不自由しない。金が私を呼んでるの。
金がある所に、吸い寄せられるのよ。
***


ドラムはなかなか止まらない。一列目がチェリーなら、まず十ドル、それから…何だこりゃ。
ドラムは変な所に引っかかった。チェリーでもプラムでもない。目だ。青い目。
それが、俺を見つめていた。

何だ。こりゃ。本物のジャックポットって奴か??


音がして、20枚の銀貨が落ちてきた。
頭上で、オレンジのライトが光る…当りの様だ。
ただ、これは何の当りだ?もし、2000ドルなら、残りの1980枚は、別に貰えるのだが。

フロアのマネージャが、こっちを見た。
この青い目は誰だ?


***
回路が増殖を始める。勝手に接続が出来る。電流が流れる。男の体に10億ボルトの電気を流す。
その指から血が滴る。目玉は、ぶよぶよになる。もう全身に放射能を帯びている。
***


俺は気を失い、スロットに、もたれていた。
「大丈夫ですか?」
係員が俺を起した。目の前のスロット台を見る。

ジャックポットだ!
ただ、青い目は消えていた。20ドルを摘むと、両替へ急いだ。


「お金は、現金ですか?それとも小切手で?」
「小切手でくれ」
「この後は、どうなさいます」
「もう少し、スロットをやってみる」
出納係は、ニコッと笑った。目の前にカモがいたのだ。金はすぐに帰って来るさ。


俺は、スロットを引いた。
後ろでは、あの出納係が、こっちを、まだ見ている。
俺が、レバーを引くと、また、あの音がした。出納係は、たまげていた。


***
マギーは、ブタ野郎のシチリア人、ヌンチオの上に跨った。
こいつはマギーにぞっこんだ。変態野郎。ただ金がある。
マギーは言う。「今日は、あんたの顔を見たくない。カジノへ行くから、金をちょうだい!」

カジノに来て、マギーは思う。
ギャンブルなんて、つまらない。私は、何故、ここにいるんだろう。シチリアのブタに囲われて、
ヌンチオは今頃、ホテルでシャワーを浴びてるだろう。さっき、言ってやったのだ。
『あんたは臭い!』って。
それで、一生懸命に体を洗っているのだ。それを思うと、マギーは、より腹立たしくなった。

あり余る金と虚無、の場所。カジノは、今の、あたしにぴったり。
***


マギーは、銀貨のスロットに向かった。
ヌンチオはいつも言うのだ。やるんなら、5セントか10セントのスロットにしろ。そうすれば、
長く遊べる。でも、あたしは、いつも、このスロットで、あっと言う間に、100ドルをする。
そうすると、ヌンチオは怒るのだ。

マギーはレバーを引きながら思う。青い目のマギーは思う。憎しみ、シチリアのブタとの日々。
銀貨は落ちる。ブタとはもうおさらばだ。でも、その後、どうする?銀貨は落ちる。

あのブタには、もう、あたしの体は触らせない。

マギーは、"チーフ"の前に座った。彼女の愛用のマシンだ。こいつに、銀貨を、どんどん
注ぎ込み、ヌンチオを怒らせるのだ。

レバーを引く。リールは周り、マシンは銀貨を飲み込んでいく。たらふくと。うなり音で、
目がかすむ。ブタ野郎との生活が、思い出される。ヘンタイめ!マギーは憎しみにレバーを引く。
このカジノ、このホテル、このヴェガス!ちくしょう!もう誰にも、あたしの体は触らせない!

銀貨が、銀貨が、銀貨が…。チェリーが、プラムが、バーが…。リールが回る。
その度にマギーの体に痛みが走る。やがて、激痛が彼女を襲う。

何だ!この、"純粋な"激痛は!

火柱が、マギーの体をつんざく!

マギー、マギー。プリティ マギー マネーアイズ。
スロットの中の金を全て欲しがった女。ゴミの中から立ち上がり、ヴェガスに辿り着いた女。

そいつに、今、激しい一撃が襲った。カジノのフロアにマギーは崩れる。
冠状動脈血栓!


-----
マギーは思った。まだ銀貨をマシンに入れるのだ。ここはリンボ。しかしマシンの中だ。
マシン内部に溜まった機械油。ここが、マギーのリンボだった。


「すいませんが、お客様。修理係を呼びたいのですが…」
フロア マネージャが、俺の後ろにいた。
「念のためです。誰かが、いたずらした訳じゃないんですが、故障と言う事がありそうなので」
奴はクリッカーをカチカチと鳴らした。たちまち係員が集まって来た。客達は気づかない。
修理員は、あっと言う間にマシンを開け、中を覗いた。

「誰もスプーンしちゃいませんぜ。ブーメランだとしたら…」
「いや、それもない。見ていたんだ…ああ、お客さん、すいません。インチキな仕掛けの符丁
   なんです。すいません。大当たりが、連続なんで…わかって下さい。じゃあ、また両替所で…」

新しい小切手を持って、俺は帰って来た。そのマシンをじっと見ていた。

しかし、見ていたのは俺ではなかった。見ていたのはマシンの方だった。あの青い目、三つの青い目で。

「あなたを待っていたわ。あなたが必要なの。私を愛して…」
俺は声をかけられた。美しい女だった。俺は、スロットマシンを見つめた。

俺は1ドル銀貨を入れた。マネージャは見ている。修理員も。そして何人かの目ざとい客も。


スロットを引く。またベルが鳴った。青い目だ。
修理員はスロットを持ち出し、また持って帰った。
「どこにも異常はありません」

青い目は消えている。

その後、もう一度、俺はスロットを引き、ベルを鳴らした。


マネージャが俺を呼んだ。
「あなたは大変ツイている。あなたにスロットを止めろと言う事はできない。しかし、あなたに
   寛大な心をお願いしたい。せめて、宣伝をしてくれなませんか?この街には、ハイローラーが
   たくさんいる。彼らを呼び込む力が、今のあんたにゃある。それから10時間休んで頂けませんか。
   その間、最高級の部屋を提供致します」
「その間に、スロットに細工をするのか?」
「そんな事はしませんし、出来ません。ただ念入りに調べるだけです」
「まあ良い。このままじゃ、マフィアに撃たれるかもしれんしな」
「どうして、そんな心配をするんです?意味が、ちっとも判らない」
「俺には判るさ」

俺が席を立つと、背中で声がした。あのスロットだ。

「私たちの仲を裂こうとしている奴がいるわ。いかないで。私を一人にしないで」

「実はあのスロットには因縁がありまして、数週間前、あのスロットしながら、若い女が死んだんです」
「死んだ女と、勝ち続ける男。とんだ疫病神だな…だが、俺も…」
「ぐっすり、お休みなさい」


夢の中に彼女が現われた。
「君の目は美しい。まるで…スージーのようだ」

スージー。俺が愛した女。子供の頃から、人付き合いは苦手だった。
両親は優しかったが、俺にはそれが理解出来ていなかった。
色々と経験したが、うわべだけだった。

それがスージーと出合って、人生が一変した。スージーと暮らし、彼女の子供を育てた。
彼女は、子供の父親の事を何も言わなかった。だが幸せだった。
ところが、突然、そいつが現われた。俺は、追い出された。

結局、当座の生活費の支払い係に選ばれただけ、だったのだ。
そして、放浪し、ヴェガスについた。マギーに出会った。


わたしの、そばにいて。裏切らないで。

ああ、俺は、君を信じる。俺は君のものだ。


チーフが台座に戻った。
俺がカジノに戻ると、ギャラリーが一杯だった。"探偵"が周りを取り囲んだ。

レバーを引いた。リールは。これまで見た事のないスピードで回り出した。
俺は、腹に痛みを感じた。眼球が焼ききれた。頭蓋の神経は首で切れた。
夜の風が絶叫する。わたしは自由だ!そして青い目が現われた。1つ、2つ、3つ。

俺は床へ倒れた。


"チーフ"は撤去された。溶かされスラグに戻るのだ。
最後に出た目は何だろう。

マネージャが最後に見たのは、3つの茶色の目だった。
その目は裏切られ、疲労を浮かべていた。

..............

『ベータ2のバラッド』と言う作品集からの一作です。。これには、めずらしく、バリントン ベイリーの作品が載っているので、ファンの方が
買うと思いますが、読むと、たまげてしまいます(悪い意味で)。私も、紹介はパス…いや、ああいう作品ほど、本当は紹介した方が良いのか?

…う〜ん。しかし、あれをコンパクトにするのも、てえへんだよなあ…

 エリスンのクライム型作品の、傑作との事です。確かに、力がこもった作品です。ただ、その分、(エリスンが良く、やってしまう感じで)
空回りもしています。ものがスロットだけに…なんちゃって。しかし、エリスンがSF作家か、どうかは意見が分かれる所だと思います。

記:2013.02.24


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三分 小説 備忘録

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