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狼の一族  - 早川書房2007
狼の一族

鶏占い師 The Alectryomancer チャールズ ウィルフォード Charles Wileford
異色作家短編集18 アンソロジー アメリカ編 狼の一族 早川書房2007 訳:若島正 のあらすじ

私は闘鶏の研究家である。ある時、鶏占い師がいると聞き、尋ねて行った。
鶏占いとは、文字の書かれた場所に餌を置き、鶏の食べた餌で、占うと言うものである。

迷信であるのに間違いない。なにせ鶏の脳みそは、小粒なのだ。
しかし、調査旅行中、めぼしい事に出会わなかった私は、興味を引かれた。


その爺さんは、掘っ立て小屋に住んでいた。一人暮らしだ。

「良い家だね」
「私達も気に入っています」
「あれ?一人暮らしじゃないのかい?」
「鶏と私ですよ」

野生の純血種と言う、その鶏はキョロキョロと庭を歩いていた。
爺さんが再び現われると、様々な形のフェルトをたっぷりと縫い付けたワークシャツを来て登場した。

「良い格好だね」
「これが、トゥームーンズの格好です」
「それが、あんたの本当の名前かい?」
「子供の頃、セントヴィンセント島に行きました。帰って、父親に聞かれた。
   『あっちには何があった?』って。私は答えた。『セントヴィンセントにも、月はあった』
   それ以来、私の名前はトゥームーンズになったのです」

「鶏占いは古代ギリシャにもあったそうだね」
「ええ、円と文字を書いてから鶏を中に入れるのが流儀ですが、
   私は鶏を抱えて周りに円を描く。どっちみち運勢は変わりません」

「さて、準備は出来ました。では、あなたの誕生日を言って下さい」
「1919年1月2日」
「もっと、大きな声でお願いします。この鶏も年をとって、耳が遠くなりましたので」

私は、馬鹿正直に大声で誕生日を繰り返した。
爺さんは、それぞれの文字の所に餌を置いた。鶏がついばむ度に、爺さんは文字を書き留めた。

M、O、R、T。
それで鶏は食べるのを止めた。

「腹が減っていないのかな?」
「いえ、違います」
爺さんが鶏を外に出して餌を与えると、それを貪り喰った。

「しかし、MORTじゃ、わからん」
「この鶏はマルチニクで育ちました。だから英語は全く判らない。代わりにフランス語は判る。
   MORTとは『死』の意味です。あなたは、気をつけた方がよろしい」

「なんだ、そりゃ。いや、もう一度、占ってくれ」
「すいませんが、一日、一回しか出来ないんですよ。それにお一人、一度と決まっています」
「しかし、よりによって、『死』だぞ」
「じゃあ、特別に。明日なら占ってさしあげます。
   それから、私は貴方の研究本の愛読者でして、サインを頂けるとありがたいんですが…」

翌日、同じ占いをして貰った。
結果は。

MORT…
「死は誰にも訪れる事ですよ」


死の予言。
帰り際に、爺さんに、ワニには気をつけて下さい、と言われた。
気をつけるに、越した事はない


さて、塩でも撒くか。帽子をベッドの上に投げるのもヤメだ。
梯子の下を歩くのも止めよう。

メイドをクビにした。奴は、作った料理の毒見をしろ、と言ったら拒否したのだ。
俺は、その料理を、海にぶん投げた。

これからは、食事は自分で用意するんだ。水ももう飲まない。ラム酒だ。
そして、もう一度、トゥームーンズに会いに行った。

「もう、あなたの占いはしません。同じ占いが、二度も出たのだから。良いですか、今度、占って、
   FRIと出たら、どうします。貴方は、金曜日が来る度に、恐れ震える。知らなくて良い事もあるのです」
「何か、魔除けはないのか?」
「ない事はないですが…オビアと言います。これを着けて、110歳まで生きた者がいました」

俺は75ドルで、その首飾りを買った。


家に帰って考える。もう鶏占いの話を、記事にする気はなくなった。
俺は、首飾りの中身が気になった。袋の外から、中身をいじる。一体、何が入っているんだ?


「…だから、お前は騙されてるのさ。トゥームーンズは島じゃ有名なペテン師さ。
   どうせ、その鶏も、死の順番に餌を食う様に仕込まれているのさ…」
俺は、こっそりと、首飾りの中身を見た。
プラスチックの爪楊枝、黒曜石、カマスの目玉、チェスのポ−ン、コーラの王冠…
俺は、絶叫した。そして、それを海に投げ込んだ。それから、名案が浮かんだ。
トゥームーンズの所に行って、この中身を、あいつの口に突っ込んでやろう。俺は海へ飛び込んだ。

首飾りは、そこにあった。しかし、泳げば泳ぐほど離れて行った。いい加減、沖まで行って、俺は叫んだ。
「首飾り!俺は、お前を信じるぞ!お前を!」
俺の意識は遠くなった。


気がつくと、浜辺に打ち上げられていた。
俺には脱力と嘔吐感があった。

しかし、俺には、得たものがあった。

『これこそ俺の神』
長編小説の第一章は、既に頭の中にあった。

..............

なんだろ、ヘミングウェイみたいだなあ。関係あるのかなあ?気のせいか…

記:2013.01.25


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三分 小説 備忘録

  [どんな落ちだっけ?]




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