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ピランデッロ短編集 月を見つけたチャウラ
   - 光文社文庫(2012)
ピランデッロ短編集 月を見つけたチャウラ


月を見つけたチャウラ Ciaula Scopre La Luna(1912)/ピランデッロ Luigi Pirandello 訳:関口英子 のあらすじ

夜も更けた。まだ、その日のノルマに達していないのに、採掘工達は、仕事を終えたがった。
現場監督のカッチャガリーナは出口に立ち塞がった。

「さあ、各自、持ち場へ戻れ。さもないと、撃つぞ」
入口の男達は、へらへら笑った。
「ばーん!」ふざけて叫ぶ奴もいた。

奴らは、カッチャガリーナを押しのけて、出口に殺到した。出て行った。

残ったのは、足の不自由な、スカルダ爺さんだけだ。
こんな時にカッチャガリーナが、やる事は決まっている。うっぷんを晴らすのだ。

「貴様ら!早く戻れ!と言っているのだ!早くしろ!」

カッチャガリーナに、胸倉を掴まれて揺さぶられた後、スカルダ爺さんは、大人しく持ち場に戻った。
それが自分に与えられた役だと思った。弱い老人には、他にする事はなかった。

いや、あった。
自分より弱い立場の、見習いのチャウラだ。

爺さんは、持ち場に戻り、涙を流した。でも爺さんは、その塩の味はお気に入りで、
流れ落ちる涙を全て舐め、一粒も無駄にする事はなかった。

朝から晩まで、つるはしを持って穴を掘る。それで、胸には何かが溜まって行く。喉は渇くが、
眼にはだんだんと涙が溜まる。充分溜まると、爺さんは、つるはしを置いて、涙をすするのだ。

若い奴らは、タバコやワインが好きだが、爺さんは、この涙を味わうのが好きだった。

涙は、彼の眼が炎症を起している証であり、その量は、四年前の鉱山事故で、長男を亡くしてから、
多くなった様だった。
それ以来、爺さんには、養うべき七人の孫と、娘が出来たのだ。爺さんは息子の代わりに、
ここに雇って貰い、雀の涙の給金を貰う様になったのだ。

時々、爺さんが、ぼそっと呟くのを聞いた事があるか?
カリッキオ...それは、息子の名前の様に聞こえる。
そして爺さんは続ける。...神の御加護がありますように。


チャウラは見習いと言っても、30歳は過ぎている。
とは言え、彼の知能では7歳の時でも70歳になっても、たいして変わらんだろう。


チャウラは既に村に帰ろうと、着替えていた。彼にとって"着替える"とは、
汚い作業着を脱いで、汚い普段着を着ると言う事だ。

汚い普段着には6つのボタンがあり、チャウラは馬鹿丁寧に6つかけていた。ただ、そのうち
3つは、取れかけていた。彼は、この、昔、綺麗だった服がお気に入りだった。

誰かが、ふざけて、
「チャウラ、良い服着ているな!」
などと、言うものなら、歯の抜けた口を耳まで開いて、

「ぐへへへ」と笑うのだ。

それから、得意の機嫌の良い時の声を出す。
「カー!カー!カー!」

彼が、チャウラ(当地の言葉でカラス)と言う綽名を付けられたのは、そう言う事からだ。


爺さん、チャウラを捕まえた。
「おい、もう一度、着替えろ。今、神様が、お決めになった。俺達に今日、夜は来ないんだ」

場所は採掘場なのだ。夜だろうが昼だろうが、関係ない。辺りは暗いのだ。ただ、朝も昼も、となると訳が違う。
チャウラはもっと大変だった。チャウラは掘った土を外に出す仕事なのだ。長い登り道を必死に登った後に、
太陽に出迎えられて、ほっとする事が出来なかった。代わりに待っていたのは、夜の暗闇だった。彼は、
洞窟の暗闇は怖くなかった。しかし、この闇には恐怖を感じた。

チャウラが夜の暗闇を怖がる様になったのは、爺さんの息子が亡くなった時の事だった。爆発音が鳴り響き、
みんな外へ逃げ出した。しかしチャウラは小さな洞窟に逃げ込み、震えていた。随分と時間が経ちチャウラが
外に出ると、もう誰もおらず、辺りは暗闇だった。空には星が瞬いていた。とたんに恐怖に包まれた。
チャウラは誰かに追われているかの様に、恐怖が逃げるために、家へと走り帰った。


爺さんは一人働く。みんな、逃げた後だ。
チャウラの首に巻き付けた荷袋に、じいさんは、どんどん土を入れる。
「もう、勘弁してくれ!」
「まだ、まだだ!勘弁できん!」

全身に疲労が溜まっている。もう限界だと思った。それでもチャウラは一歩足を進めた。

ふだんのチャウラだったら、例の「カー!カー!」を始めるだろうに、今の彼は無口だった。


出口は、もう少しだ。でも、もう倒れそうだ。心臓は悲鳴を上げている。もう前が見えない。

気が遠くなる彼の眼に明るいものが見えて来た。
彼は、ぼうぜんとその方向に歩いた。


出口から首を出した彼に見えたのは、月だった。

彼は月を見つけたのだ。涙が出てきた。理由は判らない。月がそこにあった。涙が止まらない。
月は山や平地を照らしていたのだ。そして、チャウラも。

月は、その事には、気づいていないだろうが。


..............

最後の一説は、アメリカのフォークソング(?)「ラッキー オールドサン」の様でもあります。

しかし凄いな。この話。う〜ん。こう言う話があるから、イタリアにネオナチュラリズムがあって、
ロッセリーニやフェリーニ(初期)になる訳か。この話はまいった(100年前の作品ですよ!)。

ヘミングウェイを読んだ後、ノーベル賞って何だ?と思ったので、図書館で、本を探しました。

基準は、外国人作家の短編集。私が知らない人。ノーベル賞を取っている人。
ちなみにこの方は、
イタリア人1934年ノーベル賞受賞 劇作家 戯曲ヘンリー四世、代表短編集「一年分の物語」、だそうです。

それで、本作を読んだのですが、なかなか良かったので、ご紹介しました。まるで、前述の二監督や、
今村昌平の初期作品の様に思えるのですが、いかがでしょうか?
PS.そう言えば、小沢昭一さん、合掌!。
記:2012.12.16


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三分 小説 備忘録

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