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ヘミングウェイ短編集(一)
   - 新潮文庫(1970)
ヘミングウェイ短編集(一)


キリマンジャロの雪 The Snows of Kulimanjaro/ヘミングウェイ Ernest Hemingway 訳:大久保康雄のあらすじ

キリマンジャロはアフリカ大陸最高峰の山で、頂上は雪に覆われている。
中腹には凍りついた豹の死体があるのだが、何故、そこにあるのか、誰も知らない。

(管理者注:あれ??この有名な文句は、脚注の様な感じで、挿入されているんですね。
   主人公の独白だと言う、記憶がありましたが...)

「すこし、苦痛が治まった」
窓の外にはハゲ鷹が、地面に降り、エサを、ついばんでいた。俺の脚は腐っている。
酷い臭いだ。さぞかし妻はつらいだろう。奴らには、この腐臭がわかるんだ。

「あら、ちっとも臭わないわよ」
「飛行機さえ来れば良いんだ。俺を病院へ運んでくれ。このままでは、俺は死んでしまう。
   脚をちょん切ってくれ。いや、銃で殺して貰った方が面倒が無い」

「...何か読んだろ、どう?私が読んで差し上げますわ」
「いや、書くのは良いが、今は読みたい気分じゃない。話をしよう。喧嘩でもすれば、退屈がしのげる」
「私は喧嘩なんかしませんし、あなたも死にません。すぐ直りますよ」
「お前が、そう言っても、外じゃハゲ鷹が待っている」
「いつもいるじゃないの。エサを探しているだけよ。そろそろトラックが来るわ」

「君は、俺に興味がない事ばっかり気にするんだな。じゃあ、俺は酒だ。おい、モロー!酒を持ってきてくれ」
「はい、旦那さま」
「駄目ですよ。持って来ないでね。お酒は一番体に悪いのよ」

しかし、壊疽が進行しているのは事実だ。苦痛がだんだん治まって来た。疲れ果てると言う事だ。
いかに小説家と言え、今となっては、これを書く事もないだろう。

「パリにいれば、良かったわ。パリなら、あなたもこんな目に会わずに済んだのに」
「君の汚い金の使い道としては、間違っていたかね?」
「もう...酷い事は言わないで」


『彼はカラガッチの停車場を見ていた。敗戦し、トラキアを去るのだ。雪が降っていた。ブルガリアの
   山の上は白くなっていた。しかし、町の女は言った。あれは、雪じゃない。雪には早すぎる。だが、あれは雪なんだ。
   俺達が、奴らを追い払ったのは、雪の山の中だった。奴らは、死ぬまで、雪を踏みしめていたのだ...』


「君の金が俺の鎧さ。俺は糞溜めの上で鳴く雄鶏さ」」
「そんな、嫌な言い方をしないで...」
「俺の頭の中は、叫びたい詩で一杯なのさ。こんな奴さ、『お前は、金持ちの雌犬だ!』」
「ハリー、悪魔の振りなんて、しないで!」
妻は、夕飯の狩りで出かけて行った。

妻は裕福だ。それに思いやりがあり、思慮深い。俺が駄目になったのは妻のせいではない。その前から、
駄目だったのだ。妻は若くして夫を失い大きな遺産を継いだ。子供達が育つと、やる事がなくなった。
恋人を欲しがった。そして得た。しかし、それも直に終わった。
彼女の息子が飛行機事故で死んだのだ。そして孤独を感じた。

彼女は本を読むのが好きだった。とりわけ、俺の本を。そして、俺達は結婚した。だが俺はスランプだった。
書けなくなっていた。この旅行も、体から脂肪を取り除くつもりで計画した。しかし...

いや、俺の才能を駄目にしたのはあの女だ。
俺を安楽にさせ、すり減らして行く。

いや、そうではない。酒が俺を駄目にしたのだ。でも、その酒を飲ませたのは、あの女だ...いや...


妻は牡羊をしとめて来た。
「君の射撃の腕は素晴らしいね」
「私、射撃は大好き。このアフリカも大好き。今日は良い日だったわ。きっと、明日は、飛行機が来るわよ。」

丘の向こうでは、ハイエナが歩いていた。


『パリで喧嘩をし、一人でコンスタンチノープルへやって来た。夜の女では、寂しさを紛らわす事が出来ず、
   自分を捨てた、あの女に手紙を書いた。その夜、酒場で、アルメニア人の女を物にしようと思ったが、
   イギリス人の将校に因縁をつけられた。俺は、そいつの顎を叩きのめすと、女と一緒に街へ逃げた...』


「気分はどう?」
「俺の死ぬ日が決まった。明日だ」
「そんな事、言ってないで、本でも読みましょう」
「読むより、書く方が良い。君は口述筆記ができるか?」
「無理よ」
「そうか」


『湖の丘の上、丸木造りの家があった。子供だった俺は、その周りで、良く苺を摘んだものだ。しかし、
   その家は燃えてしまった。焼け跡に、溶けた銃があった。拾って良いかと聞くと、爺さんは駄目だ、と言った。
   家は立て直されたが、あの溶けた銃の行方は判らない』

『パリ−トゥール間の競争で、初参加の夫が三着に入った事を知った彼女は、たいそう喜んだ。
   この広場には二種類の人間がいる。酒好きとスポーツ好きだ。彼らは自分が誰か知っていた。
   それから、自分の親や兄弟を殺した者が誰かも知っていた。ヴェルサイユの軍隊が、安帽を被った者達を連れて
   行った事を知っているのだ。男達は、毎晩酔っ払って、街路に倒れている。誰かが、そいつに水をぶっかける...』


「ねえ、スープを一杯いかが?」
「ウィスキーにしてくれ。駄目よ。お体に障るわ」


『パリについて書こう。俺はパリについて書いた事がない。そうだパリについて書くのだ。
   いや、書いた事がない事は幾らでもある。牧場や牛の群れ、月光を浴びた馬。
   その馬の尻尾を握って森を抜け出た少年。これから書かれる全ての物語...』


「君は僕とは違う人種だ」
「それは、ユーモアなの?」


『ウィリアムがドイツ兵の投げた手榴弾を喰らったのは、ちょうど鉄条網を潜り抜ける時だった。
   勇敢なウィリアムを助けるには、ひっかかった彼の臓腑をきらなければならなかった。ウィリアムは泣いて頼んだ。
   撃ち殺してくれ!"神は耐えがたきものを、与えず"それは、時が来れば、苦痛は自動的に消えてしまうと言う意味だ。
   しかし、ウィリアムには当てはまらなかった。大量のモルヒネが必要だった。そのモルヒネさえ、すぐには効かないのだ』


(俺の苦しみは、そこまでじゃない)
「死神って知ってるか?死神が大鎌と頭蓋骨を持ってると思っちゃいけないぜ。
   ある時は自転車に乗った巡査だったり、またハイエナだったり、するんだ」

死は彼に近づいた。死は何も言わずに近づく。そして、彼の胸に乗り、言葉を奪う。


「旦那様は、お休みになりましたよ...」


親友のコンプトンがやって来た。
「どうした?朝食でも食べるか?」
「いや、君を連れに来たんだ」
「でも、お茶くらい飲むだろ」
「いや、お茶はいらない。すぐ行こう」

俺は飛行機に乗った。一苦労だった。座席にぐったりと座ると、コンプトンがエンジンをかけ、乗り込んだ。
飛行機は空中へと舞い上がった。

丘のキャンプが下に見える。
川だ。こんな所に川があったのか!

平原、見慣れた山。イナゴの群れが飛んでいる。やがて、嵐がやって来た。
しかし前方は晴れている。俺が行くのは、あそこだ。


ハイエナの声で、彼女は目が覚めた。
その声は、特別に大きく、彼女は不安になった。
「ハリー!ハリー!」
呼んでも夫からの返事はなかった。外ではハイエナがまた叫んだ。


..............


さて、ヘミングウェイでキリマンですか、神をも恐れぬ行為と言うか...
きさま、なにさま...

で、とりあえず、一言、
キリマンジャロの雪 The Snows of Kulimanjaro
雪は複数になるんですね Snows。

記:2012.11.15


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三分 小説 備忘録

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