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宇宙の妖怪たち - 早川SFシリーズ
宇宙の妖怪たち


狼はなかず Wolves Don't Cry ブルース エリオット Bruce Elliot(1954)訳:峰岸久 の あらすじ

動物園。
素っ裸の男が、檻の中で寝ていた。

隣の檻の中では、雌狼がウロウロしている。
檻に飼育員が、近づいて来た。

「おーいロボ。いつまで寝てるんだ。そろそろ客がくるぞ」

裸の男は、身を起こして思った。
俺の前足は、どうしたんだ。

灰色の毛がなくなっている。するどい爪もない。
それに、横に添えられた5本目の指!何だ、こりゃ?

気がつくと、飼育員が騒いでいた。
「こらああ!何で、そんな所に寝てるんだ?死にたいのか?
   しかし、ロボは何処にいるんだ?お前が食った、とでも言うのか?出て来い!」

裸の男は思った。
この二本足は、今日はずいぶんと、うるさい。

無視していると、二本足は仲間を連れてきた。
裸の男は、引きずりだされた。

自慢の牙は、役に立たなかった。
随分と、貧弱なものになっていたから。
それに、口も随分と小さくなっていた。


捕らえられて、別の鉄格子ではない檻に、入れられた。
暴れたせいで、毛の抜けた脚から血が出た。

裸の男は、血を舐めた。
そして、気がついた。

これは、狼の血ではない。
愕然とする男。

その男に、何人もの二本足が、聞く。
「ロボをどこにやった?仲間は誰だ?」

彼には、答えはなかった。
裸の男は、連れ合いの事を考えていた。

隣の檻。今、妊娠している連れ合い。
ふつう、雄の動物は子育てをしない。時には、食う奴さえいる。

しかし、俺は狼だ。狼はそんな事はしない。
狼にとって、家族は大事なものだ。

しかし、この檻の悪臭には困った。二本足達の悪臭。
さらに、それより男を困らせたのは、色。

こんなものは、以前の世界になかった。

赤、青、オレンジ...ピンク。
極彩色の世界は、男に、自分が異邦に来てしまった事を感じさせ、惨めにさせた。

「君の名は?どこから来た?今は何月か、わかるかね?」
歪めた変な顔をしながら、優しい声を出す、二本足もいた。

男は、白いシーツを引いたベッドのある部屋に、移された。

そこで、男は初めて、餌を口にした。
「おかゆ」

なんて、ひどい食い物だ。肉はどうした。血のしたたる肉は。
そして、もしかすると、もう、ここから出られないかも知れないと思った。

不自由な二本足で、歩く練習をした。
二本足では、兎すら、満足に捕まえられそうにないが、そのうち歩ける様になった。

二本足の会話も、だいぶ判るようになった。
俺は、奴らの、吠え声の真似をした。

「ハロー」
「ハラ、ヘッタ」

何ヶ月かすると、俺は、あの事が言える様になった。
「ドウブツエンニ、カエリタイ」

例の歪んだ変な顔をした(微笑み、と言うらしい)白い服の男は言った。
「君は、人間だよ。動物じゃあない」
白い服の男は、鏡を男に渡した。

自分の顔を、始めて見た。少なくとも、連れ合いや、子供とは違う。

そして、男は知った。
『自分は、以前、狼だった』のだと。


白い服の男達は、男の巣を、時々変えた。
それが、男には不愉快だった。狼はねぐらを、めったに変えないものだ。

それから数ケ月経った。
二本足の言う事も、だいぶ判る様になった。

彼は『仮出所』になった。
何でも良い。とにかく、外に出られるのだ。

男は考えた。
狼、人間。

自分は、人間になってしまった狼、なのだろうか?
それとも、狼だったと思い込んでいる人間、なのだろうか?

男は、映画と言う物を見た。

そこでは、人間が狼に変身していた。
男は驚愕した。俺だけではなかったたのだ!

しかし、ストーリーは、残酷だった。
狼になった人間は、銀の弾に撃たれ、死んでいった。

彼は泣いた。狼の様に泣いた。

それから、図書館に行って、本を見た。
狼男の本を読んだ。自分は一人では無いと思った。

その本を借りた。それには人間がどうして、狼になるかが書いてあった。
男は、勉強し、それを読んだ。

そして、秘密を得た。

変身する時の、脚の交差方法。
狼皮のベルトを握り、裸になり放尿する。

そして、月。

彼は、研究を重ねた。


ある日、女に会った。女は彼に好意を抱いているようだった。
彼は、狼だった。
彼女の吠声は、始め優しかった。

事を終えると、彼は、女を置いて逃げ出した。

今日の雌のために、餌を運ぶ事ができない事を、彼は悔やんだ。


変身用の道具を揃え、彼は動物園へ行った。
狼檻の前、彼は秘儀を行った。狼になる秘儀。

それでも、何も起こらなかった。
ここは鉄格子の檻。戻れば白い壁の檻。

結局、彼には檻しかないのだ。

その時、背骨に激痛が走った。
そして彼の意識は遠くなり、眠りへと落ちた。


翌朝、狼檻の辺りが、騒がしいのに気がついた飼育員が見たのは、
檻から逃げ出した雄狼が、雌狼檻の前でうずくまっている姿だった。

その狼が、ここを逃げ出したものである事はすぐわかった。
数年前に。

彼に、元々の生活が、戻って来た。

そして数年後。
狼は、檻の外での経験を、殆ど忘れていた。
かつて見た、悪夢も、もう見なくなった。

しかし、彼は自分の雌、自分の子の臭いを忘れる事はなかった。
ある日、ベビーカーを押した人間の雌が、檻の前を通った時、狼は、
その雌に、赤ん坊に近づいた。臭いをかいだ。

人間の雌も、何かを感じた。
狼も、この仔の未来を見た。

月の白い晩。咆哮し、四つん這いで、銀毛に生まれ変わる姿を。


..............

SFでも宇宙でもありませんが、なかなか味わい深い話です。

記:2011.08.02

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三分 小説 備忘録

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