旅立ちまで/日程  11/22(木)  11/23(金)  11/24(土)  11/25(日)  11/26(月)


■ 快晴の中 11/24(土)
※)文中、「CLICK!」と書いてある画像は、
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■10年前の場所

 今日のはじまりは、ピカデリー・サーカスからである。去年はここに来なかったから、実に10年振りの再訪となる。
 地下鉄の駅を上がる。確かこんな感じだったろうと思い描いていた通りの光景が目の前にあらわれてくる。意外に地味でわかりづらいエロスの像、「TDK」「SANYO」という大きな看板。
 建物の間を縫い、リージェント・ストリートが大きなカーブを描いて北へと伸びている。通り沿いの店々の外観は統一されていて、全体で一つの建物のようだ。初めてここに立った時、何もかもが凄くかっこいいなあと感激した。
 10年前の初日、旅はここから始まった。エアー&ホテルのツアーに含まれていた市内観光のバスで、まだ何もわからないロンドンの町の中を回った。とても興奮した。僕にとって、初めての海外旅行だった。全てが新鮮で、揺れてうまく撮れないのがわかっていても、バスの中から何枚も何枚も写真を撮った。

 当時、ピカデリー周辺でとても気に入ったのが、ロック・サーカスだ。マダム・タッソーの蝋人形館は有名だがこれはその姉妹店で、ミュージシャンの蝋人形ばかりを集めてあり、人形の前に立つと彼らの曲が流れる仕組みになっている。さらに小さな劇場もあって、機械仕掛けで動く人形たちが行うショーを観ることができる。このショーが実に素晴らしいのだ。僕が中学生ぐらいの時に聞いた馴染みのある洋楽が何曲も流れ、合わせて人形が動く。短いショーだったが、マダム・タッソー本館ではなくこちらに来て本当に良かったと思った。

 今回、久しぶりに訪れたその場所で僕を待っていたのは、寂しい知らせだった。
 場所がわかりづらいのは前回もそうだった。案内板などが何も出ていないので、入り口に立ってようやくそこだとわかる。ところが、2階へと続く入り口は閉鎖され、チケット売り場も全て明かりが消えていた。土曜日の朝10時。開いていないはずはない。
 至る所に白い張り紙があった。入り口に近づき、その一枚を見る。
  「The Rock Circus ceased trading.」
 最初、「ceased trading」の意味がわからなかった。辞書は重たいのでホテルに置いてある。しかし、更に内容を読むと、購入済みのチケットや割引券を持っている人に対しては払い戻しに応じることなどが書かれてある。
 もう終わったのだ、と知る。入り口にたどり着いた時点で、直感的にそれを感じてもいた。
 近くにあった店で、「ロック・サーカスは終わってしまったのですか」と聞いてみた。僕と同年代くらいの男性は寂しげに肩をすくめながら、「Yes.」とだけ答えた。


■セント・ジェームズ・パーク

CLICK!
 気を取り直し、ピカデリー・サーカスから、トラファルガー広場まで、歩く。遠くからでも、高い柱の上に立つネルソン提督像がよく見える。そこを目指して、歩いた。着いた。
 ……トラファルガーじゃない。去年来たばかりだから、間違えるはずはない。目の前には、とても綺麗な並木道が遠くまで続いている。道を挟んだ向こう側には、広大な公園が広がっている。
 なんでだろう。ネルソン提督像はあるのに……あ!
 ネルソン提督像ではなかった。別の誰かの像のようだ。地図で確かめてみると、これはヨーク公記念塔というらしい。そしてこの綺麗な通りは、ザ・マルだ。道の果てにはバッキンガム宮殿がある。そうかここが、と思い見るが、バッキンガムは霞んでうまく見えない。ザ・マルは、去年買ったロンドン紹介のビデオの中に映っていて、綺麗な場所だから一度歩いてみたいと思っていた。
 トラファルガーはここからもう少し離れた場所にある。すぐにそちらに向かうのもよいがこの辺りも散策してみたい。少し躊躇し、どうしようかと考えた。少しだけ周りをうろちょろしてみる。公園は、セント・ジェームズ・パークだった。ここは10年前、最後の日にやってきた場所である。池に水鳥がいて、午前中の陽光に照らされた緑が美しく輝いていたものだ。
 ザ・マルをバッキンガム宮殿の逆側に進めば、トラファルガーがある。公園にも入ってみたいなあと思っていると、ふと遠くにある、運動場のようなだだ広い空間が目に入る。右手にバッキンガム、左手にトラファルガーとなるようにザ・マルに立つと、左前方に位置するところだ。
 すぐにピンと来た。あそこにも行ったはずだ。セント・ジェームズ・パークのそば……そう、ホース・ガーズだ。
 ここでは、バッキンガム宮殿と似たような衛兵交代式が、バッキンガムよりも間近に見られる。11時頃に行われるんじゃなかったっけ、と時計を見ると正にドンピシャリのタイミング。予定にはなかったが、見に行ってみることにした。
 交代式自体は、大したことはない。馬に乗った衛兵たちが庭に並び、掛け声を掛け合う。たぶん観光用にアレンジしてあるのだろう。やたらと威勢のいい声を出すので、周りからは失笑も漏れている。前回は写真だけだったので、ビデオに収めてから、早々に場所を離れる。

CLICK!
 セント・ジェームズ・パークに入り、池のそばを歩く。ガチョウなんかに交じって、日本にはいないような大きな水鳥がいる。昨日ケンジントン・ガーデンズで見た白鳥と同じく、人の近くを平気で歩き回っている。
 と、木々の間をすり抜けていくすばしこい物体を発見する。リスだ。ここにもいた。グレーの、ケンジントン・ガーデンズにいたのと同じ種類のやつだ。
 さらに歩くと、今度はペリカンと出会う。池の中を泳ぐ一羽を見ていると、別のペリカンが「よっこいしょ」という感じで足元の柵をくぐって遊歩道に出てきた。近くに人間がいても、全く動じない。というか、わざと近くに来てサービスしているかのようだ。頭や羽を触られても、全然嫌がる気配もない。ペリカンの周りにはすぐに人だかりができた。みんな触りながら写真やビデオをとりまくっている。凄い人気だ。

 昼も近いので、食事をとることにした。多くの人が歩きながら食べているホットドッグに目が行ったせいもある。同じように屋台でホットドッグとコーヒーを買い、ベンチに座って食べる。やっぱりロンドンは公園に限る。どんどん元気が出てくる。
 今日は朝からやけに暖かい。ホテルを出た時間には曇っていた空が、公園を歩いているうちに徐々に晴れ間を見せ始め、青空が広がってきた。
 この時期のロンドンは、晴れる日は少ない。黄砂のように薄く色づいた雲が漂い、ちょっと青空が見えたかと思ってもすぐにそいつが流れてきて、膜のように覆ってしまう。晴れていたうちにどこか建物に入り、出てきたら雨が降っていた、なんてのもざらだ。
 なのに、今日はどんどん晴れていく。セント・ジェームズ・パークを抜けてバッキンガム宮殿の前に出る頃には、日本の秋晴れとも言える好天に変わっていた。


■トラファルガー広場

 コートも要らない陽気の中、バッキンガム宮殿からもう一度ザ・マルを逆にたどり、ようやく予定していたトラファルガー広場に出る。セント・ジェームズ・パークから近いのは意外だった。去年来た時に気付けば、少し足を伸ばしてみたのにと後悔する。
 それにしてもなんか、やばい。昨日からの行動や考えを反芻してみると、昔好きだった場所ばかりを求めてさまよっている気がしてくる。ロンドンで新しい場所を開拓しようという気概が自分の中からあまり沸いてこず、前に来た場所をたどり、再確認をするという作業に追われている。

 広場の一端に立つと、鳩が大量に飛び立つのが見えた。鳥の群れはこうして一斉に飛び立つことがよくあるが、見ているとどうもおかしい。飛び立っては降り、飛び立っては降り、というのを何度も繰り返している。たぶん餌を使ってコントロールしているのだろう。台風になびく林のように、大きな波を作って群れ全体がダイナミックに位置を変えている。中に立っていると、羽ばたく音と勢いで怖くなるほどだ。去年も人の肩や頭に乗っかってくる鳩を面白がったものだが、今回はそんな風に楽しめる感じではない。


■スターライト、再び

 午後3時からの「スターライト・エクスプレス」に向けて、早めにヴィクトリアに移動した。開演までの時間、昨日と同じように近くのバーガーキングでコーラを飲み、ここに載せる文章を書いたり、写真の整理をしたりして過ごす。

 今日も客の入りは上々だった。最後のスターライトを見ようと、ロンドン市民も多く来ているようだ。わざと席のランクを落として2階席から観たが、シーンによっては寄り付きで観るよりも全体が見渡せて迫力が出ることもわかった。
 今日の配役は昨日と少し違っていた。ラスティは同じだが、パール、そしてアシュレーは別の人が演じている。そしてどちらも、今日のほうが歌がうまい。ただしパールの踊りについては昨日の女性のほうが上手で、特にターンが凄かった。
 2時間のショーは、あっという間に終了の時を迎えた。3回分のチケットを買ったが、もうあと1回しか残っていないと思うと、悲しくなってくる。


■テムズのほとり

CLICK!
 ヴィクトリアから地下鉄に乗り、テムズ川のほとりの駅で降りる。ここからハンガーフォード・ブリッジという橋を渡るのだ、10年前と同じように。
 もう思い出巡りでもいいやと考えはじめていた。ロンドンでこれ以上どこか行きたいところがないのならしょうがない、やりたいようにやるだけさと開き直ることにした。
 この橋からの景色が綺麗だ、と10年前のガイドブックに紹介されていた。しかし、橋の上からよりも、橋を渡った対岸で見た夜景が忘れられない。
 あの時は確かトイレに行きたくて、ロイヤル・フェスティバル・ホールでトイレを借りた。その後、近くにあったパブでビールを買い、川べりに持ち出して、飲みながら夜景を眺めた。夢のようにきれいだと思った。
 しかし今回、この辺りの景観は大きく様変わりしていた。ロンドンの新しいシンボルとも言える巨大な建造物が建てられたからである。
 ロンドン・アイ。ミレニアム記念で建てられた、大きな観覧車だ。それほど派手ではなく無機質な感じに仕上げてあり、ロンドンの町によく似合っている。少なくとも、パリのコンコルド広場に同じく建てられた観覧車より、100倍はいい。近寄ってみると溢れるほどに人が並んでいて、ちょっと乗ってみようかななんて気持ちはすぐに失せてしまう。それよりも、10年前の景色を探しに行かねば。

 ロンドン・アイのそばを抜けると、いきなり目の前にビッグ・ベンが現れた。ロンドンの町は美しい。整然として、なおかつ人間味に溢れている。その象徴だと思う。
 テムズ川のほとりを歩いた。しかし、目指す場所はなかなか見つからない。記憶の底にある、ビールを飲みながら過ごしたベンチがどこにもない。そもそもあの時は人がほとんどいなかった。それが今はロンドン・アイを中心に人の波だ。あの頃の雰囲気はもう、どこにもない気がしてくる。
 ビッグ・ベンに向かって歩き、また引き返す。ロンドン・アイも越し、確かこの辺りだと思う場所に来た。
 ベンチが置いてあった。うーむ、ここかもしれないし、そうでないかもしれない。こんな夜景だった気もするし、そうでない気もする。判別つきかねて、もう少し進んでみる。古本市が立っていた。その向こうに小さな建物が見える。
 あれだ、と思った。ビールを買ったパブが、確かあの建物の中にあった。そして、ビールを手に向かった先は、と振り返ってみる。さっき通り過ぎたベンチが目に入る。
 やはり、ここだ。ロンドン・アイの他にも、テムズ川に突き刺さった工事中のクレーンのようなものがかなり風景を変えているが、ここに間違いない。やっと見つかった。パブはファーストフード店に様変わりしていたが、店の前にある飲食スペースに見覚えがあった。ベンチに腰掛け、あの時確かに見ていたはずの風景を眺める。
 古本市のそばで大道芸人が一人、ギターを弾いていた。静かな音色が背後からテムズ川へと流れていく。QUEENの「LOVE OF MY LIFE」だと気付き、思わず振り向いた。演奏しているのは、僕よりずっと若い男性だった。古本市はもう店を閉め始めたらしく、人影はまばらになっている。

旅立ちまで/日程  11/22(木)  11/23(金)  11/24(土)  11/25(日)  11/26(月)




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