『社内恋愛』
<プロローグ>
人の流れに沿い地下鉄の階段を上り切る。街路樹を照らす太陽が新緑の眩しさを増長させ、アスファルトに当たり跳ね返っていた。
3月31日。今日は入社式の日だった。本来の会社であれば、4月1日が入社式ということになるのだろうが、サンジが行くことになる会社は一日早い今日が入社式となっている。4月から2ヶ月は新人研修で、ここ本社ではなく、研修センターの方に行くことに決まっているからだ。
入社前に研修の為、何度も足を運んでいる会社ではあるが、学生ではなく社会人としての一歩を踏み出すのだと、サンジは心弾ませていた。
人事の女性、ヒナさんが(当然サンジは名前をチェックしていた)受付に立ち、新人を迎えてくれている。人事を担当してくれたのが、綺麗な女性数名ということもあってこの会社を選んだのだ。選んだとは言え、厳しい現状にあり、サンジも内定を貰ったのは、この会社を含め2社しかなかった。
式の会場になっている会議室に入ると、席は半分程度埋まっていて、見知った顔が数名いたので、その隣に座った。都内以外から来る同期となる新入社員とは今日が初顔合わせになる。
総勢20名。しかも、男ばかりの同期でサンジは少しガッカリした。
半分程度だった席も、9時前にはほぼ埋まってしまった。入社式に遅刻するなんて奴は、まず居ないだろう。
程なくして、人事部のヒナさんが壇上に立ち挨拶を始めた。人事のスモーカー部長の挨拶は一言で終わり、各部署の部長の挨拶が長々と続く。
緊張からか長い挨拶にもうたた寝をする不届き者は居ないようで、静粛に式は執り行われていた。
その静寂を破ったのは、響き渡るドアが開く音。
「すいませんっ。道、間違えちまって…」
飛び込んで来たのは、新人と思わしきスーツがまるで着こなせていない体格の良い男だった。一斉にドアを振り向く視線に、その男は頭を掻きながら後ろに空いていた椅子に腰掛ける。
「道を間違えたって…ヒナ信じられない…。一本道でしょう?」
「や、すんません…。地下鉄逆の出口から出ちまって、そこを真っ直ぐ歩いてたんです」
ニカッと笑い、そう言い訳をする男に会場から笑いが漏れた。
サンジにしてみれば、信じられない事だった。
−−いや、あそこの地下鉄の出口にはちゃんと会社名が書いてあって、間違う事の方が珍しいだろ?!
呆れた顔で見つめていたサンジは、その男と目が合ってしまう。視線を合わせたまま、その男は一瞬瞠目したが、すぐにニカッと笑顔でサンジを見た。
サンジと彼とは初対面である。地方組なのだろう。研修でも会うことが無かった顔だった。
しかし、入社式に遅刻して堂々としているその姿は、大物だと思わずにはいられなかった。というか、アホだとサンジは思った。
「先、進めてください」
あまりにも堂々としているその男に声を掛けられ、ヒナは漸く我に返る。大きく溜め息を付くと、式を進めていった。
最後に社長の挨拶と、呼ばれて出てきたのは、サンジ達と年の差が無いような少年だった。企業プロフィールのパンフレットに顔写真が掲載されていたが、これ程までに年若いとは思っても居なかったので、サンジ同様、その場に居た新入社員一同驚いている。
社長は壇上に上がり、マイクを掴むと徐に、
「俺は企業王になる!」
と、それだけを言うと、即座に退場してしまった。あまりの事に、先程の遅刻騒ぎも吹っ飛んでしまう。
呆然としていた社員の中で、遅刻してきたあの男は、社長の言葉に拍手を送っていた。ブラボーとまで言いかねない様子だ。
−−何てヤツ!何てヤツ!!
サンジが振り向いて睨み付けると、またその男はニッコリと笑いかけてきた。あれが同期かよ、とサンジは頭を抱える。
遅刻して来た男、ゾロの印象はサンジにとって最悪だった。
それはあくまでもサンジの場合であって、ゾロとしては最高だったことは、随分と後になってからサンジは知ることになる。
出会いなんて、こんなものだ。
2002/6/21UP
えへへ。出会いでした。
ここからどうやって発展させようかなぁ〜vv
自分が楽しんでいる感じですが、気長にお付き合い頂けると幸いですvv
*Kei*