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-KURENAI-
Vol.3
覚醒は闇の中。 「…っ」 身体を起こそうとして、下半身に痺れるような痛みを感じ、そのまま床に倒れ込んだ。 「…ってぇ…」 思わず漏れた、小さく掠れた自分の声に驚く。 自分が何故床に倒れていたのか、この痛みは何なのか、思い出すのに差ほどの時間はいらなかった。 −− 強姦…された? この痛みは夢ではなく、現実の物で。自分の身体に両手を這わすと、破かれ脱がされていた筈の服を着ていた。 身体は簡単にではあるが清められた様子で、あんな事があった後とは一見しただけでは分からないだろう。 だが、憶えている。 傷つけられた身体もココロも、全てサンジの中にある。 こんな仕打ちをしたゾロに対して、怒りはある。憤りもある。 しかし何故、という疑問の方が強かった。 ノロノロと身体を起こすと、壁に寄りかかり近くに落ちていたジャケットを引き寄せ、煙草を取りだした。深く吸い込むと、落ち着き、脳が活動を始めるのが分かる。 すっかりヘビースモーカーになってしまったと、サンジは自嘲する。料理人の舌に煙草は禁物とは分かっているが、もう空気と同じくらい必要な物になっている。 薄闇に煙草の微かな紅い火が浮かんでは消える。 −− 何故? −− 何故ゾロはあんな事をしたのだろう。 仲間だと思っていた。 背中を預けて闘える、言葉を交わさずとも呼吸を読めばどう動くか手に取るように分かる仲間だと。 ゾロは違ったのだろうか? 処理の道具のように扱われ、そのような目で見られていたのだろうか? ストイックで、真っ直ぐな男だと思っていた。 ルフィに心酔し、みんなと同じように馬鹿げた夢を追い求める剣士だと。 汗をかいたせいか、少しだけ湿り気を帯びた髪を強く掴んだ。 この髪や細身に見える身体のせいか、何度かその手の男に言い寄られた事はあったが、そんな輩は一蹴してきた。抱くのも抱かれるのも、容姿に惹かれて来たような野郎なんか、嫌に決まっている。 女性ならもちろん自分から口説くのだが。 果たして、そんな自分が何故ゾロをはね除けられなかったのか。力ではゾロの方が上回っているのかもしれないが、力一杯抵抗すれば、逃れられたかもしれない。 いや、思い切り抵抗していた筈だ。 ぐるぐる回る思考の中、最中のゾロの顔を思い出す。 陵辱者であるゾロの方が、苦しそうな顔をしていた事を。 絞り出すような声で名を呼ばれた事を。 −− 何故…? その言葉ばかりが浮かぶ。 理由を知りたい。 知ったところでどうする? こんな事で傷つけられたりしない。傷つけられたと思ってはいけない。 たかがこれくらいの事が悔しかったり哀しかったりするのは、自分の弱さが見せる幻影だ。 所詮自分は男で、女性を傷つける事とは違うのだから。 ふと涙が滲んできた。 「痛ぇ…」 力でねじ伏せられた悔しさでは無い。 欲望の捌け口にされた事の怒りでは無い。 仲間だと認めて貰えてなかったという失望の為でも無い。 煙草の煙に目が染みたのだと、自分に言い聞かせながら、零れる涙を拭った。 何度も何度も、嗚咽を噛みしめながら。 空は白み、夜明けは近い。 |
2004/8/30UP
短いですが、一旦切ります。
区切りが良さそうだったので;;
あまりお待たせしないウチに、次UPしたいです(><;;
*Kei*