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Starting Grid Vol.2 |
※これは「Black Out」というパラレル小説のゾロサンになります。
ホスピタリティのドアを開くと、エンジン音ではない破裂音が降ってきた。 「ハッピーバースデー!」 「誕生日おめでとう!!サンジ!」 「おめでとうございます。サンジさんっ」 「「おめでとーっす!!サンジの兄貴ー!」」 「へっ?」 入り口に呆然と立ち竦むサンジの目の前をヒラヒラとカラフルな紙が舞っている。 「ルフィ。こっち向けてやんなっつってたろ。人目掛けて発砲してんじゃねぇよ」 一緒に入ってきたゾロも、口に紙吹雪が飛び込んできたようで、舌に張り付いた紙をしかめっ面で指を突っ込んでいた。 「サンジには向けてねぇぞ。ゾロ向けてやったからな」 「俺ならいいってのかよ。てか、チョッパーもお前の真似してこっち向けてんだろ」 「えっ?!ダメなのか?!」 「ダメに決まってんだろ。ルフィの真似は本当にやめとけ」 「いいじゃないの。ゾロだし。それよりサンジくん、入って入って」 それまでぼんやりゾロとルフィとチョッパーのやり取りを見ていたサンジだったが、ナミに声を掛けられ、ハッとした。 「え…ああ…」 「誕生日はレース前だし、会うこともないから今お祝いしちゃおうって事になったの。ほら、私たちの誕生日はシーズン中にあるからいつもサンジくんがケーキ作って持ってきてくれるでしょ」 そうだった。 みんなの誕生日月に一番近いレースで、誕生日用のケーキを作って持っていく事にしていた。チョッパーにはちゃんと送っていたし、ゾロの誕生日には、自宅でお祝いもしている。 シーズンが始まる前のサンジの誕生日だけは、みんなバタバタしている事が多いので、特に何もしていなかった。自分の誕生日についてはあまり頓着していないので、気にしたことはなかったが、こんなサプライズは嬉しい。 中に入ると大きな長方形のケーキが鎮座していた。真ん中にはマシンの絵。 「俺が描いたんだぜ!よく出来てるだろ?」 ウソップが自慢げに鼻を高くする。あ、元々高いが。 「へぇ。やっぱりオマエ器用だなぁ」 「ね、ロウソクに火点けるからね、サンジくん」 「ああ…ありがとう、ナミさん」 次々に灯される火に、気持ちが温かくなる。 良いチームに恵まれた。 「ケーキ!ケーキ!早く消せよ、サンジ!」 「もールフィうるさい!あんたの鼻息で消えちゃうじゃない!」 「サンジ、サンジ、一気に消すんだぞ!」 「よし。分かった。消すぞー」 ふっと勢いよく火を吹き消す。おめでとう等、口々に騒ぎ拍手が起こった。 「ケーキならサンジくんが作ったのが美味しいんだけど、さすがに本人の誕生日に作らせる訳にもいかないしね。ビビに頼んで、ちゃんとパティシェに作ってもらったから、大丈夫よ」 「いや、そんな…気持ちだけでも十分嬉しいのに。ビビちゃんもありがとう」 「いいえ。私の誕生日にもちゃんとケーキ作ってくださったし、私は何もしていないから」 にっこり笑う大スポンサー様の手を取り、膝を折ってキスをした。 「なぁ、ケーキ食おうぜ」 「じゃ、サンジくん」 手渡されたケーキナイフ。 「了解」 にっこり笑ってケーキにナイフを入れた。 バレンシアから一路ニースへ。さすがにゾロもサンジも自家用ジェットを買える程のゆとりはないが、ビビからの自家用機で送るとの申し出を有り難く受け、快適な空の旅でそう遅くなる事もなく帰路についている。 チームのメンバーはロンドンに飛び、シェィクダウンを続けるらしい。今回のエンジントラブルが深刻でないと良いが。 次は来週シルバーストーンサーキットでのタイヤテストだ。それが終われば開幕戦。 長いドライブを終え、漸く自宅に着きホッとする。 ゾロと暮らし始めてまだ数年。内一年近く留守にしていたので、そう長い住まいではないが、やはり自宅が一番落ち着く。 隣でイビキをかいていた男をたたき起こし、家に入った。 玄関のドアが閉まるなり、ゾロの腕に捕まり、背後から抱きしめられる。 何故もう少し我慢出来ないのだろうかと苦笑した。 「せめて靴脱いでからにするとか、リビングで落ち着いてとか出来ないのかね?」 「行く前から、行ってる間中、触るな近寄るなってのは案外酷だな」 うなじに熱い息がかかり、音を立ててキスをしてくる。それがくすぐったく身を捩ると、更に拘束がきつくなる。 「オマエ加減知らねぇから、そうでもしないとテストすら辛いんだからしょうがねぇだろ」 「日々ちまちまやってたら、加減も出来るだろうが」 「メディアもちょろちょろ居るし、関係者も居るところで、遠慮なしにスキンシップされたらオレが迷惑なんだよ」 とりあえず、頭をぺしっと叩き、腕を外させた。 長旅を終え、漸く自宅に着いたのだから、部屋でくつろぎコーヒーの一杯でも飲みたかったが、それすらも出来そうにない。 「コーヒーくらい飲みたいと思わねぇ?」 荷物を置き、リビングに入ったところでまた捕まった。そのまま担ぎ上げるようにベッドルームへと向かうゾロに、コーヒーは本格的に諦めた。 しかし眠い。 数日のテストの疲れと、バレンシアからの移動の疲れが一気に来て、このまま眠ってしまいそうだ。 ベッドに降ろされた時には、睡魔がそこまで来ていた。 「なぁ、眠ィよ」 「またソレかよ」 「オマエは飛行機ん中でも車ん中でも寝てただろうけど、オレは起きてたし、車の運転してたし、今は寝たい。寝かせろ」 「寝ててもいいから」 不埒な手は体中をまさぐってくる。でも睡魔も襲い来る。 いや、もう、本当に眠いんだが。 「オレ今日誕生日なのによー…ちっとも言うこと聞きやしねぇ」 「誕生日だから、お前はマグロでいい」 そういう問題ではないのだが。そもそも普段から割と一方的ではないか。 「ん…じゃ、キス」 そういえば、帰ってからキスすらしていない。玄関入るなり拘束され、剥がしたと思ったら抱えられ、ベッドルームに連れ込まれた。 やりたい盛りのガキでもあるまいし、何をこんなに切羽詰まってるんだか。 ―― いや、まぁ、二週間くらい接触禁止してたからな… でも、非常に眠い。 ベッドまで拉致してのし掛かった割には、優しいキスが落ちてきた。触れるだけから口を開き、舌を絡ませる。 キスは優しい。下唇を緩くはみ、あやすような舌の動きで緩く続くキスに、ますます睡魔が襲いかかってきた。 駄目だ。眠い。 「おい」 「…続けろ」 「寝てんじゃねぇだろうな?」 「ん…起きてる。から、キス…」 強請るように目を閉じたままゾロの頭を引き寄せる。 この温もりが心地よい。 『この野郎…。寝るなっつってんのに』 何か遠くで声がしてきた。あまり聞くことがない言葉。 ゆるゆると意識が遠くなる。 ケーキ食って、祝って貰えて、家で眠れて、今日もいい一日だった。 隣にはゾロが居る。 レースが始まればライバルにしか見えないが、今はこの腕の中で。 『おい…誕生日おめでとう…って、もう寝てんじゃねぇか』 何言ってるか分からねぇよ、と言ったつもりだったが、言葉にはなっていなかったかもしれない。 おやすみ、ゾロ。 Good-Night, darling |
2007/2/3UP
Kei
まっこと遅くなりまして…。