月山、湯殿山
 ● おくのほそ道 本文
 八日、月山にのぼる。木綿しめ身に引かけ、宝冠に頭を包、強力と云ものに道びかれて、雲霧山気の中に、氷雪を踏てのぼる事八里、更に日月行道の雲関に入かとあやしまれ、息絶身こごえて頂上に臻れば、日没て月顕る。笹を鋪、篠を枕として、臥て明るを待。日出て雲消れば、湯殿に下る。
 谷の傍に鍛冶小屋と云有。此国の鍛冶、霊水を撰て、爰に潔斎して剣を打、終「月山」と銘を切て世に賞せらる。彼竜泉に剣を淬とかや。干将・莫耶のむかしをしたふ。道に堪能の執あさからぬ事しられたり。岩に腰かけてしばしやすらふほど、三尺ばかりなる桜のつぼみ半ばひらけるあり。ふり積雪の下に埋て、春を忘れぬ遅ざくらの花の心わりなし。炎天の梅花爰にかほるがごとし。行尊僧正の歌の哀も爰に思ひ出て、猶まさりて覚ゆ。惣て、此山中の微細、行者の法式として他言する事を禁ず。仍て筆をとヾめて記さず。坊に帰れば、阿闍梨の需に依て、三山順礼の句々短冊に書。
       涼しさやほの三か月の羽黒山
       雲の峰幾つ崩て月の山
       語られぬ湯殿にぬらす袂かな
       湯殿山銭ふむ道の泪かな   曾良
 ● ぼくの細道

   1.月 山

 「聞くな、語るな」というのは湯殿山の禁忌だが、あたしとしちゃあ月山にも適用してほしい。正直言って月山には登っていないのだ。「語るな」というタブーがあれば、登ったような顔をしてシラーっとしていられるものを。(^O^)
 いや、行くことは行ったんだ。8合目のレストハウスの裏、登山口の入口までだけど、ね。
(写真右は、8合目駐車場)
 あんまり好きじゃない友人が月山神社にお参りしてきた、と聞いたから、アイツが行ったんなら負けてなるものか、まして「奥の細道」を全コース踏破してやろうと目論むものにとって、月山ごときにたじろいでは居られない、と勢い込んで出かけたのだが・・・
 レストハウスで「弥陀ヶ原はほとんど平坦だが、最後に役行者も逃げ帰ったと伝えられる急坂がある」と聞かされて、あたしは弥陀ヶ原を眺めただけで逃げ帰った。

   2.湯殿山

 湯殿山にはいくつかの禁忌(タブー)戒律がある。すなわち、@湯殿山で目にしたこと、耳にしたことを人に語ってはならない、A人が湯殿山について語るのを聞いてはいけない、B持っている銭はすべて賽銭として投じなければならない、C湯殿山では落ちているもの、落としたものを拾ってはいけない、等である。
 この定めを知ることで、芭蕉翁と曾良の二句を解釈できる。
(写真左は、湯殿山神社。山自体がご神体なので、社殿はない)
 こんなタブーがあるからいやがうえにも湯殿山の神秘性が高まるわけだが、ではなぜこんなタブーが出来たのだろうか。
 「語るなかれ」と禁じられているから多くは語れないが、湯殿山神社のご神体は、女性の… そっくり。そういえば月山の象徴とも言える秘所「東補陀落」には屹立した岩があり、これが男性のシンボルにそっくりだとか。これじゃあおおっぴらに「語るなかれ」だねえ。
 …しょうがねえなあ、バチあたりの野次馬は。地獄へ落ちろ。(^O^)
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