山  寺
 ● おくのほそ道 本文
 山形領に立石寺と云山寺あり。慈覚大師の開基にして、殊清閑の地也。一見すべきよし、人々のすゝむるに依て、尾花沢よりとつて返し、其間七里ばかり也。日いまだ暮ず。麓の坊に宿かり置て、山上の堂にのぼる。岩に巌を重て山とし、松栢年旧、土石老て苔滑に、岩上の院々扉を閉て、物の音きこえず。岸をめぐり、岩を這て、仏閣を拝し、佳景寂寞として心すみ行のみおぼゆ。
   閑さや岩にしみ入蝉の声
 ● ぼくの細道
 宝珠山阿所川院立石寺、通称「山寺」には3回行った。登った、と書けないのは、このうち奥の院まで登りきったのは1回だけだからだ。
 1回目は、ある通産官僚の供をしていったのだが、木っ端役人め、前日の宴会で飲みすぎて「せみ塚」の茶店まででダウン。せめて「納経堂」を見てこようという願いむなしく引き返すことになった。
 2回目は、数十年来の悪友といったのだが、「五大堂」で涼風を楽しんだところまでで下山。あと一歩、と励ましたのだが・・・ ヤツめ、こういうところの詰めが甘くて大物になれなかったのだ。
 3度目の正直は、カミサンと一緒だった。大成功。カミサンこのとき63歳、延々と続く狭く長い石段にブツクサいいながらも登りきり、奥の院に到達した。よくがんばってくれたものだ。

 ところでこの立石寺、今日では誰でも知っている人気観光スポットだが、芭蕉翁が「おくのほそ道」で紹介するまでは、土地の人しか知らない文字通りの山寺だった。それが今日に至るまで寺門の興隆につながったのだから、俗っぽいが芭蕉翁こそ寺史に残る中興の祖ともいうべき人物であろう。(^O^)
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