プロローグ

 引っ越し先のマンションで、犬を飼ってもいいらしい、というのが、そもそものきっかけだった。
 「犬を飼ってみる?」という話が出たとき、実は私はあまり乗り気ではなかった。
 子供の頃に、庭で飼っていたことはあるけれど、そのときとは事情が違う。
 私が中心になって、世話をしなければならないのだから。
 面倒くさがりやの私には、ちゃんと面倒を見れる自信はなかったし、責任を持ってかわいがれるかどうか、心配でしかなかったのだ。
 だがしかし、とりあえず見るだけ、ということで、ペットショップでいろいろな仔犬を見たとき、私の心配は一度に吹き飛んでしまった。
 とにかくかわいい!!
 まだ引っ越す前なのに、すぐにでも連れて帰りたい気分になってしまい、一瞬で、絶対ちゃんと世話をする、と自分に誓ってしまうほど、かわいい仔犬が何匹もそこにはいた。
 それからまず、犬種選び。
 実は、私は結構、雑種びいきだった。
 子供の頃に雑種犬を飼っていて、その犬が大好きだったから。
 模様や親犬の立場によって、価値が高いと決められた犬より、自分がかわいいと思える犬の方が、私には、よっぽど素敵で魅力的に思えてしまう。
 そんな私にとって、飼っていた雑種犬は、周りにそっくりな犬がいなくて、どの犬種よりもかわいい、まさにたった一匹の、自分だけの犬種、というようなイメージだったのだ。
 でも、引っ越す先は、部屋は4階だけど階段しかないし・・・、毛がいっぱい抜けたり、うるさく吠えると、周りにご迷惑かな・・・、なんていろいろ考えると、性質とか、どのくらい大きくなるのか、とかも頭に入れておかないと。
 調べているうちに、とってもかわいくて、しかも小さくて、お手入れが簡単そうな、パピヨンが気になりだして・・・。
 ペットショップを何軒か見て回って、でも、イメージ通りの子がなかなかいなくて・・・、そんな中、あるペットショップで、「近いうちに、何匹か入荷予定がありますよ。パピヨンも予定してます」
と言われ、こんなイメージで探しているんです、という話をして、入ったら連絡をもらうことにした。
 ちょうど引っ越しをした日、連絡があった。
 「ちょっとフレーズ(鼻の上からおでこにかけての白いラインのこと)が狭いんで、ご希望にそえるかどうかわかりませんが、パピヨンも入りましたよ。夜の8時頃、お店に着く予定ですので、よろしかったら・・・」と。
 私たちが着いて少ししてから、仔犬たちを乗せた車が到着した。
 お店の中で、店長さんが、その仔を私たちの側に放してくれた。
 その仔は、来たばかりのペットショップの中を、キョロキョロしながら、たどたどしくテトテトと歩いてみた。
 くりくりのおめめがとっても印象的で、おまんじゅうみたいに、ふわふわでまるまるな、ものすごくかわいい仔だった。
 ダンボールの中でごはんをもらうと、あっという間にたいらげ、早速、健康そうなうんちをして、眠ってしまった。
 うーん、大物だ。
 かわいらしさも、健康状態も、抜群だったのである。
 そして何よりもきっと、私たちは、あの目にやられてしまったのでしょう。
 4日後の次の休みに、その仔を連れて帰ることにした。

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