HERO

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監督チャン・イーモウ
脚本 リー・チェン/チャン・イーモウ/ワン・ピン
製作 ビル・コン/チャン・イーモウ
製作総指揮 ドー・ショウファン/チャン・ウェイピン
音楽 タン・ドゥン(作曲・指揮)
イツァーク・パールマン(ヴァイオリン)
鼓童(太鼓)
キャスト
ジェット・リー(無名)
トニー・レオン(残剣)
マギー・チャン(飛雪)
チャン・ツィイー(如月)
チェン・ダオミン(秦王)
ドニー・イェン(長空)
公式サイト(日本語)
http://www.hero-movie.jp/

 今を去ること2200年、群雄割拠の中国を今、一人の梟雄が席巻しようとしていた。秦の大王。圧倒的な兵力で次々と諸国を併合していく秦王に対し、周辺の諸国は次々と暗殺者を差し向ける。その中でも最強と言われた三人、残剣、飛雪、長空。一人が1000人の兵士をしのぐ超絶的な三人の剣士には秦王より莫大な報奨金がかけられていた。そして今、その伝説の三人をたった一人で倒してのけた英雄が登場する。秦の下級官吏で名は無名。10年にわたり剣の修行を積んだとはいえ、一介の官吏にすぎぬ無名はいったいいかなる手段で三人を倒したのか。その労をねぎらい、秦王自ら約束の報償を間近に与えるその席で、無名は事の顛末を語りはじめる。だがそれを聞き終えた秦王にとって、その物語にはどこか、納得できないところがあった………

 監督のチャン・イーモウは、切ない切ない恋愛映画、「初恋の来た道」などで既に充分有名な人なんだけど、最新作のこの映画は香港映画風の切れのいいアクションと中国人民総動員の大スケール歴史スペクタクルを組み合わせた、正真正銘の超大作になっている。「ロード・オブ・ザ・リング」で感じてしまった「どうせCGIでしょ」感覚は皆無。もちろん効果的にCGIは使われているんだけど、それをしのぐ、生身の、大量の人間たちの一糸乱れぬ動きにまずしびれる。その上で、その、圧倒的な量と統率の大群衆に単身切り込んでいく伝説の暗殺者たちの体術のものすごさ、技の切れ、鍛え抜かれた剣士同士の常識外れなアクションには目を見張る。

 私、長空役のドニー・イェン大好きなんですけどね、序盤の無名対長空の殺陣にはしびれたです。やー、ドニーかっこええなあ。中盤で、予告編なんかでも見ることのできる無名対残剣の水上の殺陣の方は、なんか男が二人で「つかまえてごらんなさぁぁい」やってるみたいでなんだかなあと思ったですけど。無名対残剣、あと飛雪対如月という美女同士のバトルの二つは、本格的な殺陣と言うより様式美を見せるそれになってるんで、余計に最初の長空の殺陣の格好良さにはほれぼれする。人民解放軍全面協力の人海戦術の迫力も加え、随所に見応え充分のアクションシーンが挟まれていて楽しめる。

 だからといってこれ、破天荒なアクションの連続でたたみかける痛快映画かというとそうでもなくて、きわめて凝った構成と絵作りの上でチャン・イーモウが構築したかったものってのは、トニー・レオンとマギー・チャンの悲恋物語だったのだろうな、と思える。あらすじでも紹介したとおりこの映画は、無名がいかに三人の暗殺者を倒したのかが、まず無名本人の口から、そしてそれに疑いを抱いた秦王からの申し立てに沿う形で若干の修正が加えられた物がもう一度語られ、そしてさらに…という構造になっているのだけど、そのたびにそのお話の中で中心的なロールを演じる残剣と飛雪(と如月)は異なる、印象的にコーディネイトされた色彩をまとって(この色彩設計は本当に見応えあります。赤から始まり、青、緑、最後に白、と移り変わるその色自体に、なんかの"意味"を読み取る楽しみもあるのかもしれない。赤は情念、青は真義、みたいなね)回想に登場し、同じようで微妙に異なる物語を演じてみせる。ここで、<愛し合う暗殺者>である残剣と飛雪の、あり得たかもしれない物語がその都度否定され、最後に、本当に純粋な形の二人の愛が描かれる、という構造になっている訳で、ここら辺はさすがチャン・イーモウ、ただの体術ぶりばりなアクション映画にしてしまわないあたりの手腕はお見事。

 その、繰り返しの部分にちょっと冗長な物を感じることもあるけれど、1時間39分の尺の中で、かなり凝ったストーリーをちゃんと詰め込んで、見応えのある映像を作り上げた、ってところに拍手を惜しみませんわ。何でも本国じゃ、今頃始皇帝礼賛かよおめでてーな、的批判も巻き起こってるらしいけど、そこまで深くつっこまんでもいいのじゃないかね。一瞬にせよ、始皇帝だって改心した瞬間があったかも知らんわけだし、その瞬間を美しく切り取った映画、として楽しめばいいんじゃないかな。

 ま、個人的にはもうちょっとドニーの殺陣が見たかったなあ、と。そこが非情に残念なわけですが。

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