「突入!炎の叛乱地帯」

銀河の荒鷲シーフォート(5)

表紙

デイヴィッド・ファインタック 著/野田昌宏 訳
カバーイラスト 山本えみこ
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワSF文庫
ISBN4-15-011301-7 \880(税別)
ISBN4-15-011302-5 \880(税別)

 マゾヒスティック・スペースオペラ(^^;)、「シーフォート」シリーズの第5弾。前作「決戦!太陽系戦域」でこれ以上(以下?)は無いというくらいどん底の悲劇を味わい、あらゆる公的立場から身を引いたシーフォートでしたが、彼のカリスマ性に魅入られた民衆、政治家、そしてもちろんこのシリーズの熱心なファンによって、再び彼は第一線に戻ってきます。地球人類を滅亡の縁に追い込んだ、"魚"の脅威はいったん退けたものの、地球上には恵まれたハイテク文化を享受できる"アッピー"と呼ばれる上流の階級と、廃墟と化したニューヨークで各々のテリトリーごとに抗争を繰り返す狂暴なホームレス、"トランスポップ"に別れ、お互いに一触即発の状態にあります。そんなおり、トランスポップたちのテリトリーを再開発し、アッピーのための新しい住宅地域を作ろうとする動きが引金になって、両者の状態は一触即発に………。

 いったん終了しかけたものの、ファンたちの熱心な後押しもあって継続が決まったシリーズということで、ある意味安全策で来るかな、と思ってたんですが、著者のファインタックさんはそういう安直な方法はとらず、新シリーズといってもいいくらい体裁をとってやってきました。前3作が常に主人公、シーフォートの語りという形で進められてきたお話が、今回はシーフォートのまわりにいる人々、、さらにはお話に深くかかわる何人かの登場人物たちが交替で語っていき、その中で苦悩するシーフォート(もちろん今回もシーフォートはさんざんな目にあうのです)の姿が浮き彫りになってくるシカケになっているというワケで、このへんの捌き方は実に鮮やか。いやこれはなかなかうれしい誤算でした。

 これまでのシリーズでは、そのお話のほとんどが宇宙を舞台に進められていたのに対して、今回は荒廃し、スラム化したニューヨークを舞台にストーリーが展開していく、というのもずいぶん思い切った方向転換だと思います。これまでのお話でおなじみになった設定が全く使えなくなってしまうワケですから。そんな中で"シーフォート"らしい巨大な悲劇の要素を受け継ぎつつ、新しいテーマのお話、さらには世代の交替までも射程に据えたストーリーを展開していくファインタックさんの筆力はなかなかなものといわざるをえません。

 これまでのシリーズに登場したさまざまな登場人物、さらにシーフォートたちの次の世代の登場人物たちが、それぞれの立場で最大限の戦いを展開していく本書、SFエンタティンメントとして一級品であると思います。読むならぜひ一作目、「大いなる旅立ち」から通して読みましょうね。

 そうそう、いろんな作家がいろんな表現を試みる電脳世界の表現ですが、本書の表現もなかなかユニーク。こちらもお楽しみに(^o^)

00/3/4

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