「決戦!太陽系戦域」

銀河の荒鷲シーフォート(4)

表紙

 デイヴィッド・ファインタック 著/野田昌宏 訳
 カバーイラスト 山本えみこ
 カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
 ハヤカワSF文庫
 ISBN4-15-011283-5 \860(税別)
 ISBN4-15-011284-3 \820(税別)

 なぜ私の人生は、こんなにも惨めさと死に満ちているのだろう? もっと慎重であれば、もっと有能だったら、その多くを避けることができたのに。

 宇宙一折り合いをつけるのがヘタなヒーロー、シーフォート。自分の信念と宇宙軍の理念に忠実なあまり、たびたび絶望的な決断を下すことを余儀なくされ、そのたびに深い自責の念に囚われてしまうのに、なぜかその行為はいつも人類の危機を救い出す偉業となり、自分の落ち込みとは逆に世間の人気はうなぎ登り、それがまた彼の心を傷つけて………。自分の行為を許せないシーフォートは、ついに艦体勤務から離れ、自分も少年時代を過ごした士官学校の校長に着任する。だがここでもまた、杓子定規なまでのシーフォートの気性は、彼に安息をもたらしてはくれなかった。一方かつて彼の活躍でいったんはその侵略を退けられた異星生物"魚"達の不気味な動きが、地球をめざして再び動きはじめていたのだ………。

 とにかくもう、なんでキミはもう少し世の中と折り合いをつけて生きていけないのさ、といいたくなってしまうくらい不器用で直情的な行動しか取れない男、ニコラス・ユーイング・シーフォートという主人公が抜群に魅力的なスペースオペラ、今回はそのクライマックス。

 このシリーズの見せ場というのは、毎回シーフォートが、それによって自分のキャリアや命が失われるだけでなく、まわりのすばらしい友や部下、時には何の関係もない人までも同じ危険にさらしてしまうような、捨て身の決断をし、実際にその結果最悪の結末を予期しているのに、なぜかまわりはそんなシーフォートの決断と行動を英雄視、しかもシーフォート自身はそれによってさらに落ち込んでしまう、というある意味救いのない英雄の物語を描くところになると思うのですが、今回はシリーズ最大のクライマックス(実質、これでこのシリーズは終わる予定だったらしいです)を迎え、その飛檄度もさらにパワーアップ。ほんとにもう、なんて不幸な星の下に生れたヒーローなんだろう(^^;)

 考えてみれば軍事的な"英雄"なんてのは、その陰に一体どれだけの無駄死にを強いてきたかで決まるようなところもある、ってことをしみじみ痛感させられます。そんな重圧のなかで癇癪を爆発させたり、やたら不器用に振る舞ってしまったりしながら、承知のうえで残酷な決断を下す若者、って図式、たしかに母性本能をくすぐるんだろうなあ。女性読者が大変多いシリーズなんだそうですがさもありなん。してみると、この腰砕けな(^^;)カバーイラストも決して的外れなチョイスじゃあなかったというわけで、いやなかなか、ハヤカワSF文庫のスタッフ(のどなたかは存じません、まさか野田大元帥の入れ知恵(^^;??)の慧眼おそるべし。

 あ、もちろん男性読者が読んでも十分に面白いので心配ないです。シリーズ第一巻、「大いなる旅立ち」から続けて読みましょうね(^^;)。「ホーンブロワー」や「ボライソー」などの海洋冒険小説が好きな人ならよりいっそう楽しめるかと。

 ファンの強烈なプッシュで、ファインタックさんはいったんは終了したこのシリーズの続きをすでに上梓してるんだそうです。こちらも楽しみ………ですが一抹の不安も(^^;)

99/9/2

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