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陸軍省文書「支那事変地より帰還の軍隊・軍人の状況」

2023/3/15改 2020/7/11

陸軍省は、支那事変から帰還した軍人が周囲の人たちに語った戦地での様子などが、目に余る内容だったため、1939年2月、こうした言動に注意を促す通牒を内地や朝鮮、台湾、満州の陸軍部隊に送った。この資料は東京裁判の証拠として採用されている。

帰還軍人たちの話は周囲の気を引くために実際より誇張してあったり、なかにはつくり話のようなものも交じっている可能性はあるが、他にも同様の証言はたくさんあり、日本軍の軍紀・風紀が決して「厳正」なものでなかったことは、間違いない。

ここでは、その内容を分かりやすく分類した上で現代文にしたサマリと、原文を掲載する。
なお、出典は洞富雄編「南京大虐殺事件資料集」第1巻P336-P337である。


目次

1.サマリ

2.原文


1.サマリ

前書き

一般的には志気旺盛で、軍紀・風紀は概ね厳粛に保持されているが、一部にはいわゆる凱旋気分に駆られ、指揮官の命令・指示を遵守しない者、出迎人等の前で不体裁の行為をする者、飲酒酩酊して喧嘩する者、軍紀・風紀上不穏当なことを言う者もいる。

戦闘

・小隊長は幹部候補生上りで指揮もできない。命令しても部下が勝手に行動するのでかえって結果は良い。幹候上りの下手な指揮通りやっていたら死傷者を多く出すばかりだ。

・平時の軍隊は規律正しいが、戦地ではそうは行かぬ。やはりずるい者が得する。真面目にやった者には早く戦死した者が多い。

・戦場で上官が「進め」の号令を発しても、弾丸雨飛の中では誰も進む者はない。

掠奪

・戦場で、部隊長は徴発を徴募と言って、食糧品でも不足すれば、「徴募せよ」と命令していたが、その実徴募と徴発は同じだ、厳しい皇軍だというが、徴発は戦争に付きものだ。

・戦闘間で一番嬉しいのは掠奪で、上官も第一線では見ても知らぬ振りをするから、思う存分掠奪する者もいた。

・戦地では強制徴発にかこつけて宝石、貴金属等を記念品として掠奪した者が相当いる。

・友軍の屍体を検索し金の入歯まで抜取るなど、日本軍人も相当残酷だ。

・掠奪品を内地に持ち帰るのは下士官兵ではなく将校である。帰還途中、将校行李から数点の掠奪品を憲兵に没収されるのを見受けたが、実にけしからぬ。

・兵站地域では牛や豚の徴発は憲兵に見つけられてよく叱られたが、第一線に出れば食わずに戦うことはできないから、見つけ次第片端から殺して食った。

・戦地でのわが軍の掠奪は想像以上で、占領地に対する宣撫はごく一部でしか行われていない。

強姦

・ある中隊長は、「余り問題が起らぬように金をやるか、又は用を済ました後は分らぬように殺しておけ」と暗に強姦を教えていた。

・戦地では強姦くらいは何とも思わぬ。現行犯を憲兵に発見され、発砲して抵抗した奴もいる。

・約半年にわたる戦闘中に覚えたのは強姦と強盗くらいだ。

殺人、捕虜

・〇〇で親子4人を捕え、娘は女郎同様にもてあそんだが、親が余り娘を帰せと言うので親は殺し、残る娘は部隊出発までもてあそび、出発間際に殺した。

・戦争に参加した軍人を調べたら、殺人・強盗・強姦の犯人ばかりだろう。

・日本軍は多くの支那人間諜を使役し、必要がなくなれば全部殺した。

・支那軍の捕虜は一列に整列させ、機関銃の性能試験のため全部射殺した。

その他

・〇〇方面にいた部隊は相当軍紀がやかましかったそうだが、我々の部隊は軍紀・風紀は問題外で幸いであった。

・休戦で待機中になると賭博が流行し、相当の大金を所持して帰還した者もいる。

・部隊では将校3円、下士官2円、兵1円の淫売通用券を発行し将兵を遊ばしている。

2.原文

<洞富雄氏の説明文>

ここに「動乱地域から帰還した軍隊及軍人の状態」といわれているものは、昭和14年2月、陸軍省が、内地・朝鮮・台湾・満州にある陸軍部隊に対し、「支那事変より帰還する軍隊及軍人の言動指導取締に関して」通牒を発したとき、指導・取締りの参考として送付した「支那事変地より帰還の軍隊・軍人の状況」である。

これは、極東国際軍事裁判で板垣征四郎被告を弁護するため証人として法廷に立った山形正隆元大将に対する反対訊問において、検察側が書証として提出し、法廷証拠となっている。(検証625・法廷3304、極秘286号14頁)。「極秘 4460部の内第〇号、注意 複刷を禁ず、取扱を極めて厳重にし遺漏なきを期せられたし」とある。法廷証拠とはなっても、そのとき、全文の朗読は行われなかった。つぎにこの書証から「軍紀・風紀に就て」の項の全文を引いておく。

<本文>  注) 読みやすくするため、カタカナはひらがなに置き換えている。

一般に志気旺盛にして、軍紀・風紀は概ね厳粛に保持せられあるも、一部には所謂凱旋気分に駆られ指揮官の命令・指示の遵守適格ならざるもの、出迎人等の前に於て不体裁の行為をなすもの、飲酒酩酊の上喧嘩するもの、軍紀・風紀上不穏当なる言辞をなすものあり。

指揮官の掌握十分ならず、行軍・軍紀著しく不良なりし事例左の如し。

軍紀・風紀上注意を要する主なる言辞の事例左の如し

以上