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小資料集(内務省警保局長通牒関連文書)

〔解説〕

ここに掲載した史料は、内務省警保局長通牒(1938/2/23)の出状に到る経緯とその後の状況に関するものです。

この通牒は、中国大陸で日本陸軍の慰安所の本格展開が始まってまもなく出されたもので、内地で活発になった慰安婦徴募活動に対する警察の取り扱い方針を各県警に通知したものです。慰安婦問題の存在を否定する人たちは、「この史料は日本軍・政府が慰安婦の徴募を厳正にやっていた証拠であり、騙したり強制連行したのは業者の責任で日本国に責任はない」と主張します。しかし、この通牒が出された経緯やその後の経過を見ると、通牒の第1項にある「当分の間黙認する」という言葉に取締方針が凝縮されていることがわかります。

詳しくは、小論報「内務省警保局長通牒が意味するもの」を参照ください。

下表に各文書の概要を示します。標題についている丸数字は、下表左端のNo.に相当します。なお、NO.1,12,13については、〔一般資料〕の部にあります。

内務省警保局長通牒関連史料一覧

内務省警保局長通牒関連文書一覧

①外務次官発「不良分子の渡支取締方に関する件」

この史料は「一般資料」側にあります。ここをクリック

②上海総領事警察署長発依頼書

この史料は⑦和歌山県知事信の添付文書になっています。ここをクリック

⑫内務省警保局長「支那渡航婦女の取扱に関する件」

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⑬陸軍省副官「軍慰安所従業婦等募集に関する件」

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③醜業婦渡支に関する経緯(日付不詳)

醜業婦渡支に関する経緯

一、十二月二十六日内務省警務課長より兵庫県警察部長宛『上海徳久■■、神戸市中野■■の両名は上海総領事館警察署長の証明書及山下内務大臣秘書官の紹介名刺を持参し出頭する筈に付、事情聴取の上何分の便宜を御取計相成度』との電報あり

一、同月二十七日右両名出頭せるが、内務大臣秘書官の名刺を提出し徳久は自身の名刺を提出せず、且身分をも明にせず、中野は神戸市福原町四五八中野■■なる名刺を出し、之が同人の職業は貸座敷業なり。

一、同両人の申立に依れば、大阪税関勤務の沖中佐と永田大尉とが引率し行くと称し、最少限五百名の醜業婦を募集せんとするものなるが、周旋業の許可なく且年末年始の休暇中なるが枉げて渡支の手続をせられ度き旨の申述あり。

一、兵庫県に於ては、一般渡支者と同様身分証明書を所轄警察署より発給することとせり。

一、神戸より乗船渡支したるものなきも、陸路長崎に赴きたるもの二百名位ある見込み。

一、一月八日神戸発臨時船丹後丸にて渡支する四、五十名中に湊川警察署に於て身分証明書を発給したるもの二十名あり

一、周旋業の営業許可なき点は兵庫県に於ては黙認の状態にあり

出典: 以下3資料を参考にして作成。原文は手書きなのでとても見にくい。
・女性のためのアジア平和国民基金編「従軍慰安婦関係資料集成」,P105
・鈴木他編「日本軍慰安婦関係資料集成(上)」,P133
・永井和「日本軍緒慰安所政策について」


④群馬県知事から内務大臣への書信(1938/1/19)

保第二二號

昭和十三年一月十九日

群馬縣知事(警察部長)

内務大臣 殿
 北海道庁 長官 殿
 警 視 総 監 殿
各府県庁長官 殿
 (以下省略)

上海派遣軍内陸軍慰安所に於ける酌婦募集に関する件

 神戸市湊東区福原町二一三 貸座敷業 大内藤七

右者肩書地に於て娼妓数十名を抱え貸座敷営業を為し居る由なるか、今回支那事変に出征したる将兵慰安として在上海陸軍特務機関の依頼なりと称し、上海派遣軍内陸軍慰安所に於て酌婦稼業(醜業)を為す酌婦三千人を必要なりと称し本年一月五日之か募集の為、

 管下前橋市連雀町一七 芸娼妓酌婦等紹介業 反町忠太郎

方を訪れ、其の後屢々来橋別記一件書類(契約書(一号)、承諾書(二号)、借用証書(三号)、契約条件(四号)、を示し酌婦募集方を依頼したる事実あるも、本件は果して軍の依頼あるや否や不明且公序良俗に反するか如き事案を公々然と吹聴するか如きは皇軍の威信を失墜するも甚しきものと認め、厳重取締方所轄前橋警察署長に対し、指揮致置候条此段及申(通)報候也
尚、大内藤七の言動左記の通に付申添候

追而 兵庫(貴)県に於ては相当取締の上結果何分の御通報相煩はし度
(県下各警察署長に在りては厳重取締せらるへし)

     記

日支事変に依る出征将兵も既に在支数ケ月に及ひ戦も酣はな処は終つた為、一時駐屯の体勢となつた為、将兵か支那醜業婦と遊ふ為、病気に掛るものか非常に多く軍医務局ては戦争より寧ろ此の花柳病の方か恐しいと云ふ様な情況で其処に此の施設問題か起こったものて、在上海特務機関か吾々業者に依頼する処となり、同僚

  神戸市湊東区福原町 目下上海在住貸座敷業 中野■■

を通して約三千名の酌婦を募集して送ることとなったので、既に本問題は昨年十二月中旬より実行に移り目下二、三百名は稼業中てあり兵庫県や関西方面ては県当局も諒解し応援している、営業は吾々業者か出張してやるのて軍か直接やるのてはないか、最初に別紙一花券(兵士用二円、将校用五円)を軍隊に営業者側から納めて置き、之を軍で各兵士に配布、之を使用した場合吾々業者に各将兵か渡すことゝし、之を取纏めて軍経理部から其の使用料金を受取る仕組となっていて、直接将兵より現金を取るのてはない、軍は軍としての慰安費様のものから其の費用を支出するものらしい。何れにしても本月廿六日には第二回の酌婦軍用船て(神戸発)送る心算て目下募集中てある 云々

(筆者註 周旋業者大内が携帯していた契約書などの雛形)

(一号)     契 約 書

一 稼業年限

一 契 約 金

一 上海派遣軍内陸軍慰安所に於て酌婦稼業を為すこと

一 賞与金は揚高の一割とす(但し半額を貯蓄すること)

一 食費衣裳及消耗品は抱主の負担とす

一 年限途中に於て解約の場合には元金残額違約金及抱入當時の諸費用一切を即時支払為すこと
右契約条項確守履行仕る可く依而契約書如件

    昭和  年  月  日

本 籍 地
現 住 所
  稼 業 人

現 住 所
  連 帯 人
    殿

(二号)     承 諾 書

本 籍
住 所
  稼 業 人

    昭和  年  月  日生

右の者前線に於ける貴殿指定の陸軍慰安所に於て酌婦稼業(娼妓同様)を為す事を承諾仕候也

 昭和  年  月  日

     右戸主又は親権者
     稼 業 人

(三号)    金員借用證書

一金

右の金員拙者要用に付き正に請取借用仕候事実正也然る上は返済方法は別紙契約書に基き

   酌婦稼業を為し御返済申可く万一本人

に於て契約不履行の節は拙者等連帯者に於て速かに御返金仕る可く為後日借用証書依而如件

  昭和  年  月  日

本 籍 地
現 住 所
  借 用 主

現 住 所
  連 帯 人
    殿

(四号)

拝啓年内余日も無之嘸御繁忙の事と奉存候陳者今回軍部の御了解の元に中支方面に皇軍将士慰安を目的とする慰安所設立致す事と相成り左之条件を以て約五百名の酌婦を募集致候に付何卒大至急御手配煩し度御報知次第直に出張可仕候間御一報被下度奉願候

昭和十二年十二月二十八日

大内藤七

    殿

     条件

一、契約年限 満二ヶ年

一、前借金  五百円より千円迄

但し、前借金の内二割を控除し、身付金及乗込費に充当す

一、年齢   満十六才より三十才迄

一、身体壮健にして親権者の承諾を要す。但し養女籍に在る者は実家の承諾なきも差支なし

一、前借金返済方法は年限完了と同時に消滅す 即ち年期中仮令病気休養するとも年期満了と同時前借金は完済す

一、利息は年期中なし。途中廃棄の場合は残金に対し月壱歩

一、違約金は一ヶ年内前借金の一割

一、年期途中廃棄の場合は日割計算とす

一、年期満了帰国の際は、帰還旅費は抱主負担とす

一、精算は稼高の一割を本人所得とし毎月支給す

一、年期無事満了の場合は本人稼高に応し、応分の慰労金を支給す

一、衣類、寝具食料入浴料医薬費は抱主負担とす

花券

出典: 鈴木他編「日本軍慰安婦関係資料集成(上)」,P127-P130


⑤高知県知事から内務大臣への書信(1938/1/25)

保発第二四號

昭和十三年一月二十五日

高知縣知事 小林光政

内務大臣 末次信正 殿
各庁府縣知事 殿

支那渡航婦女募集取締に関する件

最近支那渡航婦女募集者続出の傾向あり、之等は主として渡支後醜業の従事せしむるを目的とするものにして一面軍と聯絡の下に募集するものの如き言辞を弄する等不都合のもの有之而之が取締に関し別記の通り通牒を発し候条一応ご参考までに及び申(通)報候也。

支那各地に於ける治安の恢復と共に同地に於ける企業者続出し之に伴ひ芸妓給仕婦等の進出亦夥しく、中には軍当局と聯結あるかの如き言辞を弄し之を之等渡航婦女子の募集を為すもの等漸増の傾向に有之候、軍の威信に関する言辞を弄する募集者に就ては絶対之を禁止又醜業に従事するの目的を以て渡航せんとするものに対しては身許証明書を発給せざることに取扱相成度

出典: 鈴木他編「日本軍慰安婦関係資料集成(上)」,P126


⑥山形県知事から内務大臣への書信(1938/1/25)

収保親第一の内

昭和十三年一月二十五日

山形縣知事 武井群嗣(山形県警察部長)

内務大臣 末次信正 殿
陸軍大臣 杉山 元 殿
 警視総監 殿
 各庁府縣知事 殿
  (以下省略)

北支派遣軍慰安酌婦募集に関する件

 神戸市湊東区福原町 貸座敷業 大内藤七

管下最上郡新庄町桜馬場芸娼妓酌婦紹介業者 戸塚国五郎は、右者より「今般北支派遣軍に於て将兵慰問の為全国より二千五百名の酌婦を募集することとなりたる趣を以て、五百名の募集方依頼越下り該酌婦年齢十六才より三十才迄前借は五百円より千円迄稼業年限二ケ年、之が紹介手数料は前借金の一割を軍部に於て支給するものなり云々」と称しあるを所轄新庄警察署に於て聞知したるが如斯は軍部の方針としては俄かに信し難きのみならす、斯る事案が公然流布せらるるに於ては銃後の一般民心殊に応召家庭を守る婦女子の精神上に及ほす悪影響尠からず、更に一般婦女身売防止の精神にも反するものとして所轄警察署長に於て右の趣旨を本人に懇論したるに之を諒解し且つ本人老齢にして活動意に委せさる等の事情より之か募集を断念し曩に送付ありたる一切の書類を前記大内に返送したる状況に有之候

(県下警察署長に於ては参照の上取締上遺憾なきを期せらるべし)

出典: 鈴木他編「日本軍慰安婦関係資料集成(上)」,P126-P127


⑦和歌山県知事から内務省への書信(1938/2/7)

※昭和十二年二月七日は、十三年二月七日の間違い

刑第三〇三號

昭和十二年二月七日

和歌山縣知事(警察部長)

内務省警保局長 殿

 (縣下各警察署長殿)

時局利用婦女誘拐被疑事件に関する件

當縣下田邊警察署に於て標記事件発生、之か取調状況左記の通に有之候條此段及申報候也

(縣下は参考の上取締に資すると共に爾後同様犯罪ありたる場合は捜査着手前報告せらるべし)

一、事件認知の状況

昭和十三年一月六日午後四時頃管下田邊町大字神子濱通称文里飲食店街に於て三名の挙動不審の男俳諧しあり、注意中の處内二名は文里水上派出所巡査に対し、疑はしきものに非す軍部よりの命令にて上海皇軍慰安所に送る酌婦募集に来りたるものにして参千名の要求に対し、七十名は昭和十三年一月陸軍御用船にて長崎港より憲兵護衛の上送致済なり、と称し立出たりとの巡査報告あり。眞相に不審を抱き情報係巡査をして捜査せしむるに、文里港料理店萬亭事中井■■方に登楼し、酌婦を呼ひ酌せしめつつ上海行きを薦めつつありて、交渉方法に付き無智なる婦女子に対し金儲け良き点軍隊のみを相手に慰問し食料は軍より支給する等誘拐の容疑ありたるを以て被疑を同行取締りを開始したり。

二、事件取調の状況

被疑者を取締たるに

大阪市

 貸席業 佐賀 ■■   當四十五年

大阪市

 貸席業 金澤 ■■   當四十二年

海南市

 紹介業 平岡 ■■   當四十年

と自供し金澤■■の自供に依れば昭和十二年秋頃

大阪市

 會社重役 小西 ■■

神戸市

 貸席業  中野 ■■

大阪市

 貸席業  藤村 ■■

の三名は陸軍御用商人氏名不詳某と共上京し、徳久少佐を介し荒木大将、頭山満と會合の上、上海皇軍の風紀衛生上年内に内地より三千名の娼婦を送る事となり、詳しき事情を知らさるか藤村、小西の両名にて七十名を送りたるか九条警察署(大阪府)長、長崎縣外事課に於て便宜を受けたり。

上海に於ては情交金将校五円、下士二円にて二年後軍の引揚と共に引揚くるものにして、前借金は八百円迄を出し募集に際し藤村■■に手先として和歌山縣下に入込み、勝手を知らさる為右事情を明し平岡■■に案内せしめ御坊町に於て

 ■■■■  當二十六年

 ■■■■  當二十八年

の両名を■■■■は前借金四百七拾円、■■■■は前借金参百六拾二円を支払いう海南市平岡■■方に預けありと自供せり。

依て九条警察署関係を照會すると共に眞相を明にする為め■■、■■等を同行し事情を聴取するに金澤■■自供の如く誘拐方法を供述せり。

三、身柄の處置

照會に依り被疑者三名の身元のみ判明したるか、皇軍慰問所の有無不明なるが九条警察署に於て酌婦公募證明を出したる事實判明、疑義の点多多あり眞相確認後に於て取調を為すも被疑者逃走証拠隠滅の虞なしと認め、所轄検事に報告の上

 被害者 ■■■■

  〃  ■■■■

  〃  ■■■■

 被疑者 平岡■■

 関係人 中井■■

  〃  弓倉■■

の聴取に止め一月十日身柄を釈放せるも何時にても出頭方誓言せしめたり。

四、関係方面照会状況

長崎縣外事課及大阪府九条警察署に照会したるに左記の通り回答ありたり。

⑧和歌山県からの照会に対する長崎県からの書信(1938/1/20)

(一)長崎縣外事課よりの回答

十三外親第一七〇〇號

昭和十三年一月二十日

長崎縣外事警察課長

和歌山縣刑事課長殿

事実調査方件回答

 大阪市 ■■■■■■■■

  貸席業 佐賀 ■■

        外二名

右者、婦女誘拐の嫌疑を以て御取調の趣にて皇軍将兵慰安婦女の渡滬に関する事実調査方本月十八日付刑第三〇三號を以てご照会相成候處本件に関しては客年十二月二十一日付を以て在上海日本総領事館警察署長より本縣長崎水上警察署長宛左記の如く依頼越したるを以て本縣に於ては右依頼状に基き

一、本人の寫眞二枚添付せる臨時酌婦営業許可願

一、承諾書

一、印鑑證明書

一、戸籍謄本

一、酌婦稼業者に対する調査書

を所持し合法的雇傭契約に依り渡滬するものと認めらるものと認めらるるものに対しては渡滬を許可致居条此段及び回答候也

※ 筆者註: 滬は上海の別称

②上海総領事警察から長崎県水上警察署宛ての書信(1937/12/21)

皇軍将兵慰安婦女渡来につき便宜供与方依頼の件

本件に関し前線各地に於ける皇軍の進展に伴ひ、之が将兵の慰安方に付、関係諸機関に於て考究中の處、頃日来当館陸軍武官室憲兵隊合議の結果、施設の一端として前線各地に軍慰安所(事実上の貸座敷)を左記要領に依り設置することとなれり。

領事館

(イ)営業願出者に対する許否の決定

(ロ)慰安婦女の身許及斯業に対する一般契約手続

(ハ)渡航上に関する便宜供与

(ニ)営業主並婦女の身元其他に関し関係諸官署間の照会並回答

(ホ)着滬と同時に当地に滞在せしめさるを原則として許否決定の上直ちに憲兵隊に引継くものとす

憲兵隊

(イ)領事館より引継を受けたる営業主並婦女の就業地輸送手続

(ロ)営業者並稼業婦女に対する保護取締

武官室

(イ)就業場所及家屋等の準備

(ロ)一般保険並検黴に関する件

 右要領により施設を急き居る処、既に稼業婦女(酌婦)募集の為本邦内地並に朝鮮方面に旅行中のものあり。今後も同様要務にて旅行するものある筈なるか、之等のものに対しては、当館発給の身分証明書中に事由を記入し、本人に携帯せしめ居るに付、乗船其他に付便宜供与方御取計相成度。尚着滬後直に就業地に赴く関係上、募集者抱主又は其の代理者等には夫々斯業に必要なる書類(左記雛形)を交付し、予め書類の完備方指示し置きたるも、整備を缺くもの多かるへきを予想さるると共に、着滬後煩雑なる手続を繰返すことなき様致度に付、一応携帯書類御査閲の上御援助相煩度、此段御依頼す。

※ 筆者註: 滬は上海の別称

  前線陸軍慰安所営業者に対する注意事項

前線陸軍慰安所に於て稼業する酌婦募集に赴き、同伴回滬せむとするときは、予め左記必要書類を整へ、着滬と同時に当館に願出許可を受くべし。若し必要書類具備せさる場合は許可せさると共に、直に帰京せしむることあるべし。

一、本人写真二枚添付せる臨時酌婦営業許可願各人別に壱通(様式第一号)

一、承諾書(様式第二号)

一、印鑑證明書

一、戸籍謄本

一、酌婦稼業者に対する調査書(様式第三号)

昭和十二年十二月二十一日

在上海日本総領事館警察署

(様式第一号) 臨時酌婦営業許可願

本籍

現住所

営業場所

家号

芸名

本名

    生 年 月 日

 右者今般都合に依り前記場所に於て臨時酌婦営業致度候条、御許可相成度、別紙承諾書、印鑑証明、戸籍謄本、調査書並に写真に枚相添抱主連署の上、此段及奉願候也

昭和  年  月  日

右本の何某 印

抱主 何某 印

在上海

  日本総領事館  御中

(様式第二号) 承諾書

本籍

住所

  稼業人

    生 年 月 日

 右ノ者前線に於ける貴殿指定の陸軍慰安所に於て酌婦稼業(娼妓同様)を為すことを承諾仕候也

昭和  年  月  日

右戸主又は親権者 何某 印

稼業人      何某 印

(様式第三号) 酌婦稼業者何某に対する調査書(調査書)

前居住地及来 年月日

現住所

教育程度経歴

酌婦稼業を為すに至りたる理由

刑罰に処せられたる存否

両親又は内縁の夫の有無其の職業

別借金額

参考事項

備考

以上

⑨九条警察署長より田辺警察署長宛ての書信(1938/1/8)

(大阪九条警察署長よりの田邊署長宛回答)

拝啓 唐突の儀御赦し被下度候

陳者此の度上海派遣軍慰安所従業酌婦募集方に関し内務省より非公式ながら當府警察部長へ依頼の次第も有、之當府に於ては相當便宜を與え、既に第一団は本月三日渡航せしめたる次第にて目下貴管下へも募集者出張中の趣なるか、左記の者は當署管内居住者にして身元不正者に非さる者関係者より願出候に就き之か事実に相違なき点のみ小職に於て證明書致間可然御取計願上候。

敬具

■■■■■   金澤■■

一月八日夜

大阪府九条警察署長

山崎石雄 印

和歌山縣

  田邊警察署長 殿

出典: 女性のためのアジア平和国民基金編「従軍慰安婦関係資料集成①」,P27-P46、鈴木他編「日本軍慰安婦関係資料集成(上)」,P133-P138


⑩茨城県知事から内務省への書信(1938/2/14)

保発第四四號

昭和十三年二月十四日

茨城縣知事

(警察部長)

内務大臣 殿

陸軍大臣 殿

各庁府縣長官 殿

水戸連隊区司令官 殿

水戸土浦憲兵分隊長 殿

縣下各警察署長 殿

上海派遣軍内陸軍慰安所に於ける酌婦募集に関する件

神戸市 貸座敷営業 大内■■

右者肩書地に於て貸座敷営業中の由なる客月十九日水戸市■■■料理店来新事伊藤■■方に稼業中の酌婦にして

本籍千葉県■■■…■ (前借六四二円) ■■■ 大正三年十二月二十日生

本籍山形県■■■…■ (前借六九一円) ■■■ 大正二年三月十四日生

の両名を上海に於て酌婦稼業せしむべく募集し、同日神戸に向け出発したる事実有、之右募集の経緯を調査するに大内■■は管下■■■■■の出生にして約三十年前神戸市に転任したる由、現に其の遠縁に當る江幡■■なる者湊町に現住し居り、然るに本年一月四日頃大内より江幡に対し上海派遣軍の依頼ありたるか故に酌婦数名を募集するを以て適當なる者あれば通知し呉れの様来信ありたるに対し、江幡は同町 周旋業 大川■■ に対し之の斡旋方を委嘱したる結果、其の後大川と大内とに前記伊藤方酌婦を募集したるものにあり、募集當時伊藤に対し上海派遣軍の依頼ありたるが如く吹聴したる趣なるが、本件果して軍の依頼ありたるものか全く不明にして且つ酌婦の稼業たる所詮は醜業を目的とするは明かにして、公序良俗に反するが如き本件事案を公々然と吹聴募集するか如きは皇軍の威信を失墜すること甚だしきものありと認め、最重取締方所轄湊警察署長宛指示致置候條止談及申(通)報候也

 追而兵庫縣に於ては相當取締の上結果何分の御回報相煩度

(縣下各警察諸侯に在りては最重取締せらるべし)

(筆者註 周旋業者大内が携帯していた契約書などの雛形)

写(第一)  契約証

(群馬県知事書信の内容と同じにつき省略)

金員借用証書

(群馬県知事書信の内容と同じにつき省略)

(第四)
拝啓年内余日も無 …

(群馬県知事書信の内容と同じにつき省略)

出典: 鈴木他編「日本軍慰安婦関係資料集成(上)」,P130-P133 但し、住所氏名の一部は、女性のためのアジア平和国民基金編「従軍慰安婦関係資料集成」の表記に準じて一部以外はマスクした。


⑪宮城県知事から内務省への書信(1938/2/15)

保第九八一號

昭和十三年二月十五日

宮城縣知事(警察部長)

内務大臣 末次信正 殿

各庁府縣長官 殿

管下各警察署長 殿

上海派遣軍内陸軍慰安所に於ける酌婦募集に関する件

首題の件に関し、客月十九日付保第二四二号を以て群馬県知事(貴官)より通報に接し、爾来内査中の處、本月八日管下名取郡■■■周旋業者村上■■■宛、福島県平市■■■周旋業長谷川■■より標記酌婦として年齢二十歳以上三十五歳迄の女子を前借金六百円にて約三十名位の周旋方の内容のもの郵便はがきを以て依頼越したる事実あり、尚本人の意嚮内査するに本人は更に意に介せず、一笑に付し周旋の意志無之。

追而 本件は事実に関しては目下福島県に照会中付申添候
 (管下各署に於ては本件事案に鑑み引続内査を遂け発見の場合は速に報告せらるべし)
右及申(通)報候也

昭和十三年二月十四日

出典; 鈴木他編「日本軍慰安婦関係資料集成(上)」,P130


⑭陸海外三省関係者会同の決定事項(1938/4/16)

在留邦人の各種営業許可及取締に関する陸海外三省関係者会同決定事項

昭和十三年四月十六日南京総領事館に於て、陸海外三省関係者会同在留邦人の各種営業許可及取締に関し協議会を開催し、各項に付き左の通り決定せり(南京警察署沿革誌に依る)

一、期日 昭和十三年四月十六日午前十時開始同午後五時終了

二、出席者

陸軍省 兵站司令官   千田大佐

    第三師団参謀  栗栖中佐

    第三師団軍医部 高原軍医中佐

    南京特務機関  大西少佐

    南京憲兵隊   小山中佐

     同      堀川大尉

     同      北原中尉

海軍側 海軍武官    中原大佐

    嵯峨艦長    上野中佐

領事館側        花輪総領事

            田中領事

            清水警察署長

            佐々木警部補

三、議決事項

(一)各種営業別に依る許容の方針及許可の限度  (省略)

(二)~(五) (省略)

(六) 軍以外にも利用せらるる酒保慰安所の問題

陸海軍に専属する酒保及慰安所は陸海軍の直接経営監督するものなるに付、領事館は干与せざるべきも一般に利用せらるる所謂酒保及慰安所に就ては此の限りにあらず、此の場合、業者に対する一般の取締は領事館其の衝に当り之に出入する軍人軍属に対する取締は憲兵隊に於て処理するものとす、尚憲兵隊は必要の場合、随時臨検其の他の取締を為すことあるべし。
要するに軍憲領事館は協力して軍及居留民の保健衛生と業者の健全なる発展を期せんとするものなり。
将来、兵站部の指導に依り所設せらるべき軍専属の特殊慰安所は憲兵隊の取締る処にして既設の慰安所に対しては、兵站部に於て一般居留民の利便をも考慮に入れ、其の一部を特種慰安所に編入整理することあるべし。
右は追て各機関協議の上、決定するものとす。
軍専属の酒保及特殊慰安所をママ(陸海共)に於て許可したる場合は、領事館の事務処理に便たる為、当該軍憲より随時其の業態、営業者の本籍、住所氏名、年齢、出生、死亡其の他身分上の異動を領事館に通報するものとす。

出典; 吉見義明編:「従軍慰安婦資料集」,P177-P180


⑮山海関副領事から外務大臣への報告(1938/5/12)

米機密第三五三號

昭和十三年五月二十日

外務省亜米利加局長 吉沢清次朗

北海道庁長官 石黒英彦 殿

支那渡航婦女の取扱に関する件

本件に関し、在山海関佐々木副領事より別紙写の通申越の次第ありたるに付、委細右にて御了悉の上、右■■■外二名の婦女に支那渡航の身分証明書を発給せられたる事情至急御査報相成度此段照会申進す。


機密第二一三号
昭和十三年五月十二日

在山海関 副領事 佐々木高義

外務大臣 広田弘毅 殿

支那渡航婦女の取扱に関する件

二月二十八日付米三機密合第ニ八六号貴信を以て、支那渡航婦女の取扱に関する昭和十三年二月二十三日付内務省発警第五号内務省警保局長発各庁府県長官宛通牒写御送付相成りたる処、右に依れば醜業を目的とする婦女の支那渡航は満二十一年以上の者となり居れるに付当館に於ても其の趣旨に基き鋭意渡航婦女の取締を励行しつゝある次第なるが、本月十日当地通過北京に赴きたる料理店業■■■の同伴せる芸妓四名中の下記三名■■ … ■■は、何れも二十一年未満にして、且店主の営業より考ふるに何れも醜業を目的として渡来せるは極めて明白なるに拘はらず、旭川警察署長発給の身分証明書を所持し居りたる為、余儀なく通過せしめたるが、他にも此れに類するもの二、三ありたり、此等は当方今後の取締上にも種々影響を及ほす虞あるにつき本件事情一応御取調の上、何分の御回示相成仰度此段申進す。

出典; 鈴木他編「日本軍慰安婦関係資料集成(上)」,P113-P114


⑯ 支那渡航婦女取締りに関する件(1938/6/30)

条三機密第四八〇號

昭和十三年六月三十日

外務省条約局長 三谷隆信

内務省警保局長 本間 精 殿

支那渡航婦女取締に関する件

本年二月二十三日附貴局長発各庁府県宛訓令に関し在支各公館所在地に於ける実情を調査せしめ本件に関する意見並に資料を求めたる處、今日迄回報ありたるもの4館に過きさるも不取敢右結果取纏め左の通報告す。

支那へ渡航の婦女取締に関する件
(済南、張家口、芝罘、山海関より報告ありたるものに依る)

一、入支の経路

五月下旬現在に於ける北支各地の醜業婦は従来より北支、満州に在りたる醜業婦の異動集散したるものが其の大部分を占め、内地より渡航醜業に従事するものは未だ少数なり、而して内地より渡支する醜業婦にして身分証明書の下付を受くる望み薄きものは一旦朝鮮又は満州に到りたる後、北支居住の知己又は同業関係者に呼寄方を来して北支へ向ふもの少なからず
年齢の関係に依り、取締規則に依る証明書を受け得ざるものは、女給女中等の身分証明書を受け、入支後醜業に従事するものあり)

二、醜業婦の分布状態

山海関に於ては「同地経由北支に赴く婦女にして醜業に従事するものの内には朝鮮人相当多く其の数漸次増加の傾向にある處、是等は前線に活動するは勿論都会地にても稼業し居り、内地よりの渡航者を或程度制限するも左迄需要に影響することなかるへし」とす。 済南附近には別表の如く事変前の約十倍の醜業婦あるも現在に於ては事情已むを得ずとす。又、徐州陥落前より密に南下せる婦女三百名ありと稱せられ五月二十二日以後、軍用車にて南下せるもの一八六名あり。 芝罘に在る稼業者は別表(十七名)の如くなるも支那妓女多数(六十名)あり。
張家口は醜業婦の数、入支婦女に関する取締に関し具体的の報告なきも一般に婦女払底なる趣なり。尚、同地婦女の収入を通報せるに付参考迄に挙ぐれば左の如し。

芸 酌 婦   最高揚高 七百円 住込み食事雇主負担

カフェー女給 百円乃至二百円

仲 居     百円乃至三百円

表. 北支各地に於ける醜業婦女数(五月末現在) … <省略>

三、取締に関する意見

(イ)醜業に従事せしむる婦女を女給、女中等の名義にて内地官庁の身分証明書を受けしめ傭入るるもの、又は婦女の無智に付入り実状を隠蔽して傭入醜業に従事せしむる等の事実あるのみならす、而も通過地に於ては内地官庁の身分証明書を携行せる者を行先地に於て醜業に従事する疑ありとて入国を拒否すること困難なるに付、内地官庁に於て証明書発給の際特に行先地に於ける稼業をも考慮し下付することを要す。(山海関)

(ロ)前記入支経路に徴し内地よりの婦女流出防止策としては、従来通りの内地に於ける取締も必要なるが、◇口、新義州、山海関及大連等に於て一層厳密なる監視を加ふる要あり(済南)

(ハ)北支に於ては「カフェー」女給、「ダンサー」の如きも既に飽和状態に達し此の上の増加は弊害多きに付、醜業婦同様取締る必要あり之は前項(イ)の如き虚偽の申出に依る身分証明書下付を防ぐことを得べし(山海関)

出典; アジア歴史資料センター(JACAR)Ref.B06050090800(社会問題諮問委員会関係一件 第二巻(B504)(外務省外交史料館)111ページ)


⑰ 支那渡航婦女取締りに関する件(1938/7/14)

条三機密第五三〇號

昭和十三年七月十四日

外務省条約局長 三谷隆信

内務省警保局長 本間 精 殿

支那渡航婦女取締に関する件

本件に関しては累次申進置きたる處、今般在北京堀内総領事及在南京花輪総領事より夫々別添の如き報告(附属甲は北京、乙は南京)ありたるに付、右写各一部玆に送付す。

附属甲

支那渡航婦女取締に関する件

北京に於ける料理店、飲食店、カフェー等激増し、之に働く婦女子の数七百余名にして、中には當地方の事情に精通せぬ広告、其の他周旋人の甘言に乗せられ、収入を過大視来京し、実情と相違せるを知り困却し居るもの相当数に上る見込に付、爾今之等婦女子の渡航に就ては左記事項を注意する必要あるものと認めらるるに付、可然御配慮相成様致度此段回報申進す。

一、料理店
当地に於ける料理店は内地に於ける貸席と同様にして芸妓、酌婦をして稼業せしむるものなり

一、芸妓及酌婦
芸妓の殆と大部は二枚鑑札にして、酌婦は内地に於ける娼妓と同様なり。来京後、此の業態を知り問題を惹起せる事例あり

一、女給、ダンサー、女中
内地満鮮方面に於て募集に当り、月収三百円以上ありと解し居る由なるも、之等稼業者の収入は百五拾円以下と見るを至当とすへく、尤も「ダンサー」等には相当収入あるものあるへし

附属乙

支那渡航婦女取締に関する件 回答

南京に関する限り此の種渡来者は現在に於て尚過多と迄は行かぬ需要を充し得さる有様にて、各料理店共午後八、九時ともなれは俗に言ふ箱切れの盛況なり、されと其の営業対象たる軍関係者か今後共其の数を現状に維持し居るものなるや否や保証の限りに非す、且当地竝に其の他の各方面に於て需給相伴はす、一攫千金の夢を貪りたる当初(当地なれは本年一、二月頃迄)の好景気風は相当日本内地にも伝えられたる趣にて、目下逐次渡来者増加しつつあれは、今後相当厳重に取締をされは遠からす殊に又今日迄の處我領事館方面の進出は軍部方面より一日遅れたる為、自然、軍兵站部或は軍特務部等各方面に於て随時許可又は施設をなさしめたる為、現在は相当障害に遭着し、現に内地親元より捜査願ひ又は本人或は親元よりかかる醜業不承諾による帰郷取計ひ願ひ等殺到の状況なれはかかる現状に鑑み今後内地よりの出航許可には左記条件を具備せしめらること必要なり。

一、外地に於ける酌婦稼業とは内地に於ける娼妓稼業なること本人竝に親権者に於て承知のこと

二、現在に於ては芸妓稼業亦娼妓稼業と大差なく然らされは前借返還にも困難なること多きこと

三、親権者の醜業婦稼業の承諾書を携帯し居ること(承諾書の印は印鑑證明書添付のこと)

四、雇用契約の契約条件は醜業婦其の者の為不利益ならさる様十二分に完備し居ること

五、花柳病又は其の他に於ても特に健康たること

六、上海、南京等各地とも事変前の此の種営業者以外に抱へらるる場合は営業所を転々移動することあるへきこと承諾のこと

七、収入は内地の一般より多少とも宜しき様なるも衣類化粧品等身廻品は内地よりもいちじるしく高価にして2倍3倍の価格珍しからす、収入評価のみにては誤算多きこと

八、今後、現在の如き好景気は永続性に乏しきこと

出典; アジア歴史資料センター(JACAR)Ref.B06050090800(社会問題諮問委員会関係一件 第二巻(B504)(外務省外交史料館)126ページ)