泌尿器科医・木村明の日記


症状スコアの開発


[木村泌尿器皮膚科公式ブログ](2012年秋)

前立腺肥大症治療薬の主流は、ハルナール以降、
前立腺を縮小させるものから、
前立腺の平滑筋を弛緩させるもの(フリバス・ユリーフ)となりました。
前立腺超音波検査のプロはこの分野では不要となり、
前立腺平滑筋のアドレナリン受容体の研究者が、この分野の主役となりました。
もうひとつ必要とされた研究分野が、症状をスコア化すること。
薬の投与前後で、前立腺の体積を計測するのではなく、
症状がどれくらい良くなったか、を客観的に評価できるスケールの開発です。
アメリカ泌尿器科学会が作ったAUA症状スコアが、
IPSS(国際前立腺症状スコア)となり、
世界中で使用されるようになったわけですが、そのために、
アメリカ・ヨーロッパ・アジアの泌尿器科医が集う会議が何度か開かれたようです。
問診票を作るのは簡単なことだ、と思われるでしょうが、
重複した質問をなくす、
患者を悩ませている症状を落とさない、
その病気だけに特徴的な症状を取り込む、
という、努力だけでなく、
各国の言葉に翻訳した時、ニュアンスが変わらないか、
なんてことも必要になります。

「排尿開始時にいきむ必要がありましたか」を、
「排尿時にいきむ必要がありましたか」
と、訳すのでは意味が変わるんです。

こういう努力でできた国際標準の症状スコア。
国際標準の症状スコアでまとめられた治療成績は、同じ薬が他国で認可されるのに役立つわけです。

そしてその国際会議の議事録は、治験のデータをまとめた論文で必ず引用されますから、
問診票を集計するだけの作業でも、インパクトファクターの高い論文になるんです。

以上、同世代のドクターが国際会議でヨーロッパに出張して活躍しているのをFacebookで見ながら感じた、
ちょっと屈折した、ひがみいっぱいの、ハルナールで失業したあざみ野棒屋ブログでした。
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