| 【 山小屋での暮らし 】
 
 
  
 スロヴェニアの従姉から一枚の写真が届きました。
 野の花をつんでこしらえた可愛いブーケの写真です。
 背景には緑の山肌と、そこに立つかわいい山小屋たち。
 その写真は、彼女が夏の間過ごしている山小屋で撮った写真でした。
 彼女の山小屋は、かつて山で働く人たちが暮らしていた小屋。"アルプスの少女ハイジ"のおじいさんのように、
 夏の間は山小屋に暮らして放牧等の山の仕事をし、
 冬になると町に下りて来る、という生活をしていた人が
 かつてはスロヴェニアにもたくさん居たのです。
 彼等はプランシャルと呼ばれ、けわしい山の斜面に質素な小屋を立てて、春から夏まで山で暮らし、放牧など山の仕事をしていました。
 木造の小屋は台所とベッドがあるだけのシンプルなものでしたが、
 その中でも暮らしを楽しもうと、紙をレースの形に切って窓にはったり、
 ポスターで壁をかざったりしていたようです。
 小屋の屋根はもみの木の皮で葺いてあり、
 雪がたくさん降っても小屋がつぶれないように、傾斜のきつい三角屋根。
 日本の雪国に残る合掌作りの民家を思い出すような姿です。
 小屋は、何軒かずつ寄り添うように建っていて、
 人々が厳しい山の暮らしの中で協力し合っていた事が伺えます。
 今では、昔のように山で働く人も減り、山小屋も空き家が増えました。でも、そこで小屋を取り壊して新しいレジャー施設を建てたりしないのが、スロヴェニア人。
 山好きの人達が、夏の間に過ごす別荘として、小屋をそのまま利用するようになりました。
 夏中そこで過ごす人もいれば、週末だけ滞在しに行く人もいます。
 別荘と言っても、ぜいたくなものや、便利な設備は何もありません。
 昔の人が建てた質素な山小屋に滞在し、山の空気を、山の時間を、
 心と体でしっかりと味わうのです。
 彼女の写真を眺めていると、ゆっくりと山を歩き、花を摘み、小屋に帰って窓辺に花を飾ってお茶を飲む・・・
 そんな夏山での毎日が伝わってくるようです。
 何もない山小屋で、何もしないで過ごす山の生活が、
 限りなくぜいたくなものに思えます。
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