2017年アメリカ皆既日食顛末記

2009年の初めての皆既日食は強烈な記憶を残した。上海郊外の某町の観測場所では大雨の中、皆既の瞬間だけまさに「奇跡」が起こったのだから。そう、この時は母も一緒。(2009年の記録はこちらです)
あれからもう8年。2012年豪州での皆既ツアーは迷った末に断念。という訳で、今回の皆既はまさに虎視眈々と計画を練ってきたもの。

皆既日食は、確かにこの地球上にほぼ年に1度起こる。が、その地が誰でも行ける場所とは限らない。南極大陸だったり未開の地だったり、さらには季節が真冬だったり。
現実問題として、個人でなくとも行ける条件が揃うのは、実に数年に1度。その上、晴天を期待するとなると、それは途方もない確率かもしれない。

今回は、アメリカで、しかも夏休み中に起こる。これに行かずしていつ行くのか!
しかしツアーだと、弾丸でも40万、観光付きで5,6日のコースでは軽く5〜60万円。ならば今回は個人で行くぞ、と具体的な検討を始めたのが2年前。 この時点でネット上には既に十分な資料が揃っていた。継続時間が2分±30秒。概ね西海岸は晴天率が高いが継続時間が短く、東海岸は晴天率が低いが継続時間が長い。
そこで当初から晴天率に掛けて西側と決めていた。この時点で私のベスト地点はオレゴン州マドラス。

しかし個人で宿のネット予約が可能な1年前になるのを待っていたら、時すでに遅し。ツアー会社に早々抑えられ、大慌てで次善の策を練る羽目に。また、調べるうちに、ネット上の大きなサイトで、観測地ベスト10の第1位がマドラスになっていたのだった。う〜む。

観測地選びには様々な条件がある。アクセス、治安、宿はもちろん、周囲の環境(視界が開けていること、トイレが使えること、周囲に照明が無いこと(皆既で真っ暗になったとき煌々と灯りが付いたらアウト)、三脚を立てるスペースが確保できるか)等。これには経験値が必要だ。
しかし、何と便利な世の中になったことだろう。今では世界中ほぼどこであっても、Googleのストリートビューで実際の風景を見られるのだから。

諸条件を考えて私が次に選んだ場所はアイダホ州のWeiser。継続時間はほぼ2分。それでも出遅れて、既に予約サイトの空室はない。某民宿のWaiting Listに載せてもらいキャンセルの出る僥倖を待ちつつ、 空室が無くてもそこの敷地に車を停め、そこで見ても良いという許可を貰っておく。
そして、車で30分の距離にある町でやっと最後の1部屋を確保。万一の場合でも、そこで90秒は観測できる。

さあ、そこから逆算してレンタカーと飛行機の予約。前々日にアメリカ入りし、前日に宿泊地入り。最終確認を含め、前日の下見は必須。あとは、日食後の観光を考えて、シアトルへの移動・滞在を決めた。
格安航空券など直前でも出るだろうが、今回は万全を期して通常便を前年11月にしっかり予約。ここまでで、まずは一段落。

さて、年も明けて春先になり、再度チェックを始めると、案の定アメリカ国内でも日食が相当の話題になり始め、細い皆既日食帯に大変な数の人が押し寄せる予測から、観測に適した場所では地域の情報や対策が具体的になっていた。
そして、Weiserから数キロ離れた場所ながら、狩猟地のロッジが観測場所と食事の提供を一人25ドルで行っていることを知り、早速予約。ここなら何の心配もない。おお、これで準備万端!

(注:実際には、小さな町の収容人数を大幅に超えるため、WeiserでもDry Camp地が沢山開設されてた。これは 通常のキャンピングカー向けの、電気や水道の整った場所ではなく、普通の広場などに場所だけ提供するもの。 テントや車、食料や水は自前で調達せよということらしい。他の観測地もテントならかなり直前でも空きがあったようだ。)

我々は日食後、シアトルに移動する計画のため、当日夜の便を予約済み。皆既が正午前、全部終わるのが午後2時前。空港は、高速道路で1時間ほど。出発時間は午後8時。それまでに戻って、レンタカーも返却しなければならない。
充分な時間を見込んだつもりが、日食が迫るにつれ、全米で高速道路の大渋滞予想が。
登録しておいたWeiserの当局からも、当日B空港方面から来る予定の人は早朝2時から4時までに現地を出発するようにというメールが届く。そうやらお盆やGW並みの渋滞になるらしい。

田舎の1本道、下に降りればカーナビもなく無事に空港まで辿りつける保証はない。飛行機に乗れなければ翌日のハイキングツアーにも参加できなくなってしまう。
結局、Weiserへの当日の移動は断念、元々予約した宿で見ることにする。まあ、90秒見られるし、Weiserより空いているだろうから、案外狙い目かもしれない。

今度はこの町のHPから情報収集。街中の某公園を第一候補に考えておく。また一時的な過剰の利用でネットが繋がらないとの予測もあり、念のため空港までの抜け道も含めて、道路地図をプリントしておく。(手ごろな地図は日本での調達が困難で、また実は現地のものも、縮尺が合わず、買ったけれどあまり役に立たない。)

8月19日。出発の日がやってきた。
成田では、アメリカのテロ対策のため、United Airlineの搭乗手続きには大行列が。職員にキオスクでの発券を勧められるが、何と宿泊地の住所・電話まで記入させられ、時間がかかることかかること!
それに、乗り継ぎのサンフランシスコでも入国手続きに大行列。指紋や光彩確認もあるし、30分以上は並んだだろう。さらに、その後国内線でも再度チェックが待っている。

ところが、一部の(危険度の低そうな?)人にはチケットに「TSA PRE(CHECK)」の文字が入っている。これがあれば、ボディーチェックの長蛇の列を横目に専用レーンからスイスイと通過できる。我々もその恩恵にあずかり、国内線には余裕で乗り換え完了。

さて、十分すぎる余裕をもってB空港に到着。宿の迎えを待つが、電話したのに全然来ない!(電話自体も壊れていて、結局航空会社の親切なお姉さんに電話を借りる羽目に。)
諦めてタクシー乗り場に向かって歩き出したとき、3度目に戻ってきた他のホテルの送迎バンの運転手が、本来は寄らないが乗せてあげる、という。ずっと座っている東洋人のオバサンたちを不憫に思ったのだろう。勿論、有り難く送ってもらい、チップを渡して無事ホテルに到着。

安宿ながら、隣にドライブインがあり、夕食はビーフとアイダホポテトを注文。シェアすると言ったら、見たこともない巨大なジャガイモが二つ割りでお皿に載っていた。おお、アイダホポテトね!
でも、最初から二皿に分けて持ってきてくれたのは親切だった。

そして、翌朝空港に戻ってハーツで予約の車に乗り込む。いざ出発、のはずが実は動き出すまでに30分。エンジンがかからないのだ。理由は、私の足が短かったから(笑)。
座ったとたん、ペダルが遠すぎて足が充分届かない。エンジンがかからないから電動の座席移動も利用できない。マニュアルを引っ張り出してきてあれこれ読む。ふむふむブレーキを踏みながらボタンを押して始動ね、とトライするも全然。
結局スタッフを呼びに戻ると、踏み込み不十分だったためと判明。あ〜これだからオバサンは、と思っただろうな・・・。

空港からはすぐに高速道路。助手席の妹はもう恐怖の表情。「お姉ちゃん、安全運転で頼むよ〜!」
右折は小回り、左折は大回り、と声に出しながらも高速に合流後は速度だけ気を付ければよい。マイル表示なのでちょっと感覚にズレがあるものの、まあ割にすぐに慣れる。
ただし、周囲は飛ばしているし、随時合流があるので車線変更は必須。その上、あちこちにあるスリップ痕とバーストしたタイヤの破片が無残な姿をさらしているのには驚かされる。一体ここは中国?!(もっとも、かの国では更にあちこちに事故車の残骸まであったけど。)

多分もう来ることのないアイダホの田舎。ここでポテトつくっているのかなあ・・・。

どこまでも広がる道路と平原

時折電光掲示板には「日食の日の渋滞注意」の文字。
順調に走って、何とかインターを降りる。予習十分のはずが、何だか勝手が違う。とりあえず、住宅街に入って一旦停車。だが通りの名前には見覚えが。落ち着いてスマホのスクリーンショットで確認。 そして無事に宿を発見。まだ昼前なのでスーパーで買い物し、太陽高度や方向を確認後、ピザハットに入って昼食。
中サイズ1枚を食べきれず、半分お持ち帰り。
さあ、これで宿に入れば翌日は日食!念のため、観測予定地を確認し、さらに街中で日食Tシャツをゲット。市場も覗いて交流も。

下見した観測地に適した公園町はお祭り騒ぎ

チェックインして、夜は残りのピザを食べる。まあシアトルに行けば美味しいものも食べられるだろう。テレビのニュースも日食の話題で持ち切り。
さあ、これで本当に明日皆既が見られるんだな〜。天気予想もバッチリ。何と言っても真夏なのに湿度35%だし。継続時間の長いフロリダの方は天気が悪く見えそうにないらしい。やはり晴天率重視で正解だった。

いよいよ21日の夜が明ける。早朝から宿が騒がしい。もっと中心へ向かって出発する人、そして同じようにここで観測する人。夜明け前に外を見ると、各部屋の前の電気が明るい。おっとこれはマズイぞ。やはり公園に移動か。
しかし、宿の裏は開けていて、照明もなさそうなので、ここにカメラ3台を設置。1台はビデオとして、あとはミラーレスとコンデジ。うまく撮れるとは思っていないので、単なる記録のつもり。時間も短いし、何より肉眼で見ることが一番。

(カメラ3台設置。加熱防止に傘と帽子。)

日食が初めての妹は何だか期待度が低い。かけ始めても部屋内でテレビを見たり。

さて2/3以上欠けてくるといろいろ面白い写真が撮れる。木漏れ日が三日月になって写るのは毎回面白い。今回は、スマホの写真でも同様の現象が起き、1枚の画像に三日月の太陽像と一見変わらぬ太陽が写っていたのには驚く。
→upスマホ画面に現れた白い「三日月」(=欠けた太陽)

スマホの日食アプリで確認している秒読みも、いよいよ数分前になってくる。空気がひんやりし始め、あたりがはっきり暗くなり始める。空は雲1つ無い快晴。
通りの向こうの街灯が点灯し始め、どんどん人々が外へ出てくる。
ますます暗くなる。もう夕方の気分。鳥がねぐらに帰るのか、声を上げて飛び始める。
「わー、随分欠けたね〜!」

細い細い三日月がとうとう消える!最初の「ダイアモンドリング」、そしてすぐに見事なコロナがまっ黒な太陽を囲み、何と肉眼でも大きな赤いプロミネンス!(え、本当にプロミネンスって肉眼で見えるの!?)

ミラーレスではこの程度

わあ、皆既だ!と思いつつも、あれれ、もっと真っ暗になるんじゃないの?!と訝るうちにパア〜っと再度ダイアモンドリングに。本当にダイヤだ!
あ〜!終わっちゃう〜!!


かくして2度目の皆既日食は雲1つ無い快晴の空に終わった。周囲からは歓声が上がり続ける。辺りはまだ薄暗い。
しかし太陽は一見元の姿に。フィルターを通せば、まだ消え入りそうなほど細い三日月なのに。

前回は土砂降りの雨の合間の6分間。目の前の自分の指先も見えないほどの漆黒の闇の中に消えては浮かぶ、不思議な黒い太陽。
今回は、まるで図鑑に載っているような、見事なコロナとプロミネンスが黄昏時に燦然と輝く。そして強く印象的な「ダイアモンドの指輪」!
ああ、いろいろあったけれど、とにかく頑張ってここまで来て本当によかった。

どうやら、継続時間が長い=月の影が大きい=コロナが少し隠される(前回)のに対し、今回は「継続時間が短い=月の影が小さい=コロナがよく見える」ということらしい。継続時間が全てではないことを知る。

でも感動に浸っている暇はない。大渋滞を回避するため、皆既が終わるや否や車に荷物を積み、日食が終わるかなり前に町を出る。
インターまですぐなのに、もう入口に車列が。また、高速に乗ると、はっきりと車が多い。え、みんなもそんなに早く出たの?

車間距離を気にしつつ、とりあえずは流れていく。途中何度か止まりそうになりながらも、何とか高速を降りる必要もなく空港に到着。あ〜間に合った。

その後どんな渋滞が起きたか知る由もないが、順調すぎて、出発までに5時間もある。レンタカーも返したので、仕方なく空国内で時間をつぶす。まあ、渋滞した道路でやきもきして待つよりずっといい。
空港の無料Wifiを使いながら時間をつぶし、アラスカ航空でシアトルへ。今度は無事にお迎えの車に乗り、空港近くのホテルにチェックイン。お疲れ様でした〜!

もしやと便を変えられるか聞くと、普段は出来るが今日は全て満席だから無理という。シアトル行きのアラスカ航空は、何と預ける荷物1個につき25ドル。私の荷物は無理やりザックに詰めて、持ち込めばいいと助言され、急遽持ち込みとする。
さて、皆既日食を個人で見に行くのは楽ではないが、やる気と十分な下準備があれば可能。次はあなたもどうですか?!

他の画像はブログにアップしました。

また、シアトル観光編はこちら

レーニア山
オリンピック国立公園もどうぞ。



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