イナミンカとディッグ・ツリーを目指して
--バーク探検隊悲劇の地へ--



Strzelecki Track

早朝にキャンプ場を後にしトラックを下る。小一時間でリンドハースト Lyndhurstに到着、ここでストルズレッキー・トラック Strzelecki Trackが分岐する。進路を北東に変え、約500キロ先のイナミンカまで一気に走る。途中は勿論未舗装、そしてイナミンカまで500キロはノーサービス。これまでのノーサービス記録を遙かに超える未体験の領域。ワシは果 ての果てに足を踏み入れようとしている。
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イナミンカ手前のムーンバ Moombaで天然ガス田や油田の開発が行われている。しかし、この街は旅行者には閉鎖されており、食料や燃料を補給することはできない。写 真はその注意を促す看板。ずーっと思っていたが、このムーンバという街、感じの悪い街である。給油くらいさせてくれてもよかろうとワシは思う。
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ロードハウスで燃料を満タンに。おばさんにイナミンカまで行くことを告げると、「トラックが時々通 るから、何かあったら助けてもらいなさい」と言われた。どの位通るのかと聞くと、答えは「few」。そのfewなトラックが出発前にもう来てしまった。これから先、何台と会えるのだろうか?
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ストルズレッキー・トラックの入り口にもロードコンディションを告げる看板があった。マウント・ホープレス(ホープレス山)なんて文字を見ると、自分が「恐るべき空白」の世界に入ろうとしていることを実感し、感激と興奮が交錯する。
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この看板によるとイナミンカまで472キロ。ゆっくり行って7時間ほどの行程だ。燃料は180リットル、水と食料も十分に積んだ。唯一、そして最大怖いのはタイヤのバースト。10分も外にいれば溶けてしまいそうな高温の中、ランクルの大きなタイヤを一人で交換するのは至難の業、いや不可能かもしれない。いよいよ最終ステージ、運を祈りつつ ストルズレッキー・トラックへとハンドルを切った。
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ストルズレッキー・トラックではこのような景色がどこまでも続く。オーストラリアの見慣れた赤土ではなく、ご覧の通 り路面は白い。特徴と言えばその程度のもので、ムーンバの近くでガス田が目立つようになるまでは、極めて単調な風景が続く。居眠りとバーストに気を付けよう。
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リンドハーストから200キロほど走っただろうか、クーパーズ・クリーク流域に入ったことを知らせる看板が立っていた。「basin」と「catchment」は辞書を引くとどちらも「流域」という意味になるが、この場合の「basin」は「水ばち」、「池」という意味に近いのかもしれない。いずれにせよ、いよいよワシは伝説の舞台に足を踏み入れた。
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ストルズレッキー・トラックのクーパーズ・クリーク渡河部分。周囲に樹木が増え、これまでの無愛想な風景が一変した。道路の左側に水深を示すメジャーが立っているが、ここまで水が来ることは頻繁に起きるのだろうか?
渡河地点で車を降りて周囲を観察したが水の気配は一切ない。デポーLXVに取り残されたバーク達は進路を求めてクリークの分流を辿って行くが、何度繰り返してもそのどれもが最後は砂の中に消えて干上がってしまった。今ワシの前に広がっているのは彼らを何度も失望させた光景なのかもしれない。
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ムーンバ Moombaの街(施設)は忽然と荒野に現れた。時々オーストラリアはこういう姿を見せる。思っていたよりも遙かに大きな規模の採掘施設だ。「奥地にこんな巨大な施設があったのか!」と旅人は戸惑う。ここまで来れば目指すイナミンカまで約80キロ、行程は最終ステージに入る。
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ムーンバの施設を一望できる場所に簡易な展望所が設けられている。上の写 真もそこから撮影したもの。施設はサントス Santosと言う会社が所有しており、天然ガスや原油を採掘している。驚いたのは、右の写 真にあるように、ブリスベン、シドニー、アデレードまで延々とパイプラインが建設されていることである。さすが資源立国オーストラリア!
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ムーンバからはすれ違うロードトレインの数も増えて(と言っても10台に満たないが)、ワシの緊張感も緩んだ。しかし、進行方向の雲行きが怪しい。砂嵐だ!(現地ではダスト・ストームと呼ぶ)そう簡単にイナミンカには行かせてもらえないようだ。
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ストームの足は思いの外速い。気が付けば、もう目の前に来ている。これは巻き込まれる直前のカット。アリススプリングスで一度経験したが、このストームを前に人間は何もすることができない。車の中で通 り過ぎるのをじっと待つだけだ。
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ストームに飲み込まれると、周囲は薄暗くなり、強風が渦巻く。視界はご覧の通 り数メートル。万が一を考えて、車を路肩に寄せ、ヘッドライトを点灯、ハザードを点滅させた。どのくらい経っただろう?ストームは去り、再び青空がのぞいた。ワシにとってのラッキーは雨が降らなかったこと。路面 状態はそのまま、ラストスパートに支障はない。
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ダスト・ストームに捲かれ、トリップメーターを見落としていたため、イネミンカへの残りキロ程が分からなくなった。日没が近づくも、人里の気配は現れない。「道を間違えたか?」という焦りがよぎる頃、高台からイナミンカの集落を見渡せた。十年来の夢が叶った。迂闊にも目頭が熱くなった。カーステレオから『Can You Celebrate』が流れていた。
イナミンカの人口は約15人。ホントに小さな集落だ。街の中心は1972年に開業した、イナミンカ・ホテルとゼネラルストア。建物の前は大きなオープンスペースとなっており、ロードトレインでも乗り付けることができる。イナミンカで買い物ができるのはこの二件だけである。キャラバンパークも無いのには驚いた。
原油の高騰に悩まされた今回の旅。中でも最奥のイナミンカは、やはりガソリン代も最高だった。遙々とこの地までガソリンを運んでくるのだから、それもいたしかたあるまい。
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2007.03.08 掲載
2007.04.30 コンテンツ追加
2007.06.03 コンテンツ追加
2007.11.09 コンテンツ追加