ブラジルヤシとヤタイヤシButia capitata と Butia yatay

ブラジルヤシ

ブラジルヤシ (大阪府立大学:1999.8.7)

ヤシ科* ヤタイヤシ属 【*APGⅢ:ヤシ科】

Butia:ポルトガル語mbotia(曲がり歯のある:葉柄の鋸歯状のトゲにちなむ)
capitata:頭状の  yatay::ヤタイヤシの現地名

大阪に住む私たちに最も身近なヤシ科植物は間違いなくシュロや小形の観音竹などですが、これらはあまりに身近すぎてヤシという気がしないかも知れません。
しかし、すこし大きな公園や古い学校、植物園などには、必ずといっていいほど、太い幹に長さ2~3mもある大きな羽状複葉をソテツのように四方に広げ、多くの場合、幹の上部にタマシダなどを密生させているヤシが植えられています。これはカナリーヤシで、その属名を援用してフェニックスPhoenixとも呼ばれています。

ところが、大きさや樹形がカナリーヤシとよく似ているものの、葉の色が靑緑色~灰緑色で粉白色をおび、「白っぽい」という印象を与えるヤシに出会うことがあります。このヤシには、四方に広がる大きな羽状複葉が下側に強く湾曲しているという特徴もあります。これらのヤシはPhoenix(ナツメヤシ属)ではなく、Butia属(ヤタイヤシ属)に分類されるブラジルヤシやヤタイヤシで、どちらもかなりの耐寒性があり、大阪の野外でも生育できます(テーマ写真:1999.8.7 大阪府立大学)

幹に長く付着しているブラジルヤシの葉柄。葉柄の付け根には長い針のようなトゲはない Butia属のヤシは全部で20種ほどあるとされ、すべて南米ブラジルからアルゼンチンにかけて分布しています。大阪で見るButiaと上記Phoenixとを区別する一番の決め手は、羽状複葉につく小葉が、Phoenixでは葉柄の付け根近くで緑色の長い針のようになっているのに対し、Butiaでは太く短いトゲになっていることです。また、Butia では、葉柄が長期間茎に付着していることも特徴のひとつとされています(右写真: 2019.3.2 大阪市北区本庄1(幹に長く付着しているブラジルヤシの葉柄。葉柄の付け根には長い針のようなトゲはない)

じつはブラジルヤシとヤタイヤシは南米では分布域に重複がないなど区別が容易なようですが、形態上の特徴がよく似ていて、どの文献を読んでも両者の違いが明確ではありません。Wikipediaなどではブラジルヤシは幹が直立し、ヤタイヤシはしばしば傾斜して成長するなどとありますが、「Butia属植物は交雑による変異が大きく、日本では基本種は少ない」とする文献もあって、厳密に区別しようとしてもあまり意味がないのかも知れません。

ブラジルヤシの果実(大阪府立大学:1999.8.19) ブラジルヤシもヤタイヤシも果実は食用になり、どちらもJelly Palmと呼ばれて果樹として栽培される品種もあります。大阪では8月頃黄色く熟し、とてもいい匂いのする果実を地面に落とします。拾って食べてみますとパイナップルのような甘酸っぱい果汁が口に広がり美味しいのですが、果肉そのものは繊維が多くて食べられませんでした(右写真:ブラジルヤシの果実:大阪府立大学:1999.8.19。周辺に果肉の取れた種子が散乱している)

ブラジルヤシの種小名について
この記事では、ブラジルヤシの種小名を、各種図鑑類の記載にしたがって capitata としましたが、Wikipedia など多くの Web 資料では、従来 Butia capitata として栽培されてきたものはほとんどすべて Butia odorata とされるべきもので、本当の Butia capitata は、ブラジルの限られた地域に分布するあまり耐寒性のない、もっとサイズの小さい植物であるなどとしています。