最近、テレビの音がよく聞こえないとか、家族の話がよく分からないとか、講演会や寄り合いに行っても声は聞こえるけど話の内容がよく分からない、などという思いをされた方やご家族のなかにそのような方がいる方々は少なくないと思います。

古くは人生五十年、などといわれていましたが、現在の日本の平均寿命は82歳(2005年)で世界一となり、人生八十年あるいは九十年という時代になりました。
人間は生まれたときから、いや最近の研究では生まれる前から(母親のお腹にいるときから)音を聞いていることが明らかになっていますから、大変長い時間、耳は働いてるわけです。
また、皆様が寝ている間にも、意識はしていませんが絶え間なく音は耳に入ってきますので24時間365日、80年間音を聞いていることになります。

さて、ここで人間がどのように音を聞いているかを勉強してみましょう。
‘音’は空気を振動させて耳に届きます。
するとその空気の振動は外耳道を通って、鼓膜に届きます。
鼓膜が振動するとその奥にある、耳小骨(ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨)にその振動が伝わります。
この振動がさらに蝸牛というカタツムリの殻のような形をした器官のなかにあるリンパ液に伝わります。
このリンパ液の中には有毛細胞という細胞があり、リンパ液の振動を感知するとそれを電気信号に変えて聞こえの神経に伝えています。
この信号が脳までつたわり、音として感じるのです。

人生八十年になったわけですが、残念ながら聞こえに関する有毛細胞や神経は、五十年をこえると徐々に働きが落ちてきたり、失われたりします。
現在、失った有毛細胞や聞こえの神経を再生させようと世界中の研究者が日夜取り組んでいますが、実用化されるまではまだまだ遠い道のりです。
また、聞こえを感じる細胞や神経が衰えるのでこれを手術やお薬で回復させるという方法も一部の例外を除いて期待できません。

そこで登場するのが補聴器です。
従来、補聴器はだれでも自由に売ることができましたので時計屋さん、眼鏡屋さん、電気屋さん、通信販売を含む訪問販売、そして補聴器専門店などさまざまな場所で売られてきました。
その中にはしっかりとした販売店も多くあったのですが、ひたすら金儲けだけを追及するような商売も見受けられ、このため補聴器は高いばかりで雑音はよく聞こえるようになったけど、人の声はちっとも聞こえない、とか補聴器をすると聞こえがもっと悪くなる、などという話があふれるようになっていました。

そこで聞こえを医学、医療から担っている日本耳鼻咽喉科学会としても放置するわけにも行かず、平成17年の4月から施行された改正薬事法での、補聴器は管理医療機器である、という結果をふまえて以下のような基本方針を出しました。

補聴器販売のあり方に関する(社)日本耳鼻咽喉科学会の基本方針

「わが国における補聴器販売の実態については、難聴者に不利益となる事例が多く発生しており、早急に改善を図る必要がある。日本耳鼻咽喉科学会は、難聴者がそのコミュニケーション障害に有効な補聴器を適正に選択して使用できるように、以下の基本方針のもとに実態の改善に努めていきたい。

1、補聴器は、難聴によるコミュニケーション障害の補完を目的とする医療機器であり、耳鼻咽喉科医の診断のもと購入されるべきである。

2、補聴器販売に従事する者は、その難聴者に有効かつ適正な補聴器を販売するために、耳鼻咽喉科医の指導を受ける。

3、
各都道府県地方部会では地方部会長、補聴器キーパーソン、福祉医療委員会委員、補聴器相談医等の協力のもと上記事項の実現を目指す。」

当面の具体的事項としては以下の点が上げられた。

  1、補聴器販売製造業者および販売業者にたいして改正薬事法の遵守を指導する。

  2、身体障害者福祉法による補聴器の交付においては、適切な補聴器交付が行われるよう取り計らい、15条指定医がこれを確認する。

  3、耳鼻咽喉科医の指導を受けている販売店、販売業者を支援する。

  4、補聴器および集音器の宣伝においては、薬事法による広告規制の遵守を指導する。

 すこし、難しい話になりましたが、要するに補聴器を購入しようかと思われたかたは、できるだけ耳鼻咽喉科医師の診断をうけていただくことと、耳鼻咽喉科医師の指導をうけている補聴器販売店で購入することが望ましい、ということです。

具体的にどのお店がそれに該当するのかは、補聴器の相談を行っているお近くの耳鼻咽喉科を受診した際にお尋ねいただければ分かるようになっています。

 次に当院でおこなう補聴器相談のながれを示します。

補聴器を試してみようと思った方へ

補聴器はご自分の聞こえに合わせたものを使用しなければ効果がありません。

外来でおこなうこと          説明 ・ 補足

       一般外来診察       耳、鼻、のどなどの診察をします
          耳垢があれば除去します      これだけで聞こえるようになる方もいます
               純音聴力検査・・・・・・ 音の聞こえの検査

     聞こえの程度や生活・仕事・学校などでの困り具合、ご本人やご家族の希望などを総合的に判断します。

     以上の結果で、補聴器を試すことになれば以下の3種類の検査予約をします。

               語音聴力検査・・・・・・ 言葉の聞こえの検査

               補聴器相談  ・・・・・・ 補聴器屋さんが来ます

   とりあえず簡単に調整した補聴器を借りて、日常生活の中で2週間程度試してみます。

              補聴器適合検査・・・・・・ 補聴器をつけての聞こえの検査

        この後も補聴器がご自分の聞こえに合うまで調整・適合をしていきます。

その結果、補聴器のきこえに納得し、補聴器を購入したら、

購入後    補聴器適合検査

3ヵ月後   補聴器適合検査

6ヵ月後   補聴器適合検査

1年後    補聴器適合検査

              もちろん、この間にも必要に応じて調整やクリーニングなどをおこないます。

 以上のように、補聴器を購入しようと思ってから実際に購入するまでは早くても2週間、あるいは数週間を要する場合があります。
そんなに待てない!欲しいとなったらすぐに欲しい!と思われる方もいらっしゃると思いますが、あまりあわてるとそこに付け込まれて何十万もの補聴器を買わされて、しかも使い物にならない、ということになりかねません。
購入後はできればずっと使っていただきたいので、最初はあわてずにじっくり選んでいただきたいと思います。

 具体的な補聴器の選定についてはいずれ機会があればご紹介させていただきたいと思います。
最後に、決して高い補聴器がよいわけではありません。
自分に合った補聴器が一番よい、ということを忘れないでいただければ幸いです。

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