2008年1月

〜チャンスは準備された心に降り立つ〜




明けましておめでとうございます。
皆様には健やかに新年をお迎えのこととお喜び申し上げます。

さて、昨年暮れ、ちょっとすてきな言葉に出会いました。“Chance favors the prepared minds.(チャンスは準備された心に降り立つ。)”という言葉です。有名な細菌学者であるパスツールの言葉だそうですから、ご存じ方もあるのではないでしょうか。元々の意味としては、「人類の進歩に結びつくような重要な発明や発見は、偶然や、幸運や、まして夢の中からもたらされるわけではなく、如何に十分で周到な準備が行われていたかに因る」ということです。(以前も、同じようなことを書きましたが、自分自身が「努力家」とはほど遠い生活をしているだけに、一層こういう言葉は身にしみます。)
しかしながら、歴史に残る「発明」や「発見」にとどまらず、おそらくほとんど全ての「成果」は、つまるところ準備や努力の度合いに強く相関することは申し上げるまでもないことだと思います。(「相関」はしても、「比例」はしないところが運命の神様の気まぐれなところでしょうか。)

この言葉を見つけたのは、「生物と無生物の間」(福岡伸一著)という本です。新書版の小さな本ですが、科学読み物にしては珍しくベストセラーとなったので、私も手にとってみました。なるほど、ベストセラーになるだけのことはある本です。これを読むと、(ありきたりな言葉ですが、)まさに「生命の神秘」を実感させてくれます。また、発明・発見は誰の手柄かというもう一つのストーリーも絡んで、実に読み応えのある本になっています。是非皆さんも機会があれば、ご一読下さい。

このような名言に巡り会うために本を読んでいるわけではありませんが、それでも、本を読んでいて心に残る言葉に出会うととても得をした気がします。
もちろん、本を読むというのは、純粋に楽しみのためです。しかし、読書は、人生を豊かにし、人間の厚みや知恵を増すのに大きな力を発揮しますし、また、私たちの仕事に最も重要な「読み書き」の能力を高めるという副次効果も期待できます。「活字離れ」が言われる昨今ですが、是非、今年は皆さんも大いに本に親しんでください。

その一助になればということで、恒例ですが、私が去年読んでおもしろかった本を紹介します。既に2回書いていますので、重複を避けて、今までご紹介していない著者の本について書きます。

最初が、「映画篇」という本です。著者の金城一紀は既に沢山のベストセラーを送り出しており、また、その中から「GO」などが映画化されましたのでご存じ方も多いと思います。これまでも全て大変おもしろい本でしたが、この「映画」は、いわばそれらの集大成ともいえるものです。
次が、上橋菜穂子の「獣の奏者」という本です。異世界のファンタジーで2巻に亘る長編です。上橋菜穂子は、アニメ化もされた「使い人」シリーズなど子供向きの本の作者として定評がありますが、どの作品も視線は高く、むしろ大人が読むにふさわしい本です。(宮崎アニメの、例えば「風の谷のナウシカ」を彷彿させます。)
三作目が、宮下奈都という人の「スコーレNo.4」という本です。これがこの人のデビュー作とのことですが、人生をまじめに語って、なおかつ、楽しくてほろりとさせられる名作です。
それ以外にも、「正義」について少し愉快に考えた小説「正義のミカタ」(本多孝好)、読み始めたら止まらない型破りなエッセー「ねにもつタイプ」(岸本佐知子)、評伝の力作「星新一 一〇〇一話をつくった人」(最相葉月)といった本が印象に残りました。

今年も、皆さんと共に、周到な準備と努力を重ね、豊かな成果に結びつける年としたいと思います。


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