私は、映画のスタッフ・ロール(注1)を見るのがとても好きです。中でも、アメリカ映画は、関わったスタッフ全員の名前がクレジットされますので、特に好きです。
そこには、出演者、監督、演出、音響、衣装などの主要スタッフから、画面にほんの一瞬だけ登場する小道具の製作者に至るまで、実にたくさんの名前が登場し、その一人一人のメンバーのこの映画作りにかけた苦労や情熱が目に浮かんでくるようです。映画館で、今見た映画の余韻に浸りながらこれを見ていると、まるでその映画作りに立ち会っていたような気さえしてきます。また、大切な役割を担いながらも完成を見ずに亡くなった人に対して「この映画を捧げる」というクレジットが出てきたりすると、思わずジーンときたりもします。
記憶に残るスタッフ・ロールはいくつもありますが、特に味わい深いのは「JFK」という映画でした。ご承知の通り、これは、「7月4日に生まれて」などで有名なオリバー・ストーン監督がケネディ大統領暗殺事件を取り上げた映画ですが、このスタッフ・ロールに、『Naijo
No Ko Elizabeth Stone』という1行が登場します。(注2)これを見たとき、これが「内助の功」という日本語であり、そこにクレジットされているのは監督の奥さんの名前らしいと気がつくのに少し時間を要しました。日本でもほとんど使われなくなったこの言葉をアメリカ映画の中に見つけたのには大変驚きましたが、映画作りを支えた監督夫人の温かい心遣いと、それに感謝しつつもなかなか口に出してはいいにくい監督の様子が目に見えるようで、とてもほほえましい気がしたのを今でも覚えています。
このように、「スタッフ・ロール」は、私に、映画が一部のスターや監督の力によってのみでできあがるものではないのだということをあらためて教えてくれます。それは、何百人ものたくさんの人々が、それぞれの役割を果たすことによってやっと完成するものであり、また、誰か一人でも手を抜けば、必ず完成度に影響する大変怖いものでもあるということも痛切に感じさせてくれます。
そして、これは、ソフトウェア開発にとてもよく似ていると思います。
Adobe社のPhotoshopのメニューバーから「ヘルプ」→「Photoshopについて」とたどっていくと表示されるウィンドウ(バージョン情報)にマウスをポイントすると、開発に関わったメンバーの名前が、あたかも映画のスタッフ・ロールのようにスクロールします。全部で5分近くかかる大変長いリストで、日本人の名前と思われるものもたくさんあり、とても全ての人数は数えきれません。主な機能ごとにその開発メンバーの名前が表示されますが、その他にも、マネージメント、品質管理、技術リーダー等々実に多様な役割のメンバーが表示され、Photoshopの開発プロジェクトの大変さが目に浮かぶようです。中には、9階や10階の女神様(Goddess of the Ninth Floor、Goddess of the Tenth Floor)とか、Japanese Type Otaku(注3)というような愉快な、或いは、訳の分からない肩書きの人も居ます。心を打つ物としては、Gone but not forgottenというものもあります。途中で抜けたメンバーの名前でしょうか。
この長い長いスタッフ・ロールを見ていると、開発に携わったメンバー一人一人の強い誇りと心意気がありありと伝わってきます。
私たちも、「これが自分の仕事である」と自信と誇りを持ってクレジットできるようなプロジェクトを産み出し続けていきたいと思います。
注1:映画の終わりに出てくる、出演者等を順番にスクロールして表示する部分です。正式な呼び方がよく分からないのですが、Yahooを「映画 スタッフ ロール」で検索すると約100万件、「映画 エンド クレジット」では80万件超、「映画 エンド ロール」で約40万件なのでここでは「スタッフ・ロール」と書きます。検索結果をいくつか拾い読みしてみると、私と同じようにこれを見るのが好きな方もたくさんおられますが、一方で、長すぎるスタッフ・ロールにやや困惑している方もおられるようです。皆さん方はいかがでしょう。
注2:これに気がついている人は他にもおられるようで、「JFK スタッフ ロール」で検索すると何人かがこのことを書いておられます。(私は気がつきませんでしたが、「7月4日に生まれて」にも同じクレジットがあるそうです。)
注3:この役割の人は日本の人ではないようです。最新バージョンでは、残念ながらこの肩書きは見あたらなくなりました。なお、開発者のクレジットが入ったソフトは、他にも色々あるようです。
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