2006年5月

読書ノスゝメ




ゴールデンウィークを控えているので、いつもと少し様子を変えて、今月は、独断的「読書ノスゝメ」です。

「物語」の本は、その道の大家が選ぶ「XX賞」(小生は余り信用してませんが)であるとか、「本の雑誌」や「このミステリーがすごい」などが選ぶ年間ベストテン、つい先日2006年分が発表になった「本屋大賞」等で(これらは結構信用しています)面白そうなものを見つける手がかりが色々あります。しかし、物語以外の分野では、なかなか面白そうな本を見つけ出す機会がありません。そこで、私が、全くの独断で、比較的最近読んだ本の中から面白かった本をいくつか選んで以下にご紹介します。

まず最初が、『ソフトランディングの科学―ゆっくり、時間を長く』という本です。この本は、地球の環境問題、資源問題を、可能な限り科学的・体系的、かつ、分かりやすくまとめた物です。これを読むと、あらためて、今我々が立たされているポジションの危うさに愕然・慄然となります。また、それに対応するためにどうするべきなのかという点についても、いろいろと示唆に富む提案がされています。このゴールデンウィークに、これからの我々にライフスタイルを考えるのにぴったりの本です。
二つめは、休日に読むのにふさわしい紀行文『レナ川―百夜航4000キロを行く』です。旅行記の類では、椎名誠さんの本が圧倒的に面白いと思いますが、それらは皆さんもよくご存じと思いますので、少し変わった物をご紹介します。この本は、シベリア東部を流れる大河レナ川をさかのぼる旅行記ですが、この流域の大半へは、船以外には交通手段がありません(陸路も空路もない)。それも、ソ連からロシアになったことにより、外貨事情の悪化と氷海上の回船能力劣化のため、次に作られる船は北極海を越えられず、もうここまでは来ないかもしれない(いずれ全ての交通手段が途絶える恐れがある―――勿論人が住んでいる)という、想像を絶する場所です。とにかく、自然の美しさと我々の文化との尺度の違いに圧倒されます。著者伊藤一氏は、極地、辺境、高地に強いらしく、他に『われら北極観測隊』、『スイス的生活術―アルプスの国の味わい方』という本もあります。(何れも面白いです。)
次は、『春の数えかた』。この本は、生物の行動に関わる様々なエピソードを紹介しています。たとえば、カマキリは秋に木の枝に卵を産みますが、その地面からの高さは、次の冬の積雪量を予測して決めているらしいという話等です。本書のタイトルは、生命が春を知る方法について書かれていることからとられたものですが、これらを読むと「生命の仕組み」の驚くべき精妙さを感じることができます。著者の日高敏隆さん元々は動物行動学者(少し前の「月9」の竹内結子さんも動物行動学者でした・・・)ですが、他にも『ネコはどうしてわがままか』、『チョウはなぜ飛ぶか』などたくさんの面白い本を書いています。
これらの本に興味を持たれたら、『ソロモンの指環―動物行動学入門』をお勧めします。これは、ノーベル賞学者コンラート・ローレンツが書いた「歴史的名著」と言われている本です(訳者は日高敏隆)。一度読むと、人間と生き物を見る目が変わること請け合いです。(ローレンツには、『人イヌに会う』という名著もあります。「犬派」の方はこちらをどうぞ。)
次は、ぐっと雰囲気を変えて、俵万智さんの『あなたと読む恋の歌百首』という本はいかがでしょうか。この本に関するコメントはいささか照れくさいのでやめますが、性別年齢を問わず感動していただけるのではないかと思います。歌に関する本であれば、『贈答のうた』(竹西寛子著)、『花のうた紀行』(馬場あき子著)といった本も面白いと思います。たまには、日本語と日本文化の原点に思いを馳せてみて下さい。
最後が、『ムンクを追え!』。これは最近刊行され評判になった本ですから、読まれた方もおられると思いますが、ノルウェーの美術館から盗まれたムンク作のあの「叫び」を取り返すまでのドキュメントです。学生時代にムンクを見て感激した私(あの頃は多感でした)としては、手に汗握るお話しです。本作は、美術品犯罪に関する「アンソロジー」の趣もあり(やや冗長なところもありますが)、普通の市民である我々には驚くような事実ばかりで、ミステリー小説顔負けの話が満載です。

以上、思い切って、ちょっと毛色の変わった本をいくつか選んでみました。忙しい日々を過ごしているからこそ、ときには、日常生活から少し遠くにある場所から、いろいろなことを考えてみる必要があると思います。

※各書名から出版社の当該の本のページにリンクがはってあります。何れもまだ入手可能なようです。(「人イヌに会う」は、出版社の当該書のページが見つからないのでAmazonにリンクを張りました。)
※ムンクの「叫び」は4作品残されており、そのうち2作品が特に有名です。上記の「ムンクを追え!」は、その内の一方が、1994年盗まれた事件を題材にとったもの。2004年には、もう一方が盗難にあい、こちらはまだ未解決です。
→後日注:こちらの方も2006年8月31日に無事発見されたとのニュースが流れました。



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