2006年4月

月世界旅行




「月世界旅行」は、フランスの作家ジュール・ヴェルヌによって書かれた空想科学小説です。ヴェルヌは、そのほかにも「地底探検」、「海底二万マイル」、「八十日間世界一周」、「二年間の休暇(十五少年漂流記)」などでも知られ、H.G.ウェルズと並んで、「空想科学小説(SFというよりこちらの呼び方の方がぴったり来ます)の父」と呼ばれています。それらは、母国フランスは勿論、世界中のたくさんの国の人々に読まれたため、ヴェルヌは、(国連のUNESCOの統計によれば)地球上で最も多く翻訳された小説家なのだそうです。
ご承知の方もあると思いますが、「月世界旅行」は、大きな大砲の弾に人間を乗せて飛ばすといういささか乱暴なやり方で人間を月の世界に送り込んでいます。しかしながら、この物語と、その後、実際に人間を月へ送り込んだ「アポロ計画」とは数々の類似点が指摘されており、ヴェルヌの小説が現実の計画に影響を与えたといわれているくらいです。この小説は明治維新の少し前、1865年に前編に当たる部分が書かれました。1865年といえば、ライト兄弟の初飛行の40年近く前、フォードが自動車を生産する30年以上前にあたります。また、エジソンの電話や電球の発明よりも10年以上前のことです。また、日本は、浦賀に現れた黒船に「太平の眠りを覚まされた」直後です。これを思えば、いかにこれらの物語が「未来」を見ていたかおわかりいただけると思います。
私がこれらの本を読んだのは、小学生の頃で、まさに胸を躍らせて読みふけりました。余り熱心に読んだため、私はいつの間にか自然科学を志したいと考えるようになったほどです。私が読んだ時には、書かれてから既に100年ほどが経っていましたが、まだ人間は月どころか大気圏の外へも行っていない時代でしたから、いつになればこういう時代が来るのだろうかと本当に夢見るような思いで読みました。ですから、本当に人間が月に到達したときは大変に感激しました。(話が少しそれますが、人間が月へ行ってしまった後にこの本を読む子供達は一体どんな感想を持つのでしょうか。もし、この文を読んだ方で、それに該当する方がおられましたら、是非感想をお聞かせ下さい。)

そのジュール・ヴェルヌの言葉に「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる。」というものがあります。月世界旅行を初めとして、彼の物語に書かれたことは、その後大半が実現したのですからこの言葉には大変重みがあります。そして、私はこの言葉が大変好きです。

私は、「『思い』無きところに『道』は無い。」といつも考えています。その言葉の意味するところは、勿論、一つには、「目標達成への強い志がなければ何事も実現しない。」ということです。しかし、「志」だけでは何事も実現はできません。私が申し上げたいもう一つのことは、「実現への道のりが思い描けないようであれば、それを実現することは難しい。」ということです。逆に言えば、「実現への道のりを具体的に思い描くことができることはいつか必ず実現できる。」と私は考えています。

新しい年度が始まりました。それぞれのチーム、そして一人一人が、様々な目標をもたれていると思います。 是非、実現に向けた固い決意と共に、どうすれば、それを実現できるのかの道筋をできる限り具体的に思い描いてください。


弦一郎のエッセイのページに戻る