ちょっと変なタイトルですが、これはNHK衛星第二放送でこの8月から始まった「男はつらいよ」全48作放送のキャッチフレーズです。今、私はこれにはまっています。
ご存じの通り、この寅さんシリーズは、1969年に第1作が封切られ、その後26年間で48作が公開されました。これが始まったときに私は高校3年生でしたから、この映画は、私の青春とともにスタートしたことになります。ところが、実は、私はこの映画を一度もリアルタイムに映画館で見たことはありません。当時は学生運動華やかなりし頃で、「マドンナ」に、不釣り合いな失恋を繰り返すばかりの寅さんを、何となく冷ややかな目線で見ていた記憶が残っています。
それでも、今回あらためてその寅さんシリーズを見ようと思ったのは、一挙に全作を見られるチャンスだということがまず第一でした。さらには、若かりし頃見た日本の風景がたくさん登場することもあり、懐かしさに惹かれたというのが第二の理由でした。そうはいっても、最初のうちは、何となく斜に構えていたのは、昔の思いが抜け切れていなかったからです。ところが、見始めるとおもしろさに思わず引き込まれてしまいました。ここまでに10作見終わった(9月10日現在)わけですが、どうして今までちゃんと見ておかなかったのだろうと大いに後悔しています。
この映画の第一の魅力が、渥美清をはじめとする登場人物の演技や、山田洋二の脚本と演出のすばらしさであることは申し上げるまでもありません。また、折からの「列島改造ブーム」により、消えゆきつつあった全国各地の美しい風物の数々・・・。それに加えて、私があらためて一番感心したのは登場人物達の言葉の美しさです。
東京下町の「べらんめえ調」の寅さんの言葉遣いは、普通の意味では決して「きれい」な言葉ではありません。しかし、映画の中で交わされる会話が、これほど人の心を誠実に伝え、或いは、人を思いやる言葉遣いにあふれているということに、封切られた当時は全く気づきませんでした。私は、「月9」も大好きで、今上映中(今週終わってしまいましたが)の妻夫木君や深津絵里の使う日本語も嫌いではありません。ですから、一概に昔の言葉遣いは良かったなどと言うつもりはありませんが、それでも、寅さんを見ていると、やはりこの映画に登場する人たちの言葉遣いは際だって整っていると思います。
電車の中で、不正確なイントネーションと仲間内だけに通じるような言葉遣いで会話を続けている若い人を見ると、私は、少し暗澹たる気持ちになります。それは、私が時代から取り残されつつあるからなのかもしれませんが、それでも、何と言っても、正確で美しい言葉遣いは大切だと、私は思っています。そのためにも、あの時代、いわば「庶民代表」の寅さんとその仲間たちが、あんなに高い会話能力を持っていたことは忘れない方がいいような気がしています。
以上の私の説が「本当?」と思われた方は、是非一度ご覧になって下さい。そして、人の心を打つ言葉というものについて、思いをめぐらせてみては如何でしょう。放映スケジュール等は、下記のサイトにあります。
http://www.nhk.or.jp/torasan/main.html
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